一昔前、パソコンを使う多くの人たちの誰もが、フロッピーディスクを利用していました。会社の中でも、役所や学校、病院の中でも、様々な場所で情報を記録する媒体として活躍していた黒くて四角いフロッピーディスクですが、2011年の3月に最後まで生産の続いていた3.5インチフロッピーディスクの生産が終了したのをご存知でしょうか?技術の進歩と共に、記録媒体は世代交代し次々に新しいものが出てきます。そんな流れの中、フロッピーも静かに、その役目を終えようとしているのです。
私たちゲーム保存協会は、旧世代のデジタルゲームを扱う中で、フロッピーディスクやカセットテープなどのメディアを数多く取り扱っています。ゲームの場合は製作した企業の倒産や統合といったバブル崩壊後の混乱の中で、マスターデータは失われ製造上の資料も散逸していることが多く、次世代にゲーム資料を残すプロジェクトを進めるために、手もとに残るこうした一枚一枚のフロッピーディスクの保管が非常に重要となります。
現在、私たちゲーム保存協会は大事なゲーム資料を専門的な技術で丁寧に解析し、文化財として継承に耐えうる適切な形での資料の保存に力を尽くしています。しかしながら、こうした作業にはどうしても時間がかかります。数千数万の大量のフロッピーをなんとか劣化させずに保存作業が終了するまで長期保管せねばならないわけです。
フロッピーディスクの保管については、これといって明確な条件が規定されてはいないのですが、各国の研究者たちの意見などを元に、ゲーム保存協会では次のような注意点を守るべきであると考えています。フロッピーディスクの保管技術についてはきちんとした研究がまだ為されていないため、あくまでも現段階でわかる範囲での最善の保管法の予測です。
1.埃を排除する
2.カビを除去する
3.保管時の湿度30%~35%(使用時の湿度は40%~50%)
4.保存時の温度は5℃~10℃(使用時は19℃~21℃)
※湿度、温度の上下降は相互に連動して緩やかにするべき
5.ディスクは立て向きに保管
6.磁場を排除する(磁化率>AC:5Oe、DC:25Oe)
7.激しい光、直射日光の排除
8.ディスクに圧力をかけないよう注意し、ラベルを貼らない
9.直接手で触れたり曲げたりしない(手で作業する際は角を持つ)
10.パッケージや通常スリーブとディスクを別々に保管(カビ除去機能を有するスリーブに入れて保管)
フロッピーディスクには8インチ、5.25インチ、3.5インチなど様々な種類がありますが、中でも私たち団体での所有数が多く、80年代のゲーム文化黄金期を伝える資料的意義の高い5.25インチフロッピーディスクは、保管方法に様々な問題を抱えています。
5.25インチフロッピーは非常に薄く、さらにカビも入りやすいため、注意して保管しなければ、ディスクの中身を救う前に物理的に壊れたり、修復不可能なまでにカビが生えてしまう可能性があるのです。80年代の資料には既に手遅れなほど劣化が進んでしまったものも沢山ありますが、ゲーム保存協会では一つでも多くの資料を救うため、フロッピーにとって最適な保管状況を実現できる保管庫の開発を専門の方々にお願いすることにしました。
フロッピーの長期保管は、まだ誰も考えていない未知の分野です。この難しい問題に一緒に取り組んでいただいたのが、株式会社日本ファイリングさんです。
株式会社日本ファイリングさんは、図書館や博物館の書庫や保管庫を作ってきた実績ある会社です。国立近代美術館フィルムセンターの映画フィルム保管庫なども担当されたとのことで、フロッピーについてご相談させていただいたところ、まだ誰も挑戦していないことですから是非やってみましょう!とご快諾いただいたのです。
フロッピーにとって好ましい条件は何なのか、それを実現するためにどんなものを使えばよいのか、株式会社日本ファイリング担当者さまと何度かやり取りをさせていただき、このたびついに、第一号試作品として5インチフロッピー保管用BOXができあがりました。
1箱に120枚、ディスクを立てた形で収納できるBOXは、大気中の窒素など様々な化学物質をはじく特殊な紙で作られており、その中には一枚一枚のディスクを安全に保管するための特殊スリーブが並べられます。特殊紙を使ったスリーブの中には、NASAなどでも電子部品などを包むために使われるインターセプトという特殊シートが入っており、フロッピーはこの中に入れられることで、外部のあらゆる物質から保護される仕組みです。使われている素材はほぼ半永久的に使用できるもので、長い期間安全にフロッピーを保管するにあたって、まさに魅力的なBOXです。現在はまだまだ試作段階とのことで、これから実用に向けた改良が加えられて行くことでしょう。
ゲーム保存協会が所有する大量のディスクが、よりよい環境で安全に保管されるように、これからも保管環境の改善や保管方法についての研究を進めて行きたいと思っています。20年30年という時の流れを生き残ってきた貴重なゲーム資料を、一つも無駄にせずきちんと管理して未来に残すため、ゲーム保存協会は多くの人と協力して真摯な姿勢で取り組みたいと思います。
現在、保管庫の条件などについて情報を収集し試行錯誤していますが、その他、フロッピーディスク内に既に発生しているカビをどのように除去するのか研究を進めているところです。
ゲーム資料の場合、企業側でマスターが保管されていないといった問題があるため、現存する主要な資料は一般家庭に残され、押入れなどで保管されていたゲームソフトやディスクになります。日本の気候風土の影響もあり、多くの資料が既にカビの被害を受けている状態で当団体に集められています。
磁気メディアのカビ除去については誰もはっきりとした意見を持っておらず、現在、早急に対応策や技術開発が必要となっているのです。
もしもこうしたメディアのカビへの対応の研究にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ問い合わせフォームからご連絡いただけると幸いです。
ゲーム保存協会 辻