ゲーム保存協会の福田です。
「ウルサイ人がこういうものを手に入れてしまうと何を始めるのか?」というレビュー、第二弾、後編。
前回から、PasocomMiniでのエミュレーションのメニューを一通り紹介している。メニューは7つあり、MACHINE、PCG8100、MEDIA、STATE、CONVERT、GAMEPAD、DISPLAY。前回は、「STATE」までだったが、今回は「CONVERT」からだ。
では早速、続きをレビューしていく。
CONVERT
ここではPCM(WAV)ファイルやT88形式のCMTイメージをCMT形式に変換することが出来る。
結構な目玉な機能と思ったが、色々と思わぬ問題があった。
パーティション1のFAT32のパーティションにある、CONVERTというディレクトリにファイルを置いておく必要があり、他のディレクトリなどは選択できない。
またMEDIAなどとは異なり、サブディレクトリは選択は出来なかった。
更にこちらも先程のMEDIAでの注意と同様に、日本語名や()などの記号が使えない。
まず、T88からの変換は問題なく、数秒で完了する。
#まあ、当たり前か?
問題はwavからの変換である。
今回、いくつか実験してみた。
別なレビューやインタビューにもあるが、基本的なフォーマットのN-BASICもしくはマシン語で600ボーのものだけしか変換できない。
しかしそういうものでも変換できないものがいくつかあった。
自分はもともと所有しているCMTは全てSANYOのMR-33DRで再生し、96KHz16ビット1チャンネル(左)という形式でPCM(WAVファイル)として保存している。
保存したWAVファイルは、既存のエミュレータ用ツールでCMT形式などに変換し、エミュレータでの使用を確認するなどしてチェックしていた。
今回、CONVERTの機能をチェックするに辺り、既に保存済みのWAVファイルを用意した。
試してみたソフトはこれら
ツクモのスーパーインベーダー、富士音響のスーパーペンギンとスーパーゴリラ、電波新聞のDigDug、内藤時浩さんのNew CITY HEROだ。
まず、これらのテープや作成していたWAVファイルに問題がないか、通常PCでのCMTへの変換を再度チェックした。
具体的なツールはhal_8999さんのj80エミュレータ用ユーティリティであるcmt8001 r6_12 Version6.4.2を使用した。残念なことに現在は配布が見合わせられてしまっている。
またWAVファイルを48KHz、8ビット、1チャンネルに変換した。
この環境で、今回用意したテープとWAVファイルが殆ど一発で変換できた。多少のフィルター調整が必要だった程度で、フォーマットも含めて問題なく変換され、変換に必要だった時間は1ファイルあたり、おおよそ3秒程度。
#ここ重要
作成されたCMTファイルは、PC上のエミュレータj80でも、PasocomMini PC-8001でも動作することを確認した。
変換されたCMTファイルと元のWAVファイルはSDカードへコピーしておき、その後CONVERTの機能を使用してみた。
事前のインタビューでは、ある程度のサンプリング周波数、量子化ビット数に対応しているという話であったので、通常のマシン語ブロックのみのNew CITY HEROのWAVファイルを、いくつもの形式に変換した。
その他のソフトについては、cmt8001で変換可能であった全く同じファイルを(
48KHz8Bitモノラル)をSDカードへコピーした。
まずどのようなWAVの周波数などに対応しているか確認するため、NCHのWAVファイルを変換してみた。
先程の写真のファイル名を見てもらうとわかるが、22050Hz、441000Hz、48000Hz、96000Hzで8ビット、16ビットの組み合わせであった。
いくつかの結果を写真も含めて掲載していく。
96000Hz、16ビットのwavはファイルサイズが181MByteある関係もあるのか、Mermoy Over Errorが出て変換出来なかった。
このため自分が通常保存している96KHz16ビットモノラルのWAVファイルは基本的にそのまま変換できない可能性が高いと考えられた。
#NCHは片面15分のテープでしかない。
そして、96000Hz8ビットとcmt8001では問題なく変換できた44100Hz8bitがいずれもInvalid formatとされ変換できなかった。
ちなみに一度変換ができないファイルとなってしまうと、文字が灰色になり、本体の電源を入れ直すなどしないと、選択することができなくなる。
それ以外のフォーマットは問題なく、同じCMTファイルが生成された。
確かに様々な周波数、ビット数に対応しているようだが、どうやら44100Hz以下の16ビットか8ビット以下のファイルが良いのではないかと考えられた。
次に変換に掛かった時間を見てみる。
22050Hz8ビットのもの、10分58秒(10秒じゃない)
44100Hz16ビットのもの。21分45秒。実機で読み込むより遅い
48000Hz16ビットのもの。23分41秒。当然遅い。因みに8ビットのものとは7秒程度しか変換時間に変わりがない。
はっきり言って、ものすごく遅い。
普通にCMTを読み込むよりも時間が掛かっている。ファイルサイズが小さい22050Hzなどのものは、変換時間も短く済んでいるようだがそれでも10分以上とcmt8001と比較した場合100倍以上時間がかかる。
次に多少変則的な多段ロードを行うテープはどうなるかやってみた。
結果はこの通り。
Hogehoge.wav.cmtとなっているファイルがCONVERTで変換したファイル。hogehoge.cmtがcmt8001で予め変換したファイル。
同じだったものはスーパーゴリラだけで、生成されたCMTファイルはローダーのみ変換されたものが殆どで、全く使えなかった。
またテープが劣化していてcmt8001では多少エラーが見られるテープをエラー補正しながら変換できないかやってみたが、こちらも全く変換出来なかった。変換精度が高いとは言い難いと感じた。
このようなことから、そもそも直接wavに録音することが出来ない環境で、更には変換時間、変換精度、対応フォーマットも少ないCONVERTを使う意味は全くないと言わざるを得ない。
結局は通常のPC環境下でWAVに録音、サンプリング周波数や量子化ビットを変換、さらにツールでCMT形式とした方が、対応フォーマット、変換時間、精度など、明らかに有利である。
GAMEPAD
これはUSB接続されたゲームパッドをキーボードに割り当てるものだ。
パッドなどを使う上で絶対に必要なのがUSBハブである。
キーボードとパッドなどであれば、一般的にはバスパワーのものでも大丈夫かもしれないが、本体への電源供給が心許ないのであれば、セルフパワーのハブを用意しよう。
自分はセルフパワーのものをラズパイでは使っている。ここへゲームパッドとキーボードを接続。
ゲームパッドはデジタル入力のものがあれば十分だろうと思ったが、ここで少しハマった。
デフォルトの設定で上下左右に割り当てられているX軸、Y軸がどうやらアナログのゲームパッドを想定して設定されている。
デジタル入力のゲームパッド(写真のようなサターンパッドなど)を使う場合、このX軸を0、Y軸を1に設定すると、上下左右の入力に割り振られた。
ボタンのアサインの変更だが、カーソルで変更したいパッドの方向もしくはボタンを選ぶ。
現在の設定されているキーボードのキーが選択された状態になるので、新しく割り当てたいキーまでカーソルで移動。
そこでEnterで割当を確定後、SAVE PARAMETERSを選んでEnterで確定すると反映される。
今回、アナログのパッドが時間的に用意できなかったので、X軸、Y軸をアナログに設定する方法は検証していない。これは各自試してほしい。
DISPLAY
これは表示を変更するモードである。
4つの表示モードがあり、それぞれは写真のようになる。
これがNORMAL
DOTbyDOT
ZOOM
そしてFULL
またカラーパレットを変更できるようになっており、ボーダーのカラーやそれぞれのカラーを変更可能だが、これは特に変更する必要はないかと思った。
と、現状でのPasocomMiniでのメニューを一通り紹介してみた。
んで、
Raspiなんだから、好きにさせてくれ!(ムリ)
ただのパソコンミニPC-8001としてだけ使うならこれでもいいが、使いやすくしたいとか折角だし色々やりたいとおもうでしょう?
#自分だけ?
といういわけで色々とイジってみようとしてみた。
結果から書くが、ぶっちゃけ色々とクラックすることになるので、オススメできない。そういうつもりでPascomMiniを使わないほうがいいのではないかと思う。
なので、簡単にできたところだけ紹介する。
PC-8001なんだからHDMIじゃなくでブラウン管だろ!という、自分みたいな人。
RaspiZeroには標準でビデオ出力が出ているので、これを使えるようにしてみる。
ラズパイの場合は/boot/config.txtで環境を設定する。BIOSというかデバイスの設定のような感じ。
/bootとなっていないが、FAT32のパーティション1の側が/bootとしてマウントされる。
この中のconfig.txtを編集する。
#hdmi_force_hotplug=1
のところを書いてあるとおりコメントアウトする。
次にsdtv_modeを日本のNTSC出力へ。
sdtv_mode=1
こんな感じ。
次に基板にRCA出力を取り付ける
PasocomMiniの筐体からラズパイを取り外し、基板だけにして、はんだ付け。当然、電源やSDカードは外しておく。
右上のTVと書いてあるスルーホールの所が、所謂ビデオ端子の出力だ。
この写真の向きで、上がGND、下が信号ね。
一応、保存協会へ贈答されたものなのだが、他のメンバーも使うので、ちょっと優しく改造w
さて、起動してみる。
ブラウン管で出力された。滲みもいいねw
画面サイズの調整など必要だが、使える感じ。
問題は収録ソフトやリファレンスなどの表示。はみ出てしまう。まあそうか。
もう一つ、致命的な問題。音声が出力されない。
RaspberryPi ZEROにはPWM出力を利用して、本体の音声出力が可能なのだが、これを設定するためには、一旦コンソールでログインする必要がある。
で、そのためにはユーザーアカウントのパスワードをクラックする必要があったりする。
さらに辺にいじると、PasocomMiniがクラックされたことを検知してしまい、数秒でシャットダウンしてしまう。
そんなわけで、本当は色々できるハズ(BluetoothのキーボードとかWifi接続とか、USBオーディオでの録音とか)のラズパイだが、普通にはそういう使い方ができない。Raspi-configを起動できると、SDカードの容量までパーティションを自動で拡張できるがそれも使用できない。
容量ももったいないし、残念である。
#実はかなり色々やったw
ここまで、全くPC-8001と関係ないことばかりしてきたので、そろそろ真面目に遊ぼう。
変換したソフトは大抵が良好にエミュレーションされた。しかしエミュレーションに問題があるソフトもあった。
内藤さんから分けてもらったNew CITY HEROがそれだ。
5面終了後のボーナスステージでフリーズする。
今後の参考のために、フリーズしたところを動画にしてみた。
#別な方のイメージでも確認済み。j80では同じイメージで問題ない。
まだ微妙に不完全なエミュレーションなのかもしれないが、完璧なエミュレーションというのは難しいだろう。発売後は多くのユーザーから色々なデバッグ情報が寄せられて、優れたエミュレータに改良されていくことを期待したい。
結局どうなのか?
最後に自分がどう思っているか、正直に書いてみようと思う。
まず今回PasocomMini PC-8001が世の中に登場できたことは、HAL研の取締役所長・三津原敏氏と、開発担当ディレクターの郡司照幸氏を中心とした非常に多くの方々の情熱によって成し遂げられたことだというのは、皆が感じているだろうと思う。
一方で世界にはPC-8001という機種だけを見ても、多くのエミュレータが有志の手によって作成、メンテナンスされながら現在も発展している。
それらエミュレータに携わる個人やチームの努力は計り知れないものにもかかわらず、殆どがボランティアベースで進んでいることは驚愕するばかりだ。
その様な努力にもかかわらず、エミュレーターを取り巻く問題がグレーとみなされることもあり、非常に悔しいと自分は考えている。
今回のPasocomMini PC-8001はこの点が大きく違う。
NECやマイクロソフト、当時の開発者、ゲーム制作者、メーカーなどがオフィシャルとして認めたエミュレーター、製品であるという点は非常に大きい。これを実現するための、労力と情熱こそ、本当に計り知れないものだと思う。
であるならば、今後はエミュレーターとしての再現性と使いやすさをユーザーとしては切望する。
PC-8001誕生から40周年であることの記念限定品、コレクターの興味をそそるものという点は、これ以上ない出来である。
しかし常用に耐えられるPC-8001のエミュレータとして見た場合は、世界に数多あるエミュレーターと比較した場合、現状では不完全と思わざるを得ない。
折角のRaspberryPi ZERO WHを使用しているにもかかわらず、WifiやBluetoothが接続できない。
それにより、CMTイメージやカセットテープからの録音にいちいちSDカードを取り出して、別なマシン上で操作し、戻さなくてはならない。
そしてその変換精度や変換速度も既存のエミュレーター用のツールには全く及ばなかった。
カセットテープもCMT形式だけというのがもったいないと思った。例えば起動方法や操作方法、スクリーンショットなど、収録されているゲームのランチャーのようなメモを自分で作成したり保存できるようにすることは出来ないだろうか?
画面のキャプチャーや動画での記録もエミュレーターなら可能なのではと思う。
エミュレータ上で実装が困難でもラズパイであれば、Linuxのコンソールから可能だ。しかし、プロテクトのためでもあると思うが、開放されていないので不可能である。
これまでに発表されている他のレビューを見てもわかるが、表示されたモニターを写真撮影して使っているものが殆どだ。
画面もHDMI対応は素晴らしいが、ブラウン管の様なエフェクトはなく、キレイなPC-8001の画面が表示されるだけだ。
ブラウン管での滲みも味があると思うのは自分だけだろうか。
他の周辺機器はどうだろう?フロッピーディスク、プリンター、ライトペンなどなど、未対応である。
キー入力もキーバインドの変更ができない。またADVを遊んだりする場合やプログラミングに、当時なら常識だったカナ入力が求められる。これをローマ字入力で対応するようにはできないだろうか。
更にオフィシャルであるならば、PC-8001や収録ゲームのマニュアルなどは揃えられないだろうか?実際にプログラミングする環境ではないのかもしれないが、クイックコマンドリファレンスでは全く足りない。PCG-8100のマニュアルやアプリケーション(PCGAIDなど)の提供はないのか?
OLION80などはマニュアルがないと、何をやっていいか全くわからないゲームと思われる。
エミュレータの再現性にも問題のあるソフトが見られた。販売方法に不満の声がある中、このままでは昨今のクラッシックミニという復刻商品郡で酷評される商品があったように、不満の声が高まる可能性があると思われる。HAL研からはアップデートを用意するというプレスリリースもあるので、このような不満に対して今後の対応を期待したい。
ここまでかなり辛辣なレビューを書いてしまったが、それを補って余りあるほど、マイクロソフトのN-BASICと16本もの当時のゲームが収録されたPC-8001が、発売から40周年という節目にPasocomMiniとしてオフィシャルリリースされたのは本当に素晴らしい。
このレビューを記載している9月初めの時点で、既にNECの「LAVIE Pro Mobile 500台限定 PC 40th Anniversary Edition Premium Packageobile」は在庫がなくなってしまっている。
それほど注目されるPasocomMini PC-8001。
今回レビューの機会を頂いて、本当に嬉しかった。
ウルサイ人なりに、きちんとしたレビューをしたかったので、この様な内容になってしまった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次のメンバーのレビューへ続きます。
ゲーム保存協会 副理事長
福田 卓也