特別講演「伝説のゲームクリエイターに聞く」第5弾を終えて

2024年8月3日、実に5年ぶりとなるゲーム保存協会主催のイベント「伝説のゲームクリエイターに聞く」第5弾を、エインシャント代表取締役社長の古代祐三さんをお迎えして、上用賀アートホールにて開催させていただきました。
2019年8月に宮路洋一さんに講演頂いた後は、世界的なコロナ禍となり様々なイベントが中止や延期となるという状況が続いていました。そのため保存協会でもドキュメンタリーとしてインタビューを行うなど異なる方法を模索していましたが、ようやく世の中も安定を見せ始め、今回このように再開できたことは非常に喜ばしいことです。

8月3日は猛暑日となる気温でした。午前に正会員による保存協会の年次総会を行い、会計報告、いくつかの議題や解決が必要な問題の確認を行い、滞りなく終了しました。
イベントは13時会場、13時30分より開始というタイムスケジュールでしたので、参加いただく皆様には事前に熱中症対策を呼びかけるとともに、再度感染拡大が指摘されてきておりましたので、会場内でマスクをお配りするなど対策を行っての開催としました。
110名程度のお席を用意いたしましたが事前予約で満席となってしまい、また参加頂いた方は殆どが保存協会のサポーターの方でした。この5年の間でも更にご賛同いただいている方が拡大しているということを実感できた次第です。

講演は3時間の予定でしたが、事前に古代さんから「いつも喋りすぎて時間が足りなくなります。」と言われておりました。そのお言葉どおり、お話も非常に興味深く、結果的に30分延長して3時間30分という長時間の講演となりました。

テーマは「古代祐三さんの携わったゲーム」

今回自分がフォーカスしたものは古代祐三さんの携わったゲームについてです。

多くの方がご存知のように、古代祐三さんといえばゲームミュージックコンポーザーとしてご高名であり、今までにも多くのインタビュー、イベントに登壇されておられます。
事前に今までのインタビュー資料を調べていたのですが、古代さんが原案や企画、バランス調整などを行ったエインシャント開発のゲームについては、あまりフォーカスされていないという印象を持ちました。
実際にそれらのゲームをプレイすると、何れも非常に手触りが良く、秀逸な作品ばかり。ゲーム保存協会としてはそれらの情報を残しておくことも重要と思い、今回は切り口を多少変えたインタビューに望みました。

幼少期のころからお話を始めさせていただきました。
ピアノやクラッシック音楽を学ばれている一方で、ゲームとの出会い、PC-8801の購入などのお話。やはりかなりのゲーマーでスライドに使用したゲームはすべてプレイされておられました。
HARVESTに参加され、制作された同人作品についても触れさせていただきました。特に当時発表されなかったVariant7はかなりの力作で、グラフィック以外はプログラミング、作曲なども殆ど古代さんが作成されたということ。ゲーム自体もかなりな難易度でしたが、完成度は高く、ぜひどこかで完成させていただきたいと思いました。

マイコンBASICマガジンの連載については、どうして連載を中断することになったのかをお伺いしたところ「Yu-You(永田英哉)さんやGORRY(後藤 浩昭)さんが出てこられて、もう自分はいいかなって思った」ということでした。

日本ファルコムでのお仕事は、ドラスレファミリーの制作環境、イースのときは石川(三恵子)さんの曲もSPLITへ打ち込んだのは古代さんであること、橋本(昌哉)さんのコードでZ80を勉強したり、色々と教えてもらったりしたということで、そのプログラム技術がMUCOM88のドライバー作成に生かされているというお話でした。

フリーとなられた後のクインテット、マインドウェアのお話を経て、セガ メガドライブのお仕事をされるようになった経緯についてもお話いただきました。雑誌BEEPライターの方からの繋がりでセガのお話が始まったということでした。
ゲームギアでのソニック制作でエインシャントを設立され、その後はベアナックル2の制作。

ゲームギアでのソニック制作を機にエインシャントを設立され、その後はベアナックル2の制作。
ベアナックル2は当時のセガ中山社長にストリートファイター2を超えてほしいということを言われて作成された作品であり、メガドライブのランキングでは最終投票結果でもメガドライブ版で何れのストリートファイターよりも上位のランクでした。
そのときに作成された未公開の資料もお持ちいただき、講演の休憩時間にご参加いただいた方に閲覧いただけるようにさせていただきました。

ベアナックル3ではM98での作曲のお話もありましたが、本当はゲーム自体も作りたかったのに、それはやらせて貰えず残念であったということでした。ベアナックル3をエインシャントで作られたら、また違った作品になったのではないでしょうか。
その続きとして、キャンセルとなった作品についてもお伺いしました。Stick man is back、アンジェラス2、ベアナックル4といった知られている作品について、背景をお聞きすることができました。

どうしても外せない作品として「シェンムー」のお話。
エインシャントの殆どすべての開発人材を投入することになり、当初はセガに通って制作していたが、最後は近くのホテルから通う形になったこと。セガ本社サウンドブースという慣れない環境で作品づくりや鈴木裕さんとのやり取りなど、シェンムーについて話しをしたら1日あっても足りないということでした。

その後に暗黒時代となってしまった時期のお話。
一番の契機は、自分の思う通りに作曲したものが評価されていた時代から、次第に求められるものを作らなければならない時代に変化し、その乖離で迷いが強くなったことが原因だったということのようです。
その時代はFPS、特にHalfLifeとTeam Fortress Classicにハマってしまったということ。サーバーを立ち上げてプレイする程にハマり、そこでLinuxやサーバーの技術を覚えたということです。
朝、社員が出社したら部屋からプレイしている音が聞こえてきていたというぐらい、ハマってしまって、作曲などの仕事からは離れていた時代ということです。

しかしその後の古代さんの復活は皆さんの知るところでしょう。
湾岸ミッドナイト、世界樹の迷宮など20年近く続くシリーズ、前作を超える楽曲を作成し続けていることなど、とても暗黒時代があったとは想像できませんでした。
ご本人も湾岸ミッドナイトや世界樹の迷宮などの時代のもののほうが音楽的に非常に向上してきていると考えている、ということでした。
理由の一つとして、作成環境がPC1台で完結するような時代に戻ったことが大きいとのことです。

古代さんの原案や作成されたゲームとしては、メガドライブのザ・ストーリー・オブ・トア、セガサターンのTHOR 精霊王紀伝、バトルバ、ゲームキューブのカイジュウの島、PSPの家庭教師ヒットマンREBORN!バトルアリーナなどについてお伺いしました。
メガドライブのトアがエインシャントの自信作というお話は、当時プレイしていた自分も完全に同意します。精霊のシステムや謎、ギミック、アクションなど古代さんの考案ということ。メガドライブ後期の作品ですが非常に面白い作品でした。

私としてはサターン版のTHOR、バトルバの両作品については、もっと時間を使ってお話が聞きたかったのですが、サターンの音源メモリーが少なくて苦労していることなどをお伺いできました。
カイジュウの島は当初アーケードでカイジュウを作成してネットワーク対戦できるような企画であったことやセガサターン版を作成したことなど、全く知らないことをお聞きできました。
家庭教師ヒットマンREBORN!バトルアリーナについては、やはりストリートファイター2をやり込んでおられる手触りの要素がバランス調整に生かされていると思いました。

現在制作させれているアーシオンについては、「実際いつ頃発売?」昔の雑誌にあったような「制作進捗度でいうと何%?」をお伺いしたところ、(講演当日時点では)通しでプレイ可能が50%ぐらい、2025年初頭には発表という予定で進んでいるというお話です。
とても楽しい環境で制作できており、音の確認環境として、はダイソーの「USBミニスピーカー 3W×2」がマッチしているということでした。これは非常に楽しみです。

古代さんへの質問

一旦休憩を挟んで、いくつか作品とは別なことをお伺いしました。

音楽や楽器を学び直したいとおもうのか?
筋肉はすべてを解決する。
好きな音源、嫌いな音源、SoundBlasterなどは?
得意なプログラミング言語は?
当時のファンからの声はどうだったのか?

などなど、あまり古代さんのインタビューでは話されていないことについて、色々とお教えいただきました。
自分として興味深かったことは、作曲したものを一晩寝かせて翌日聞いて良いか判断するが、時間的成約などからイマイチと思ったものでも、周囲の評価が良いと後から自分でもやっぱり良かったと思うこともあるという話。古代さんでもその様に感じるのだなと思いました。

最後に古代さんにとってゲームとは?という質問。
「自分からゲームという代名詞をとってしまったら、ただの作曲家になってしまう。
音楽とゲームは、人生の大部分を締めている、自分の人生で一緒に来ているもの」
というお言葉をいただきました。

会場からいくつかの質問をお受けする時間も設けることができました。その中で、ご自身が作られた曲のアレンジについてどう思われるか?という質問がありました。羽田健太郎氏による交響曲「ソーサリアン」だけはアレンジとして非常に良いと思っているということを言われていたのが印象的でした。

最後に

古代さんとお話をさせていただき、作曲家という一面以上に、ゲームミュージックプログラマーであるし、何よりゲーマーであるということが確認できた、非常に興味深い講演であったと感じました。
長時間に渡りお話を頂いた古代祐三さんに感謝させていただくとともに、イベントへご来場、参加くださった多くの方々、活動へ賛同いただいておりますサポーターの方々へ感謝いたします。

公演終了後には例年ですとサポーターの方々と懇親会を行っておりましたが、会場の都合や感染の拡大傾向であることから、今回は見送る形となりました。こちらに関しては、やはり交流の場がほしいという意見も多く、次回以降は再開できるように検討してまいります。

ゲーム保存協会はゲーム保存活動や研究のみならず、講演などを通じてゲームの歴史を掘り起こし、伝えていく活動も精力的に開催させていただきたいと考えております。こうした取り組みはサポーターの皆さまからのご支援により実現するものです。これからも活動を継続できるよう励んでまいりますので、今後ともご協力の程どうぞよろしくお願いいたします。

ゲーム保存協会 福田卓也

 

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