南青山アドベンチャーby 古い男氏
アスキーより1983年4月に発売
眠りを妨げる者
ボツを苦にして、自ら永い眠りに入った男・・・ このコールド・スリープ用カプセルの中で昏々と眠り続ける男の事を、俺はそう聞いていた。 俺の任務は、そういった男達の鬱々としたア・スキー社への恨みを上手に焚き付けて、あのア・スキー社最高顧問、西崎郡一郎の邸宅へと送り込み、日本の誇る巨大企業である同社に対して、何らかの破壊工作によりダメージを与える事だった。
「毒をもって毒を制す、って事ですか?」 そう笑いながら話しかけてくるのは、コールドスリープの管理技師だ。 俺はそのジョークに愛想笑いを浮かべ、高い金を払っているにしても、依頼した事以上のサービスは結構だ、と心の中で毒づいた。
選ばれし男
最初にコールド・スリープから解き放ったのは、妙に自信家の男だった。
ガシャ! 「あれ?」
突然、瞬時にお釜はシャッターでフタをされ、慌てふためく男を中に入れたまま、高熱の炎がお釜を熱し始めた。
その男は、辺りをぐるうりと見回すと、正面玄関を見据えながらニヤリとほくそ笑み、・・・これだけの屋敷だ。 きっと相当な防犯設備が待ちかまえているに違いない。そんな場所に真正面から挑むのは、自分に言わせりゃ愚の骨頂だね。と言わんばかりの態度で、飄々と屋敷の裏側に向かって歩き出した。
裏へ回ると、古風な井戸の横に、手頃な勝手口らしきものが見えた。 早速、扉を開けて中に忍び込むと、そこは広い台所だった。
台所の中には、石造りの大きなカマドと、その上には巨大なお釜が乗せてある。 その見事な大きさに、感心したように中をのぞき込む自信家の男。 これはいわゆる「五右衛門風呂」にもつかえそうなサイズだが、中には生憎何も入っていない。
ここで自信家の男は何を思ったか、ちょっとした遊び心のつもりで、よっこらしょ、とお釜の中に入ってみた。 お釜には人一人すっぽり楽に入る。思えばこれが彼の運命の分かれ目だった・・・
「ぎゃあああああああああああ」
自信家の男の、悲痛な断末魔の叫びも空しく、その大釜には次のような文字が表面に刻み込まれていた・・・「Spy Trap」と・・・
第2の男
「え? もう次の冷凍者を解凍してくれですって? 前のはどうしたんですか?」 「前のは茹であがってしまったよ。」 「・・・・・・」 やれやれといった手振りで、管理技師が次に解凍したのは、痩せた神経質そうな男だった。
FIRE ! FIRE !
いきなり倒れたあんどんから、油が四方にまき散らされ、炎がアッという間にあたりに燃え広がった。 「うわーーー」 木造建築は、痩せて神経質そうな男の想像以上に火の巡りが早かった・・・
その2番目の男は、うかつに屋敷内の物をいじるような事は極力さけ、先ず屋敷内の間取りから地道に調べていった。 当然、最初から所持しているペンライトでは、長時間の探索には心許ないものがあったが、それは寝室で手に入れた「あんどん」が十分にその代わりを果たしてくれた。
だが、持ち物は順調に増えつつも、やはりこのままでは劇的な進展は望めない。 一向に新しい発見が無いまま、いたずらに時だけが過ぎてゆく。 いらつく痩せた男。「ちっ、全くどうなってんだこの屋敷はっ」 そう叫んだ彼は、床に置いた「あんどん」を軽く蹴り上げた。 ゲシッ。
3番目の適格者
「え? また別のをまわして欲しいって?」 男は驚いた表情で言った。 「前の男は・・・」と言いかけたが、管理技師は黙ったままだ。 恐らく察しが付いたのだろう。
その太った男は体に似合ない細々とした動きで、屋敷内の各部屋を順調に、かつ慎重に調べていった。 その行動の裏には、前任の男達の哀れな末路を知らされていたせいもあったかもしれない。
「あっ」
太った男は、ついうっかりと梯子にこびり付いた苔に足を滑らせ、井戸の奥深くへと真っ逆さまに落ちていった。 「いててて・・・」 幸い、落ちた事による怪我は無いようだったが、周りは石組みがビッシリと隙間無く積み上げられていて、これは太った男にとって極めて絶望的な状況だった。
「前の痩せた男は意外に短気な一面があって、それが墓穴を掘った。 だから、今度はもっと鷹揚な男が欲しい。」 俺のその要求に管理技師は、太った男を用意することで答えてくれた。
こうして彼がたどり着いたある部屋、そこは、ガラス張りの小さな日照室だった。 真ん中には、コタツがデンと鎮座してある他には、何もない。 たまたま東北出身だったその太った男は、そのコタツを懐かしく思い、中に足を入れようとコタツ布団をめくり上げてみた。すると・・・ 布団の下から現れたのは、堀コタツとしては少々大きすぎる空間だった。 さらにそこから北側へと地下通路が延びているのが見える。
手持ちのペンライトの電池が少々気にはなったが、意を決して太った男は、その長い通路に足を踏み入れていった。 半分は未知なる領域への不安、もう半分は新たなる道程への好奇心。 そんな感情が、太った男の足を前へと進ませていく。 だが、突き当たりに着いてみると、そこは庭にある井戸へと繋がっていただけだった。
途中から上に伸びる梯子をよじ登り、一度地上へと顔を出した太った男は、井戸の縁に腰掛けながら、夜のヒンヤリとした空気を肺一杯に吸い込んだ。 出口がココだったのは残念だが、これでまた一つ発見があったと気を取り直し、再びもと来た道を引き返そうと井戸を降りようとする・・・その矢先・・・
何度か無駄な試みを繰り返す太った男だったが、それも、ペンライトの電池が切れる、あと数分の努力で終わるだろう。 彼にはもう、ここで来るはずの無い助けを待つ以外に出来ることは無かった・・・
ジャニー○タレントのマラソン
「南青山アドベンチャー」は、日本初のテキストアドベンチャーとして有名な「表参道アドベンチャー」の第2弾として企画され、月刊ASCIIのパロディ版であるAhSKI!誌の特集を飾ったアドベンチャーゲームです。
先ず何より、情報量の少なさと、テキスト故の描写の限界から何事も手探りで進まねばならず、小説並の文章量と描写力で他を圧倒したインフォコム社のテキストアドベンチャー等とは良い意味でまるで違います。 さらには、一体何に使うのか見当も付かないアイテム、そしてダミーの多さ・・・ 忘れかけていた、初期のアドベンチャーゲームの理不尽さを思い出させてくれるには十分でした。
文章:古い男氏
「南青山アドベンチャー」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社アスキーに帰属します。
ですから、当時かなりの人がプレイしたゲームであろうことは想像に難くありませんが、同時に、デス・トラップ満載の凶悪なゲームデザインや、一度ゲームオーバーになると問答無用でTAPEの再ロードを要求する愉快な仕様が、このゲームを高難易度のいわば「伝説」として有名にしている一因でもあります。
そんなゲームを最近、ハード性能の進歩により正に「リベンジ」する機会に恵まれたのですが、「どうせ再ロードの問題を克服すれば、トライ&エラーで解くことが出来るだろう」と、タカをくくってこのゲームに取り組んだのが大きな誤算でした・・・いや、本当に・・・
そして・・・敵の忍者との死闘を経て、ついに「密書」を手に入れる事に成功したのですが、そこから先がさっぱり進展せず、「あれ? それで、どうしたら終わるの?!」と、その後、延々と屋敷内を彷徨う羽目に陥ること数日間・・・ 結局、長い沈滞期間の後、某氏の内部解析により○○○を○れる事が判明、それがブレイクスルーとなりました。 まるでジャニー○タレントのマラソンの様な、多少卑怯な手段を用いたのが心底悔やまれますが、今でも、あの時はもうああするより他に選択肢は無かったのだ、と強く信じたく思います。 そんなこんなで、幾多の紆余曲折の末、ようやっと終了画面を見る事が出来ました。
いずれにせよ、理不尽な展開の多かった昔のコマンド入力アドベンチャーの中でも、トップクラスの難易度を誇るこのゲーム。 自他共に認めるマゾ気味のアナタや、最近の「目をつぶってボタンを押していれば終わる」的なゲームに辟易しているアナタ、そんな時は是非、この作品をプレイしてみなさいって。 きっと最後には、涙を流して最近のゲームの「当たり前に解ける喜び」に感謝することになるでしょうから。