ミステリーハウス(スタークラフト)


スタークラフトより1983年4月に発売


ミステリーハウスの誕生

「ミステリーハウス」はアメリカ生まれのゲームで、それまでのテキストのみのアドベンチャーゲームに最初に絵(線画)を入れたゲームと言われている。作者はケン&ロバータ・ウィリアムズの夫妻(写真)で、妻のロバータが書いたシナリオを、夫のケンがプログラムして作ったものと言われている。妻のロバータは、自分の書いたアドベンチャーゲームのシナリオに、ケンが興味をもってくれなかったため、アドベンチャーに絵を入れることを提案したと言われている。

「ミステリーハウス」のシナリオは、その時代を考慮すればかなり優秀な部類に入るだろう。ゲームを開始すると不気味な屋敷が自分の前に建っている。その屋敷に入ると、男女7人がホールにいる。この人たちは、屋敷にある宝物の入った箱を見つけるために集まった人たちである(もちろん自分もそのひとり)。そして何かコマンドを入力すると、彼らはホールから姿を消し、各々宝物を探し始めるのである。そして次に彼らに出会うときは、そのほとんどが死体となって発見される。宝物を一人占めしようと7人のうち誰かが殺人を犯しているのだ。これがこのゲームが単なる宝探しゲームではない「ミステリー(推理)」と題する由縁なのだろう。

※「ミステリーハウス」が世界で初の絵付きアドベンチャーゲームという事実について、筆者は本当かまだ疑っている部分がある。ミステリーハウスのシチュエーションやトリック自体の出来がよく、最初にでたものとは思えないのである(実際、日本で発売された初期のアドベンチャーゲームで、ミステリーハウスを超えるような内容のものがどれほどあったのだろうか)。しかし、ゾークなどのアメリカでのテキストアドベンチャーゲームの綿密なシナリオが、1979年の時点ですでに確立していたことを考えると、この事実はうなづけなくもないが。


無機質な線画

このゲームは画面が線画が描かれているため、なんとも無機質で怖い雰囲気がする。これはテキストアドベンチャーにも言えることだが、現在のポリゴンで妙にリアルな絵は、作者が押しつけた世界観をそのままプレイヤーが等倍で受け入れるため、みながその状況を共通の価値基準で見てしまう。それに対して、あまりにも情報が欠落したこの線画は、それを理解するために個人が勝手に脳で肉付けをする。つまり絵に対して数倍の情報を脳で考えるため、個人により全く異なった世界観を想像し、それに対して「怖い」という雰囲気を自分で作り出すのだろう。活字だけの"本"に近い感覚と言えるが、その雰囲気作りとは少し違う。本の場合はもっと情景描写が細かく、想像力をかき立てるという点では遥かに上だろう。
こんな考え方もできる。ミステリーハウスは他の表現媒体に比べれば稚拙で低レベルな絵だ。この絵の怖さは、"絵心の無さ(低レベルさ)"と"コンピュータ(ディスプレイのドット)という無機質な冷たさ"がミックスされて起きるのではないだろうか。つまり絵が下手だから怖いのである。顔がまともに表現できていなかったり、手や足の大きさが妙だったり、ともかく現実とはなにか異質な感じがするほど怖いと感じるのだ。ミステリーハウスはそんな異質な物体のかたまりである。
このような絵心がないアドベンチャーゲームは1985年あたりまで見られた。この時代特有のものとして、逆に希少かもしれない(単に当時の表現力が追いつかなかっただけの話なのだが)



ゲームのトリック

このゲームは、「名詞+動詞」で言葉を入力していくが、さして難しい言葉はない。その分トリックにヒネリがあるのである。たとえば、ゲームを進めているとあたりがだんだん暗くなってきて、しばらくすると画面が真っ暗になってしまう。そこでローソクに火を灯すのだが、この状態のまま台所に行くと火事が発生してゲームオーバーになってしまう。するとプレーヤーは次からは台所にいかないように移動するのだが、実はこれが心理をついた見事なヒッカケになっていて、この火事を消して床を焦がさないと、肝心のカギが見つからないのである。これは実にインテリジェンスな謎であり、こういうツボを押さえたトリックがミステリーハウスには随所に見られる。これ以後日本で登場したアドベンチャーゲームにこのような知的さを感じさせるトリックは、あまりお目にかかれなかったのが残念である(某「ATTACH CROSS」や某「コドモ タタク」などはトリックとは呼ばない。言葉当てクイズだ)。
また、ゲーム中にプレイヤーを狙ってナイフが投げこまれるというアニメーション(というには語弊があるかもれしないが)があり、この時代にすでに静止画の中に、リアルタイムな動きを取り入れていたというのも、見逃せない。


最後に

これだけの大作を83年という時期に移植したスタークラフトの功績は非常に大きいものである。日本の作品は、結局シェラのアドベンチャーを抜くことができなかったと思う。だが、85年以降、日本のアドベンチャーはアメリカとは違った独自に進化していくことになるのである。

参考文献:
ケン&ロバータウイリアムズの写真 電視遊戯大全より掲載

「ミステリーハウス」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社スタークラフトに帰属します。