ウィザード&ザ・プリンセス


スタークラフトより1983年5月に発売


ファンタジックなシェラの代表作

「ウィザード&ザ・プリンセス」(以下WPと略す)は、アドベンチャーゲームで最初にカラーの絵がついた作品として有名である。また、以後のアドベンチャーゲームを評価する上で、1つの基準となるゲームであったといえる。
ゲームの内容は、魔法使いに魔法をかけられて城に誘拐されてしまった王女を発見し、連れ戻すことである。この世界はファンタジーで満ちていている。お姫様、ヘビ、小人、小鬼、はたまた魔法の城、神秘的な森、南の島など、西洋の童話に登場するような世界が詰まっている。アドベンチャーゲームの醍醐味の1つは、非日常的な世界を、自分が主人公となって冒険や経験をしていくというものである。そのためにはファンタジーという世界は格好の題材であり、WPはいち早くそれを表現したゲームであった。



文字と絵

WPに登場する森、南の海、ヘビ、小人などは、幼い頃に誰もが読んだ童話に出てくるもので、実にほのぼのとしている。そんな子供にでも分かるような敷居の低さが、このゲームを大ヒットに導いたのだろう。インフォコムのテキストアドベンチャーが、膨大な説明によってその緻密な世界を「人間の脳」で作り出そうとしているのに対し、WPは誰の記憶にもある、ありふれた童話の1ページを、画面で見せることにより、ほとんどの人間が一瞬でしかも共通に理解できる世界を構築したわけである。要するに誰でも入りこめる内容であったということだ。絵はけっして上手とはいえない。しかし、当時絵の質はまだ重要ではなく、コンピュータでそれらを表現するということ自体に、新鮮さがあったのだ。



伝説的評価をされている現在

WPが日本で人気があったのは、誰にでも分かる絵と、冒険心をくすぐるその内容だろう。筆者も中学生のころ、雑誌に掲載されていたこのゲームに、大きな興味があったし、家でプレーできたらにどんなに楽しいだろうとあれこれ思い巡らせていた。しかし、発売当時に実際にこのゲームをプレーした人間は、WPを知っている人間の半分もいなかったと思われる。それはディスクドライブが普及していなかったためと、ソフトの値段が12800円もしたということとだ。それに実際にプレーした人も、さまざまなアドベンチャーゲームが氾濫した1984年以降に(要するにディスクドライブが普及したあと)プレーしたという人の方が多いだろう。筆者は1984年ぐらいだっただろうか、WPを無印のPC-8801でプレーした。その感想は一言「遅い」。どれくらい遅かったかというと、絵を描くのに2分。「ヘビ ミル」などのコマンドを入れると応答が返ってくるまで30秒(記憶なので誇張されているかもしれない)。筆者のWPに対する幻想はガタガタと崩れてしまった。
それでもWPが人気があったのは、雑誌の紹介記事があまりにWPを誉めていたという要素が多い。当時アップルのゲームといえば、「おもしろいに違いない」と誰が思っていたし、WPはそんなゲームの中でも、ひときわ高く評価されていたゲームだった。さらに紹介記事とともに、スタークラフトが移植した当時としては美しく、ファンタジックな画面が掲載される。アドベンチャーゲームすらよく分かっていない日本人にはあまりに強烈なパンチだった(そもそも描画する過程の情報は雑誌には載らないので、分かるわけがない)。

※ゲームが遅い理由
ゲームが非常に遅い理由はいくつかある。スタークラフトで、移植のときにアップル版にはない応答をかなり追加した。このため、単語データが増え、入力した単語を解析するのに時間がかかることが挙げられる(これは一概に欠点とは言えない)。また、グラフィックデータがシーケンシャルであるために(ランダムアクセスしない)、後半場面にいくほどディスクのシーク時間が延び、さらにラインやペイントごとにディスクアクセスするため、それによるタイムロスが目立つのである。



間違った基準

WPは、誰からも好かれる冒険物語であり、言葉探し型のアドベンチャーとしては、完成度は高い。そして日本の後のアドベンチャーゲームのお手本となった。しかし、それは同時に日本製アドベンチャーに、いくつかの間違った基準を植え付けてしまった。
まずシナリオという部分では、誰でも分かるファンタジー路線にしたために、おもしろみに欠けている。第1作目の「ミステリーハウス」の方がしっかり作られている。これは、ミステリーとファンタジーという分野の違い、それと密室と広大な空間という差から来るのだと思うが、WPの場合、具体的なシナリオというものはほとんど存在せず、ひたすらゴール目指して言葉を入力していくという、作業的なゲームになってしまった。後の日本のアドベンチャーは、シナリオをないがしろにした、このような形式をとっているものが多い。
また、WPにはアドベンチャーゲームでやって欲しくなかった要素がある。それは迷路だ。WPには、砂漠、海、城がすべて迷路になっていて、地図を書かないと正直つらい。WPはさらに描画がとても遅いときているので、同じような場面の続く迷路はウンザリする。この後の日本のアドベンチャーにくだらない迷路を含んだゲームがなんと多かったことだろう。
さらに、使ってみないと分からない、とても日本人向けとは思えない「魔法」、直訳したためにコマンドがぎこちない場面など、スタークラフトの移植にも問題があった。この言葉の"ひっかかり"が、後のアドベンチャーゲームの難度のステータスのようになってしまった。
ただし、トリックの面では秀逸な部分がある。たとえば、城の最上階でしばらくすると鳥が入ってくる。この鳥が入ってきた後に何もしないと、鳥が実は魔女という落ちで、あっという間に殺されてしまう。その前に猫に変身しないといけないのだ。また、橋を渡ると必ず転落してしまう場面がある。実は重量オーバーで、持ち物を魔法で向かいに移動させないといけない。こうした納得できる良質のトリックがうまく盛りこまれているのは評価したい。



最後に

WPは現在だからこそ、是非一度プレーしてみて欲しいゲームだ。今ならば、良質なエミュレータのおかげで画面は瞬間表示である。プレーしてみればこのアドベンチャーゲームが後の日本製アドベンチャーゲームにいかに影響を与えたか、ということがよくわかるのではないだろうか。

「ウィザードアンドザ・プリンセス」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はスタークラフトに帰属します。