ALIEN EQUATIONS
~宇宙船ガルムーン号の危機~ by 古い男氏
ブレーンメディアより1984年4月に発売
エーリアンとの孤独な戦い
それはワシが中学生の頃の話である。 クラブの先輩が仕入れた前評判では、そのゲームはかなり歯応えがあるらしかった。 その、mkIIという言葉を聞くと怒り出す旧88ユーザーの先輩が手に入れたソフトが、この「ALIEN EQUATIONS」というSF風アドベンチャーゲームだった。 制作元のブレーンメディアという会社はあまり有名では無かったが、地味にいい仕事をするソフトハウスとして当時周囲は認識していた様に思う。
ゲームの状況設定はこうである。 ・・・遙かな未来の話・・・ プレイヤーは、恒星間運送業に従事するセールスドライバーだったが、 ある日の運送中、けたたましい非常警報と共にカーゴに謎の生体反応が現れたのだった。 メイン・コンピュータの声は、その招かれざる客の重量を何の抑揚も無く告げた。 「重量、150kg・・・ ! 150kgだって!?」 恐らく、何らかの原因でエーリアンの幼生体がコンテナに付着していて、それが今になって成体へと成長したのだろうが・・・ 直ぐさま救難信号が発信されたが、こうしている間にもカーゴのお客さんは大量の酸素を消費し続け、しかも同時に150kgという重量が、微妙なバランスで航宙を続ける船にとって燃料に影響を与える事は明白だった。 このまま、悠長に救助を待っている時間は無いだろう・・・ それからあまり時間の経たない内に、プレイヤーはこの困難な状況をたった一人で打破する決意を固めることになった。 自らの命と、納期を守るために。
割とこういう絶体絶命シチュエーションに弱かったワシと先輩は、望んでアクシデントの待つ宇宙船に乗り込んで行った。 幸いにして舞台となる宇宙船は小さく、またエーリアンも存外紳士的で、いきなりコックピットにズカズカ乗り込んできたりはしなかった。 しかし、何故か二人ともなかなかカーゴに行こうとはせず、安全なエリアをウロウロするばかりである。
「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・どーして、カーゴに行かないんすか?」 「・・・・・・」
この時初めて、我々は自身の心を大きく占有していた一つの事実に向き合わなくてはならなかった。 信じたくは無い、信じたくは無いが・・・この際正直に言おう。 既に察しが付いてるかとも思うが、そうだ、この時我々は、間違いなく、
エーリアンが怖かったのだ。
この話を聞いた人は、何をバカな、と思うだろう。 最近の高度なハードによるリアルなモンスターならまだしも、モニターに映し出されるのは稚拙なLINE文による落書きの様なエーリアンである。 しかし、しかしである・・・冗談抜きで、この稚拙な物体に、二人の中坊は本気で怖がっていたのだった。 それでも、残り時間はわずかしかなく、我々はついに覚悟を決めてカーゴ内へと潜入するが、エーリアンの居所は依然として掴めない。
「・・・おかしいなあ。」 「ここでも無いとすると、ドコですかねえ。」
などと言いながらも、ドキドキしながらカーゴ内を探索していると、それは突然二人の前に姿を現した。
「うっ、うっぎゃーーーっっ!!」
敵役の適役
この「ALIEN EQUATIONS」における恐怖の対象としてのエーリアンの扱いは、ありがちなシチュエーションとは言え当時としてはなかなか考えられていたと思う。
この時代にエーリアンが登場するゲームは他にもいくつかあったが、中でも「スターアーサー伝説II ~暗黒星雲~/T&Eソフト」の1シーンでは、主人公が幽霊船内でエーリアンに追いかけられるシーンが印象的だ。 真っ暗な船内で、目だけが不気味に光るエーリアンとの息詰まる追いかけっこは非常にスリリングで面白かった。 これはプレイヤーが無意識の内に映画「ALIEN」での凶悪なイメージを想像している故であろうが、このエーリアンというキャラクターは、ゲーム中の悪としては非常に用い易い要素を多分に持っているキャラクターと言えるだろう。 正に敵役の適役といった感じであろうか・・・ やはり、部分的に人間の想像力を利用する事が、効果的にプレイヤーを怖がらせる秘訣に違いないだろう。
また、単純なグラフィックが妙に怖いタイプのホラー作品としては、古典的名作「ミステリーハウス/シェラオンライン」が挙げられると思うが、これも単純なラインの描き出す非現実的な空間、それが返って我々の恐怖感を倍増させていた節が感じられる。 特にApple][版のグラフィックの気味の悪さは特筆物だが、この「ALIEN EQUATIONS」もまた、遅い描画速度をカバーする為にペイントをオフにしていた事が、状況の悪化にさらに拍車をかけたらしい。 丁度、中世の独特な壁画が紬ぎ出す不気味な伝承や、魔女伝説の残る黒い森とそこにぶら下がる木人形・・・そういったモノと同様の怖さを、当時の我々はそこから感じていたと思いたい。
まくらの英訳は?
続けて実際のゲーム内容の紹介に移るが、システムは日本語出力/英語入力のオーソドックスな作りで、1カ所で4方向のエリアが存在する「ミステリーハウス/マイクロキャビン」タイプである。 当時発売されていた多くのアドベンチャーゲームと同じ定番のシステムではあったが、設定をあえてSF風に変えている辺りにさりげない自己主張が見えて微笑ましい。
その一方で、実はこのゲームは意外なほど要求単語がシビアで、まくら(PILLOW)や引き出し(DRAWER)といった他ではあまりお目にかかれない単語がノーヒントで続出し、少なくとも中学生程度のレベルでは当時かなり苦労させられたものである。 それに加えてスペル判断に妙に厳格なところがあり、懐中電灯は必ず正確にFLASHLIGHTと入力しなければならないことや(確かにそうなんだけどさ)、場合によって単語のスペースが必須だったりと、さながら厳しい英語の家庭教師の様なゲームであった。
その他にも、入力を間違える度に、ビーッ、ビーッ、と「ジッコウ フカノウデス!」を連発されると、かなりやる気を削がれてしまうのもいただけない。
それが原因かは分からないが、その後我々は何度かチャレンジしつつも、ついに当時は周りでもこのゲームを解いた者は出なかった。 この結果からも、購買層が低めな割には難易度が高かった事が伺われるが・・・やっぱり、ちょっとイスのトリックは卑怯だと思うょ。
最後にフォローもしておくが、多分制作者は非常にキッチリとした性格だったのだろう、オンメモリで動作する点や、一部リアルタイムで進行する点を考えれば、当時としては十分佳作レベルの作品だったと思う。
特にラストシーンでのエーリアンの宇宙空間への放出は、映画でもよく行われる黄金パターンでもあり、最終画面では映画のラストシーンを彷彿とさせるであろう事請け合いである(ホントか!?)。
そうそう、それから後日談になるが、あの一件以来、先輩はワシと怖いゲームはやらなくなってしまったのは甚だ遺憾ではある。
文責:古い男氏
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