妖怪探偵ちまちま
ボーステックより1984年8月に発売
Story
- 前略 -
ところでだちまちま君。さる某日、じぞう森で撮影をしていたわれわれのアイドル小百合嬢が、妖怪一味に誘拐されてしまうという事件がおきた(どうやら、じぞう森が彼らの本拠地だったらしいのだ)。
さて、今回の君の任務だが、彼ら族を退治して、小百合嬢を救出してもらうことにある。我々のつかんだ情報は、彼女がじぞう森九丁目あたりに誘拐されているという事のみで、彼らの目的および人員構成など彼らに関する事は一切わかっていない。
いつものように君のために必殺武器を用意した。この武器は赤い火の玉の形をしてはいるが、コンピュータ内臓の小型爆弾だ。気をつけてくれ。下手をするとその武器で自分自身が死ぬことになりかねないからな・・・・。(ストーリーをマニュアルから抜粋)
どんなゲーム?
このゲームは、ボーステックの第一回プログラムコンテストの最優秀作品です。ゲーム名が「ちまちま」と独特で響きがよくて、かなり知名度のあったゲームだったと思います。作者はアレックスブロスというグループ。アレックスブロスは23歳と21歳の若者のコンビでした。アレックスブロスという名前は「時計じかけのオレンジ」という映画の主人公の名前から取ったそうです。メンバーの一人は大浦さんという方で、実はマジカルズゥの「黄金の墓」の作者です。もう一人は宗石さんという方で、マジカルズゥの「ピラミッドの謎」というゲームを作っていた方でした。マジカルズゥ(ストラッドフォード)という会社は、教育ソフト主流の会社だったため、2人のオリジナルのアイデアのゲームがほとんど通らず、そこで2人で独立して儲けよう!ということで、マジカルズゥを辞め、フリーになったのでした(「ちまちま」制作後、ボーステックの社員に一時はなっていたようです)。宗石氏がプログラム担当、大浦氏がグラフィック、音楽、演出を担当というコンビです。
余談ですが、宗石氏は高校生のときにパソコンを購入。長いプログラマー生活で、芝浦工業大学を中退しそのままこの世界へ。大浦氏は大阪芸術大学を中退。大阪で結成していたバンドに声をかけてくれたプロデューサーを頼って上京。しかし、そのプロデューサーが不祥事で会社を辞めたため、そのまま東京に居着いてしまいます。デザイン会社でパソコンに出会い、「コンピュータでも絵が描ける」と興味をもったのがパソコンとのきっかけ。その後、「黄金の墓」を制作しています。彼らは「ちまちま」のあとボーステックから「マクロス」の企画を持ちこまれ、そのあとウィザードリィのキャラクターデザイン、Z's staffというグラフィックユーティリティソフトの開発などを行っていました。彼らは分業してプログラムや構成を考えていったそうです。
このゲームは、開始時に西洋風にするか日本風にするかの選択をすることができます。西洋風は、フランケンシュタインやオオカミ男などの敵が出現し、日本風では、カラカサお化けやろくろ首などの敵が出現するというものです。これがこのゲームのもう1つのウリになっています。
「ちまちま」の開発マシンはソニーのSMC-777という変わり種です。プレーヤーは妖怪探偵ちまちま(どうみてもゲゲゲの鬼太郎のオヤジ)となって、さらわれた小百合嬢を救うために妖怪をやっつけるというものです。面クリアタイプの固定型アクションゲーム。迷路のようになっている「じぞう森」をかけまわり、小型爆弾で妖怪を倒します。小型爆弾は、スペースキーを発射され、もう一度キーを押すと爆発します。また、爆弾は、移動キーで誘導することができるので、敵の近くで誘導して爆発させられます。ただ、誘導中は、いっしょに自分も動いてしまうので、爆弾に気を取られているといつのまにか敵が近づいてきてやられてしまいます。ここが、このゲームのおもしろいところでしょう。このゲームはどちらかというと反射神経というよりは、敵の動きの読みが重要なゲームで、バリバリのゲーマーではなくとも手軽に楽しめることができたということも、ヒットした理由だったと思います。
最後に
このゲームは、いろいろな敵キャラクターが登場し、1つ目小僧の動きも当時としてはなかなかよくできていました。しかし、プレーしていてなにか物足りないものも感じます。固定画面のアクションゲームは、「パックマン」や「ドアドア」に代表されるような一発逆転の爽快感や、パターンを作ったときのおもしろさ、厳しい攻撃をくぐって敵を撃滅したときの達成感などがあると思うのですが、「ちまちま」の場合、どこにユーザーの快楽の主点を求めたのかはっきりしていないと思うのです。動きはなんとなくよいけれど、敵を倒す爽快感はそれほどありません。キャラは特徴がありますが、その特徴にあった動きや行動があまりありません。パターンのような戦略もありません。結局、このゲームは舞台設定やキャラクターが独特であるということだけです。肝心の「どの部分にゲームのおもしろさを感じさせるか?」という部分がもっと練られていたならば、よいゲームになっていたことは間違いないでしょう。初期のパソコンアクションゲームは実にこういった快楽の主点がぼやけているものが多いのが残念です。
テクノポリス86年7月号P.105より一部引用
アレックスブロス氏の写真:テクノポリス86年7月号P.107より引用
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