ニュートロン
エニックスより1984年5月に発売
ドアドアに続くキャラクターアクション
名作「ドアドア」から約2年。中村光一氏が制作したエニックスの第2弾ゲームは、「ドアドア」よりも美しく派手な画面を持った固定画面アクションゲームだった。
ゲームの内容
「ここは明るく、のどかなニュートン村。みんな仲良く暮している。とっても小さな村だけど、村のちょうど真ん中に大きな木があるのだ。サンサンと日を浴びているこの大木には、いつでもおいしそうなフツールがなっている。この村の一員であるロン君は、この実を取るのが仕事である。」・・というストーリー(マニュアルから抜粋)。
ニュートロンは、主人公のロン君を動かして、次々と木になる果物の実(中には果物ではないものもある)を集めるというもの。もちろん、ロン君を邪魔する敵キャラクターがおり、これらに接触するとアウト。敵は、アオムシ、ミノムシ、カマキリなど全部で10種類で、面ごとに敵が変わっていく。木には実が最初からなっている訳ではなく、つぼみが出来、つぼみが花へ、そして花が実になるという寸法である。実になった瞬間に取るほど高得点で、実のまま放っておくと実が落ちてしまい1ミスになってしまう。いかに実になる瞬間に、敵の攻撃を逃れて実の下に移動するかがポイントとなるゲームである。ちなみに「ニュートロン」という名前は、果物(特にリンゴ)が落ちるところから「ニュートン」と主人公の「ロン君」を文字ったものだと思う。
主人公は地味に?
中村光一氏の大ヒット作「ドアドア」の主人公「チュン君」は、非常に愛らしいキャラクターであった。そして、このキャラクターは、中村光一氏とエニックスという会社を全国に知らしめるのに一役買うほどのキャラであった。
ニュートロンの敵キャラクターは非常に個性のある動きをするものが多いのだが、肝心のキャラクター自体の印象となると、どうも薄い。面ごとに敵がコロコロと変わるために、ひとつのキャラクターに対する愛着は「ドアドア」の時ほどないし、実在の昆虫を題材にしているので、単なる「昆虫をちょっとデフォルメしたキャラクター」ぐらいにしか感じられない。
一方、ニュートロンの主人公「ロン君」はどうだろう? ロン君は、実を食べたときに舌を出したり、実を取るときに短い腕を伸ばしたり、実に多彩な表情、動きをする。チュン君は歩く、階段を上り下りするくらいしかパターンがなかった。キャラクターのパターン数では、チュン君の数倍の表現があるだろう。しかし、残念ながらチュン君ほど"かわいく"ないし、見た目の強烈なインパクトがなかったといえる。なにか地味なのである。ロン君は"カゴ"をもとにしたキャラクターだったので、愛着のあるキャラクターにするのが難しかったのかもれないが・・。
また、ニュートロンでは他に個性のある敵キャラクターがたくさん出現するため、プレーヤーの意識が主人公のロン君よりも、次にどのような敵が現れるかという興味の方へ移ってしまった。
そもそも1980年代初頭は、「パックマン」「ディグダグ」「マッピー」「ドンキーコング」などの固定画面アクションゲームが中心であり、固定画面のアクションゲームのヒット要因として大きなウエイトを占めるものが「キャラクター」であった。名作ゲームとキャラクターは切っても切れない関係にある(たとえば、パックマン、マッピー、ディグダグ、マリオなど)。それは上記のゲームを思い浮かべたときに、すぐさまそのキャラクターが思い浮かぶことからも分かるだろう。ニュートロンは残念ながら、主人公キャラクターや敵のキャラクターでインパクトを与えることはできなかった。
動きの特性
ニュートロンのおもしろい所は、各面ごとに違う敵キャラクターが現れ、その攻撃方法が多彩であり、それに対応した攻略をみつけることである。各面ごとに10種類の異なる敵が出現し、それぞれの敵に異なる攻略が必要な固定アクションゲームというのは、アーケードゲームを含めてもほとんど見当たらない。
ニュートロンは、キャラクターデザイン自体にドアドアほどのインパクトがない変わりに、「動き(アルゴリズム)」でその個性を引き出している。ニュートロンは、2面ごとに「朝」「昼」「夕方」「夜」「明け方」と変化し、それに合わせて敵や実も変化する。たとえば、「ミノムシ」は糸を垂らして攻撃し、「カマキリ」はロン君を執拗に追い掛け回す。「ミツバチ」は木の枝に関係なくロン君を攻撃する。また、アイデア賞ものなのが、水をばらまく「水滴」や、木の葉を落す「靴」、目を閉じると見えなくなる「目玉」などである。正直初めてこいつらに出会ったときはびっくりした。ドアドアが4つのキャラの個性を最大限に活かしたゲームならば、「ニュートロン」は各面それぞれに登場する敵の「アルゴリズム(攻撃方法)」が最大の見せ場になるゲームだ。そういう意味では、ニュートロンの方がプレーヤーに「先の面を見てみたい」という欲求を十分に引き出すことに成功していると思う。
ドアドアとの比較
ドアドアとニュートロン、いろいろと比較してみた。
対象 ドアドア ニュートン ニュートロンに対してのコメント 主人公 チュン君 ロン君 インパクトは低くなった
敵キャラ数 3 10 キャラ数が増え、さらに個々のパターンも多彩になった
パターン 完全なパターン 乱数まじり 攻略がパターンゲームから状況判断ゲームになった
武器 ジャンプ タマを撃てる 敵を殺す爽快感が増えた。まとめて殺すという快感も残っている
画面の変化 はしごやドアの位置の変化 色の変化のみ ずっと同じ木で色しか変化しないので、ワンパターンになってしまった
敵の動作パターン すべて同じ 各面で動きが違う 各面での攻略が必要になった
音楽 ゲーム中は同じ 面によって違う 音楽はバラエティに富んだものになった
キー操作 縦横の移動 斜めキーの使用 斜めは使うのが非常に難しく、これがうまく機能していたとは思えない
参考にしたと思われるアーケードゲーム ディグダグ ディグダグ、ラリーX、ゼビウス パターン作りを楽しむゲームから、面の進展を楽しむゲームへ
このような比較によって、ドアドアとニュートロンのどちらのゲームが出来がよいかということは分からない。ただ単純な機能の比較では、ニュートロンは機能的には多くの部分でドアドアよりも進化していることは分かる。しかしそれが「ゲームのおもしろさ」に繋がっているかと考えると、残念ながら答えは「ノー」である。ゲームは要素の多さが重要ではなく、それらの結びつき、バランスが大事だということだ。
音楽
BEEP音を使った音楽はなかなかの絶品で、確実に進化している。ドアドアでは、面中に流れる音楽は1パターンであったが、ニュートロンではオープニングのアイキャッチの音楽や、数面ごとに異なったオリジナルで音楽が用意され、すべてが小気味良いのである。BEEPでここまで音楽に力を入れたゲームは、キャリーラボのゲーム以外ではあまり見られない。
ニュートロンの制作
ニュートロンは、作者の中村氏が高校時代の授業中にボケッとみていた大きな木がヒントになったと話している(本当かどうかは不明)。にわかに信じがたいような出来すぎた話だが、ドアドアのように、はしごと床という簡単な縦横の構造を、美しい大木にかぶせて表現してしまったのはすばらしいアイデアだと思う。美しい大木にキャラクターを重ねると、高速な背景との重ね合わせ処理が必要になる。ドアドアはバックが黒だったため、重ね合わせ処理が必要なかったが、このゲームは、その点でも十分に進化していると言える。
また、「ラリーX」もゲームのヒントになっているという(ニュートロンがスクロールするとなんとなく似ているような・・)。ニュートロンのアイデアを中村氏がプログラムし、ドアドアと同じメンバーのグラフィッカー、音楽担当の仲間がそれにぴったりのものを作り出したのである。
最後に
ニュートロンは爆発的なヒットにはいたらなかった。これにはいくつか要因がある。ニュートロンが斜め方向を必要とするゲームのため、テンキーのないPC6001シリーズやMSXに移植されなかったこと、キャラクターの面でドアドアほどのインパクトが得られなかったことなどが挙げられる。さらにこのゲームは「ドアドア」で中村氏が存分に見せてくれた、固定画面ゲームのおもしろさのツボが、残念ながら明確に表現されていないと思う。
ニュートロンに関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社エニックスに帰属します。
また、発売が延期されたため、初見のインパクトが薄れてしまったことなども挙げられるだろう。しかし、プレーヤーに少しはクリエイターな面をもって欲しいといって付けた「コンストラクション機能」は努力賞ものだ。ただ、筆者はニュートロンでコンストラクションをほとんどしたことがない。する気が起きなかった。なぜかというと、既存のキャラクターはすでに確立されたものであったし、自分で作ったキャラが動いたとしても、それほどうれしくない。むしろコースがエディットできたり、面をセレクトできた方がよほど楽しかったと思う。このゲームを、隠れた名作というかどうかは難しいところだ。たしかに出来はいいのだが・・。でも、中村光一氏のゲームだからこそ、もう1歩はじけた部分が欲しかった。