四次元少女リディア
by 古い男氏


チャンピオンソフトより1984年2月に発売


四次元の少女

 チャンピオンソフト、今で言う美少女ソフトハウス西の雄である現アリスソフトは、この当時しょーもないソフトを連発していた様に思う。 しょーもない、等と言ってはあまりに言い過ぎかと思われるかもしれないが、ワタシは言う権利があると思っている。 それは当時のワタシが、かなりチャンピオンソフトのゲームを購入していたからだ。
 この当時の同社は、かなり様々な機種に多様なソフトを乱発していて、それをワタシは巣で餌を待つ雛の如く買っていた様な気がする。 
スパイ何たら(恐らく、SPY-0011と思われる)や何たらハウス(同クレイジーハウス)、「慶子ちゃんの秘密」等々、あの「ZETA」も全巻買っていたりする(未だ家にあったりして)。 ウ~ム恥ずかしい。
 しかも問題なのは、恐ろしい事にゲーム内容を殆ど憶えていないという点であり、辛うじて
「慶子ちゃんの秘密」でのマンション内に住む円丈師匠似のギャグ「天国の話、あのよー」以外はすっかり忘却の彼方、それだけ印象の薄い作品が多かったという事であるが、実際、同社のソフトが多少製品としてマシになったと感じるのは精々「フェアリーズ・レジデンス/1985年4月発売」以降であり、いかに旧態依然とした粗製濫造を行っていたかの一つの尺度となる様に思う。 無論、ソフトハウスの立ち上がり時には多かれ少なかれそういった時期があるのは仕方ないのだが。

 そんな中で、ある日雑誌に一つのゲームソフト広告が掲載された。それがこの「四次元少女リディア」であった。
 当時人気だった
「~スターアーサー伝説~ 惑星メフィウス/T&Eソフト」の影響が微妙に感じられる、SF風テーマ、カセット4本組、ステレオグラス(*1)付属の、なかなか野心的な作品であった。
 またそれに併せて広告形態も力が入っており、以前の同社の広告形態が、丁度
ポニカスパイ大作戦や、幻魔大戦で有名)の広告の様に複数のソフトウェアを多数紹介する形式だった事を考えると、この「リディア」広告は1ページかつカラーで打ち出されている点等イメージ戦略的にも従来とは違った面があった。
 この、
「四次元」と来て「少女」と続く、当時のパソコン少年のストライクコースを丹念に付く微妙なコントロールは、これ以降「慶子ちゃんの秘密」「フェアリーズレジデンス」からやがてはアリスソフトへと続いていく一つの転機となった作品であったとも思えてくる。

(*1)ステレオグラス
 片方のレンズに赤色、もう片方のレンズに青色のフィルムを張った、立体視に用いられるメガネの事。
「リディア」といえば「ステレオグラス」と言われる様に、本作ではこの立体視メガネが効果的(?)に使われている。


ふっくらしたメー○ル

 そんなチャンピオンソフト野郎のワタシではあったが、何故か本作にだけは食指が動かなかった。
ヒロインである
リディアの頬から顎にかけてのラインが何だかふっくらとしてお母さんみたいで、鼻筋も何だか妙に長いし、あんまり好みでは無かったからだ。 これが「フェアリーズ・レジデンス」並みだったら、かなりヤバイ状態だったかもしれないが・・・
 しかし、他の多くのユーザーにはそれほど気にならなかったらしく、噂ではなかなかの好調な売れ行きを示したそうで、知人の中にも喜んで借りて買っていたヤツが居た。 そう言えば彼は松本零士のファン
(*2)だったような・・・

 勿論、いくらふっくらしているとは言え、ワタシもパソコン少年の端くれ、やはり「四次元」と来て「少女」とくれば、気にならない方がおかしいだろう、早速その知人の家にイソイソと出かけていった。 当然の事であるが、そういうちょっとしたお色気目当ての事情の他にも、本作のSF的な雰囲気や、カセット四本組という大容量に少なからず期待していた面もある。

 その本作のあらすじは、以下の様なものであった。
宇宙歴1001年、科学が万能と信じられている時代。 北アメリカ大陸南部に位置する、かのバミューダ海域にて大統領を乗せた飛行艇が行方不明となった。 以前から相次ぐ飛行艇消失に危機感を抱いたサイエンス・オブジェクトチームは、その一員であるプレイヤー(下画像)

 を調査に向かわせる・・・ここまでが導入部であり、これを含めた全4部から成る壮大なスケールで送るSFアドベンチャーが、「四次元少女リディア」の骨組みなのだ。

(*2)松本零士のファン
 ヒロインの「リディア」には、そこはかとない松本零士的ヒロインの雰囲気が感じられる。


驚くべき印象の薄さ

 ・・・で、確かその後に「リディア」をプレイしたハズなんだが、これがもう、さっぱりと記憶にないのである(汗)。
驚くべき印象の薄さである・・・確かに知人宅でプレイしたハズなのだが・・・

 そこで今回、レビューの為に改めてプレイし直したところ、その理由が判明した。 とにかく、展開が唐突で印象に残らないのだ。 これこれこういう理由でこうなったという説明が、その場面々々ではされるものの、関連性の説明がされていない事が多く、それがゲーム時間の短さと併せて、ゲームストーリーの一方的な展開に拍車をかけているのだった。 丁度、目の前を突然全裸の人間が走り抜けていって、一瞬呆然としてしまう、といった状態に似ていると思う。

 特にこのゲームの場合、当時の雑誌レビューなどでも言われていたが、ほとんど全編「見るゲーム」と化しており、本編でゲームらしいゲームといえば「コンピュータや人間相手に、キーワードを打ち込む」「迷路状の森を抜ける」「ラストのシューティングゲーム」の3つしかなく、お世辞にも速い(機種にもよるが)とは言えないグラフィック表示と併せて、実際にストーリーに参加していると感じられる実感が少ない事も影響しているかもしれない。

 さらに意地の悪い言い方をさせてもらえれば、大阪のソフトハウスだからという訳ではないだろうが、このツッコミしてくれと言わんばかりのストーリーは何とかならなかったのだろうか? どうも、主人公の動機が今ひとつ希薄で、主人公サイドが敵をどうしたいのかも良く伝わってこない上に、 「敵の方が正しいのかも」といいつつ、考える間もなくリディアに戦いへと駆り立てられてしまうなど、大仰なテーマの割にそれを生かし切れていない、説明不足、といった感が常に付きまといながら、地球を救わねばならないのだ。 そのクセ、ゲーム中で恐らく一番紳士的で親切なのは敵の首領で、言葉遣いも少々オカシく人間味があり、彼の方が余程生き物として健全だった様に思えてくる。

 この1984年当時の他の作品としては、前述の「惑星メフィウス」の他に、「デーモンズリング/日本ファルコム」「ミコとアケミのジャングルアドベンチャー/システムソフト」といった、VRAMのデータを圧縮してディスクに記録し、ほぼ瞬間画面表示を実現するアドベンチャーゲームが続々と登場してきており、パソコンゲームの個々の製品が次の世代に移行しつつある時期でもあった。 そういった多くのライバル達を相手に、技術的にもアイディア的にも「昔のソフトハウス」の面影を引きずる(*3)チャンピオンソフトにとっては苦しい時代だったのかもしれない。

(*3)面影を引きずるチャンピオンソフト
 現在のアリスソフトは、アダルトゲームの発売元としてはかなり技術力のあるソフトハウスだと言えると思う。
手の込んだシステムを開発したり、ハイレゾに早くから対応していたり・・・変われば変わるモノだなぁ(汗)。


「見せるゲーム」の原型

 と、否定的な意見ばかりを並べてしまったが、勿論見るべき点も多くある。
本作の、
「アニメ的雰囲気を持ち」「ゲームの難易度的には簡単で」「ストーリーを楽しませるのを目的とした」ゲーム、この響きに何か気が付かないだろうか? そう、今発売されている多くのコンシューマゲームと同じコンセプトを持っていたと言えなくはないだろうか。

 つまり、例えば「惑星メフィウス」もゲーム的には従来のアドベンチャーの典型であり、その難易度は決して低くなかった。 最初の牢獄でつまづき、街を徘徊して迷い、広大な砂漠で途方に暮れた。 勿論、苦労があればこその達成感とも言えるが、その点では気軽に宇宙の伝説となりたいプレイヤーにとっては歯痒かった事だろう。

 これとは対照的に、「リディア」には(ちょっとキーワード探しで詰まると、永遠に進まない事もありえるが)難易度的に詰まる事がほとんどなく、キーを押していけば自然と物語が進展していく様になっている。 こういった「考える部分もなく数時間もあれば終了してしまうゲーム」が、果たして支払った対価に値するゲームなのか? と言われると難しい問題だが、この路線が現在「サクラ大戦/セガ」を始めとする「アニメの1クール的ゲーム」として特定の市場を席巻している事を考えると、この当時に同様のコンセプトで「見せるゲーム」をデザインしたチャンピオンソフトは、少なからず先見の明があったと思っている。

 また本作のグラフィックは、ライン&ペイントとはいえ結構細かい描写がされており、ビジュアル的な面ではこの当時のレベルでもかなり良い方の出来であったことも付け加えておく。 先程述べた瞬間画面表示のゲームが出始めていた頃とは言え、まだまだテープベースのソフトも多く、ラインとペイントによるアドベンチャーゲームも数多く存在していたからだ。

 恐らく、パソコンでグラフィックが表示出来る様になった時に、それでビジュアルを展開してみよう、と考えた人間がチャンピオンソフト以外にも居たハズであり、それを「リディア」が実現した訳だから、十分先駆的と言えるのではないだろうか? ただちょっとだけ、全体的にスケールに見合う壮大さがゲーム本編に欠けていたとは言えなくもないが(汗)。

 それから余談ではあるが、やはりパッケージのリディアに不満(きっとデザイナー氏の好みなのだろうが)があったワタシとしては、某現大企業の様な「パッケージで買わせる」手段をもう少し考えて欲しかったとも思っている。 例えば、有名原画家にパッケージイラストをお願いするとか、際どいコスチュームを着せるとか、牢獄に吊すとか・・・ そうすれば、ソフトウェアランキング連続1位も夢ではなかった様に思えるのだが・・・でもこれで本編を買ったら、詐欺だと思うかもしれんし。 う~む(汗)。

文責:古い男氏 (2000年5月7日)

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