Epsilon3
BPSより1985年7月に発売
ストーリー
惑星ミューは侵略者の攻撃を受け、長い戦いの末に砂と瓦礫におおわれた死の星と化した。
生き残った多くの住民たちは難を逃れて太陽系外宇宙へ脱出したが、惑星の上では、わずか数千となった人々が抵抗を続けている
敵は「考える星」と呼ばれるシリコノイド、つまり岩石人である。彼らは、コンピュータ戦士を操り、全宇宙の有機生命を抹殺しようとしている。
抵抗軍は、この星を支配いるシリコノイド「マザー」を破壊するため、ジャイアント バトルアーマー「エプシロン3」を完成した。しかし、フルアーマータイプの「TYPE2」は、敵の攻撃により封じ込められたままである。
さらに様々なパーツも、各工場で開発されたものの、それぞれ孤立しているため、装備することができない。だが、このままでは全てが敵の手に陥るのを待つだけである。やむなく抵抗軍は、衛星軌道上の本部、サテライトβから、最低限の武器しかもたない、「TYPE1」を、3つの都市へ向けて発進させた。しかし、そこにはクリスタルの輝きを放つ強力な敵の戦士が、待ちうけていた。彼らの多くは殺され、生き残ったものもすべて牢獄につながれてしまった。しかし、そのうち何人かは敵の秘密情報を手に入れたらしい。
司令官は君1人を呼んでいった。
「マザー」を倒すためには我々はあまりに非力だ。しかし、仲間の力をひとつに結集することができれば、必ずや敵を上回る力になるはずなのだ。都市をめぐって分断された仲間の力を借り、君のバトルアーマーをパワーアップし一刻も早く「TYPE2」をうばい返してくれ。「マザー」を倒すには、「TYPE2」でないと不可能だ。とらわれた仲間が、そのための重要な情報を握っているらしい。ぜひみんなで助けてやってくれ。それから「ドクターKUU」に会うといい、力になってくれるはずだ。彼が何者かって!さぁ、わしもよくは知らんが、不思議な力を持った人物だよ。」彼はガッシリとした戦闘服を取り出した。「これを着ていってくれ。もしバトルアーマーが破壊されたら君をこの本部へ連れ戻してくれるはずだ。TYPE1はまだあるが優秀なパイロットは君1人しかいないからな。たのんだぞ!」。(ストーリーをマニュアルから抜粋)
目的とゲームの概要
このゲームの目的はCITY-3のどこかにある「マザー」を破壊することである。そしてこの目的を果たすために途中でさまざまな武器や装置を手に入れる必要がある。また、味方の工場を探して装置をもらい、CITY2に閉じ込められたTYPE2を奪い返す。また、CITY2,3にいくつかある牢獄を破壊してとらわれた人々を解放する。人々の中には必要な情報を持っている者もいる。いくつかの武器・装置の使い方などは自分で発見しなければならない。
まずはCITYを選択する。最初はCITY1から始めた方が無難である。というのも、他のCITYはやたらと敵が強く、初めのうちは太刀打ちできないからだ。
移動はテンキーで行う。ビルは入れるビルと入れないビルがあり、入れるビルの前で[5]キーを押すとドアが開くという仕組みだ。また、敵と出会うと戦闘モードになり、テンキーで照準を合わせ、Xキーでビーム、Zキーでランチャー(ミサイル)を発射する。敵はシールドをはっていることがあり、その種類によって効果的な武器とそうでない武器がある。
ランチャーの交換はA、ビームの交換はSキーで行う。レーザーとプラズマは、支部に帰ると30まで補給される。他の武器は敵を倒すか、落ちているものを拾うと増やすことが出来る。
ゲームを開始すると、エプシロン3のデモが開始される。どうもこれがエプシロン3本体らしいのだが、やたらとカッコ悪いのはご愛嬌だろう。
画面は右にある赤い長い棒が総エネルギーで、これがなくなると死亡してしまう。その右の2つのエネルギーは、武器とシールドに送られたエネルギーを示している。武器のエネルギーがなくなると武器がどれも使えなくなり、シールドのエネルギーがなくなるとダメージを受けてしまう。ダメージ100%になるとやはり死んでしまう。
戦闘画面
このゲームは、3Dタイプの迷路に、3Dタイプの戦闘アクションを組み込んだことで話題になったゲームである。おそらく3Dのリアルタイム戦闘のロールプレイングゲームは、このゲームが初めてではないだろうか。
このゲームのおもしろさの1つはその戦闘画面にある。CITYをうろついていると、突然「ピピピ」というビープ音が警告として響く。そして、敵が画面の奥からだんだん大きくなりながら3Dで攻撃してくるのだ。この敵をいろいろな武器を使って攻撃するのだが、照準になるカーソルの動きもなかなかスムーズで、操作感としては悪くない。武器も何種類か用意されており、ビーム兵器には、レーザー、プラズマ、ベータ・レイ、ニュートリノ、グラビトンなどの種類があって、それぞれが敵のシールドの種類(シールドなし、パワーシールド、マグネチックシールド、ハイ・ポテンシャル・バリア)によって、効果が大きかったり、小さかったりする。
ランチャーも、ミサイル、E・M・ボム、メタル・クラウド(空気中にチャフのようなものをばら撒いて、敵ロボットの活動を一時停止させるもの、ただしこちらもビーム兵器が使えなくなる)があり、これも敵のシールドによって威力が変化する。
この武器の選択が非常に重要で、リアルタイムの戦闘の中、相手がどのバリアを張っていて、こちらがどの武器が有効かを即座に見抜き、その武器にチェンジしなくてはならない。また、敵には攻撃を受け付ける箇所がそれぞれあり、それ以外の部分を攻撃してもダメージをほとんど与えられない。ただ、敵の種類は多くなく、基本的には各CITYに4種類ずつしかいないので、弱点をみつけること自体はそれほど大変ではない。
敵の種類は円盤タイプ、スパイダータイプ、ランドローバータイプ、ヒューマンタイプの4種類。スパイダータイプは眼の間、ヒューマンタイプは首と胸の間、と撃つ所はこんな感じである。敵はなかなかこしゃくで、こちらの攻撃が当たらないと、「アッカンベー」をしたりする。これがとてもむかつくのだが、機械のような冷たい存在なのにこの人間ライクな行動は演出としてはとてもおもしろい。
ロボットの成長
エプシロン3のマニュアルには、自機をパワーアップさせるためのさまざまな武器が紹介されていて、これを早く手に入れることがクリアへの近道となる。
ノクトビジョンは、通常建物の中は真っ暗なので敵の姿がみえず、一方的に攻撃されてしまう。しかし、これがあればどんな暗闇でも敵の姿がみえる。 これらの武器を装備していくと、自分が強くなっていくという実感がもてる。この武器を全く持っていない序盤は相当きついが、CITY1で9つのアイテムをとれば、CITY2でも十分に太刀打ちできるようになるだろう。
ロボットの成長は、武器や装備をつけていくことによってなされる。たとえば、コンパスを手に入れると、画面の右上に矢印が表示される。この矢印は常に北を指している。序盤で手に入るアイテムだが、これがないとマッピングが困難。
サテライト・レシーバーは惑星ミューの上空を飛んでいる地上探知用の衛星にコンタクトし、自分の位置を確認するというもの。この衛星はリアルタイムで軌道上を回っているため、コンタクトできないこともある。
オートエイミングは、暗闇の中と動かない敵以外の敵を自動的に照準が追尾する。動きが速い敵は追いつかないが、手に入るとかなり楽。
ディストリビューターは、ウエポンとシールドのエネルギー配分は通常5:5なのだが、これがあると1:9、9:1まで好きな比率に変更できる。手ごわい敵に遭遇したときなどはシールドを9にしておけば、素早くシールドにエネルギーがチャージされる。
高すぎる敷居
このゲームがおもしろいと感じるようになるためには、非常に高い壁があったと思う。まずCITY1でアイテムを集めることになるのだが、敵が非常に強く、またこちらの操作も慣れをかなり必要とするため、序盤でかなりくじけやすい。基地の近くで敵を倒しては修理するという地道な作業が続く。また、マップが異様に広く、普通の3Dダンジョンのような壁がほとんどないので、マッピングが非常に難しい。さらにじっと止まっていても敵が次々に出現するために、ゆっくりマッピングをしている暇がない。これがこのゲームのもう1つの特徴でもあり難点である。
3Dの表現にも多少違和感がある。まず、どこかに基地があるのだが、建物1つ1つに特徴が全くないため、基地がどれなのかもよくわからないし、序盤では自分がどこにいるのかすぐらわからなくなってしまう。またそれぞれの街が「閉じた世界」で繋がっている(地図の上下、左右)ことに気がつかないと、永遠にマップがかけない。
戦闘になれてくれば、敵を簡単に倒すことができるようになる。そして壁の中にあるアイテムを取っていくとだんだんこのゲームのおもしろさがわかってくる。しかし、ここまで到達できたプレーヤーは果たしてどのくらいの割合なのだろうか?
さらに敵が出現しすぎるために、マッピングもきついし、謎の探索も難航しまくる。このあたりの調整はもっとやってほしかったところだ。
評価する点
作者はあの「ゼノン」を作った呉英二氏である。呉氏のパレットの使い方の絶妙さは、「ゼノン」で証明済みだった。よってアクションゲームに不可欠なスピードという点では全く問題ない出来に仕上がっている。このゲームは、「ゼノン」と同じ緑色を主体とした画面に仕上がっており、単色ながら見事に世界を構築した。見ているとちょっと飽きが来る色なのだが、重ね合わせの関係でまぁしかたないのだろう。
敵もパレット分割しているために、単色であるところが非常につらいところだが、スピードを考えればしかたないだろう。それよりも、コオロギのような敵がピョンピョン跳ねたり、ロボットがいろんなアクションをする動きの方が当時としてはかなり新鮮だった。しかし、純粋なアクションゲームとしてみると、単調でいまいちで、だんだんと嫌気が差してきてしまうのも事実である。
しかし、このゲームは実にしっかりと作ってある。3Dの表現、描画速度、シリナオ、アイテム、どれも悪くない。ただ、全体のバランスが悪い。これがとても残念なのだ。もし、きちんとバランスが調整されていれば、このゲームのおもしろさにもっと多くの人が触れることができただろう。
作者・呉英二氏
エプシロン3の作者は呉英二氏(くれえいじ、もちろんペンネーム。本名は石原彰男氏)。彼が初めて購入したパソコンは、MZ-80Kであった。もともとは小説家志望で「月刊マイコン」に創刊号からショートショートを連載、コンピュータに興味をもったのはそれからだった。それからBASIC、マシン語を覚えはじめた。呉氏は東京理科大学を卒業後は教師となり、埼玉県の中学で理科と数学の先生をしていた。その後、高校教師もしたらしい。教師歴は8年と長く、そこで成績処理などにコンピュータを活用したこともあるそうだ。そのうち、自分でもいろいろとプログラムが作れるでは?と考え出し、BASICで2本のプログラムを作り、その後本格的にプログラマに転職したという。はじめの3年間は、フリーでプログラムを作り、あちこちでオリジナルのソフトを発表した。電波新聞社から「ゼノン」を発売し、これが大ヒットとなり、呉英二の名前は一躍有名になった。この「エプシロン3」も呉氏がフリーの時代の作品で、それをBPSに持ちこんだものだ。
エプシロン3に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はBPSに帰属します。
参考:テクノポリス87年1月号
呉氏はこのあと、電波新聞社から、「ゼノン」の続編ともいえる「ガンマ5」を発売する。そしてひとりの感覚では頭打ちになると感じ、外部のブレーンを使うために会社組織にする決意をし、1986年の4月に「呉ソフトウェア工房」を設立する。このときの社員は呉氏を含めて2名。高校の教え子であった福田氏(グラフィック)がいた。後に石田氏(88版スペースハリアーの作者)も加わったようである。ちなみに1987年に同社から発売された「アルゴー」は、「エプシロン3」の続編的な作品で、グラフィックもフルカラーになり、そのスケールも数倍に跳ね上がっている。
呉氏の写真:テクノポリス87年1月号から引用