ブラスティ


スクウェアより1986年4月に発売


どんなゲーム?

前作「Will」で各場面にアニメーション効果をふんだんに入れ、アドベンチャーゲームにひとつの革命を起こしたスクウェアが、次に制作したのが、「Will」のアニメーションを発展させたロールプレイングゲーム「ブラスティ」であった。


プロローグ

半物資で囲まれた階差閉宇宙という謎の空間。そこに属するオンディーナという巨大母船では、人々はコミューンという中枢機関に統治され、一定年齢に達した男子の大多数には、インカー・マースと呼ばれる賞金稼ぎとして、クルーズチェイサーと呼ばれる戦闘機が与えられる。これを使ってインバースと呼ばれる反乱分子を撃退して賞金をかせぐことを生活のすべにしていた。インバースは常にオンディーナ周辺に出没し、ゲリラ活動を続けている。インカー・マースは、これらバリアントからオンディーナを保護する目的で結成された一団である。
愛機に取り付けられた、シュート・ダウン・カウンター(撃墜数測定装置)によって、賞金交換所でクレジットに換算される。これが彼らの唯一の収入源でありこの賞金によって愛機の性能を高め、この戦闘を勝ちぬいていかなければならないのである。
閉宇宙には通商だけに専念する中立ステーションも存在し、修理や、パワーの補填などが可能である。しかし、このステーションエリアにおける戦闘行為はいっさい禁止されており、この条約に違反したものは、致命的な代償を払わなければならない。
いま、オンディーナのラボ(新型兵器開発局)において、新しいクルーズチェイサーの試作品が一体完成した。プロトタイプ・コードネーム・・「ブラスティー」。(ストーリーをマニュアルから抜粋)


ゲームの仕組み

このゲームは、愛機「ブラスティ」に乗りこみ、オンディーナの敵「インバース」を壊滅することを当初の目的としている。ゲーム開始後、まずオンディーナで旅支度を行う。既存のロールプレイングとちょっと違って、ゲームがロボットものなので、宿屋が修理屋になっていたり、商店が装備売買所などになっているが、慣れれば普通のロールプレイングゲームの感覚とそれほど変わらずにプレーできる。
このゲームの経験値はコンピュータラーニングユニットというものに貯えられる。戦闘を行うたびに、この数値が増えていって強くなるのだ。しかし、このユニットをあらかじめ購入しておかないと、購入数以上の経験値をためることができない。
武器はライフル、ボム、ソードがあり、その他のアイテムにもエンジン、シールド、オプションと充実している。これらの装備はもちろん値段が決められていて、購入にはお金が必要だ。お金を得るには、敵を撃墜したときに、撃墜数測定措置の数値があがり、この数値により賞金交換所でお金に換算できる仕組みである。また、武器やシールドなどは、常にラボにて開発が進んでおり、ここにお金を投資することで次々に新しくて強い武器を入手することが可能だ。
こうして「敵を撃墜してお金と経験値をかせぐ」→「ステーションに戻ってお金に換算」→「新たな装備を買う、またはラボに投資する」という作業を繰り返していく。言葉は変わっても普通のロールプレイングとたいして変化はない。


宇宙空間・・そして

宇宙空間にでると、画面に広大な宇宙が表示される。宇宙は3D迷路のような構造になっており、アステロイドの壁で前進ができないところは、まるでダンジョンの壁のようである。ステージ(ダンジョンの階層のようなもの)は全部で5つあり、ゲートをくぐると別のステージに移動することが可能だ。目的はステージ5にあるインバースの本拠地をたたくことである。
宇宙空間をさまよっていると、敵に遭遇することがある。敵に遭遇すると、画面は自機と敵機が並んだ画面に変わる。ここで自分のしたい行為をあらかじめ3ターン分、コマンドで選択して入力する。あとは勝手にコンピュータがアニメーションのデモを交えながら命中したか回避したかなどを画面に表示する。この戦闘のアニメーションこそがこのゲーム最大の見所である。
さてこうしてステージをどんどん進んでいくのだが、各ステージは意外と広く、マップを書くと20×20の正方形になっていることがわかる。また、宇宙空間にはいろいろなメッセージがなぜか転がっていたり、惑星があったりして目を楽しませてくれる。ステージ1では、とりあえず敵を倒してどんどんパワーアップするのが目的。ステージ2、ステージ3はステージ1よりも多少強い敵が登場するが、経験値稼ぎにはもってこいだろう。
ステージ4あたりからがこのゲームの本番だ。ステージ4の中盤にやたらと「クラブレイ」という敵が登場する一本道があり、ここを抜けるのが最初の難関となる。また、いろいろなところにメッシージもあり、どうやらオンディーナがこの閉宇宙を統治しており、本当にインバースは悪いやつらなのかという疑問提起もされてくる。ステージ5では、運命の選択があり、自分がコミューンのままインバースの本拠地を叩くのか、インバースに寝返り、この世界を解放するのかせまられることになる。どちらのエンディングも用意されているが、インバースに寝返るのが真のエンディングだろう。インバースに寝返った場合、ステージ1のオンディーナに戻り、最強のロボット、エリクセンを倒せばゲーム終了となる。


サンライズの協力

ブラスティのメカは「日本サンライズ」がすべて原画を書いたということで話題になった。このころのスクウェアは「デストラップ」「Will」とアドベンチャーゲームがそれなりの成果をあげていて、そろそろ流行りのロールブレイングゲームを制作したいと思っていたところであった。また、「Will」で開発した動画技術がさらに内部で進歩したために、このアニメーション処理を使ってゲームを作るということも決定していたらしい。
アニメーションをするには、なんといっても必要なのが「絵」であった。当時のスクウェアには、アニメーションをさせるほど膨大な絵を描ける人がいなかったため、どこかの有名なアニメ会社に描いてもらうことなり、その候補として当時人気の高かった「日本サンライズ」、コブラで有名な「寺沢武一」氏、アニメーターの「安彦良和」氏、ナウシカの「宮崎駿」氏を選んだ。しかし、後者3人は忙しいということで断られ、最も可能性が低いと思われていた日本サンライズが、たまたまパソコンソフトを企画してがっていていたために、このプロジェクトが実現したのであった。
当時の日本サンライズは「重戦機エルガイム」「聖戦士ダンバイン」そして「機動戦士Zガンダム」を放送しており、油がのっているところであった。当時のパソコン少年が高校生から大学生中心だったので、サンライズの知名度はすこぶる高く、そのサンライズが描いたロボットたちがパソコンでアニメーションするというのだから、当時のユーザーにはたまらない企画であった。


アニメーション処理

このゲームのもう1つの核がアニメーション処理である。「Will」で成功したディスクの圧縮と高速VRAM転送にさらに磨きがかかっている。ブラスティでは、ディスク2枚にデータをすべて収めるために、ディスクのフォーマットを400Kフォーマット(通常は320Kバイト)にして1枚に400K以上のデータを入れるようにしている。また、そのまま絵をディスクに入れていたのでは、ディスク容量が足りなくなってしまうので、絵を圧縮しているのだが、ブラスティの場合、アニメーション処理の都合で絵の表示速度を上げるために、圧縮効率は悪いが、展開速度が速い方法で圧縮している。
ディスクから圧縮されたデータを展開しながらメモリに読み込み、アニメーションするときは、このデータを高速にVRAMに一枚ずつ転送している。ブラスティは88SR専用ではないので、SRのALUを使った3プレーンの同時転送機能は使用していない。実は後期の88のアニメーションはほとんどこのALUの同時転送機能を使用して実現している。たとえば有名な「イースII」のデモで、リリアが振り向くシーンがあるが、画面内にあらかじめ振り向くアニメーションパターンを描いておき、それをテキスト画面で隠しておき、それを高速で画面から画面に転送している。
ブラスティはプログラム的にこの転送をカバーしているために、SR以前の機種ではバンクずれ(1/60の同期が2バンク描く前にみえてしまう、カッコ悪いもの)が起こることがよくがある。まぁこれはしかたないことなのだが。ブラスティのアニメーションは、実は8色を使用していない。敵や自機をよくみると、4色しか使用していないのが分かる。これは、グラフィックの3プレーンのうち2プレーンのみを使用しているためだ。画面の転送を2プレーンのみに押さえ、処理を高速化している。しかし、敵と自機で使用しているプレーンが違うため、まるで3プレーン使用しているようにうまくごまかしているところも、なかなかのものだ。


ブラスティの長所、短所

「Will」で制作したアニメーション処理をかなりシェイプアップさせ、秒間12コマのアニメーションルーチンが完成したスクウェアは、次にこのアニメーションルーチンを使ったゲームを作ろうとした。このアニメーションを活かすために、当時大人気だった日本サンライズを引きこみ、出来あがったそのアニメーションの質は、後に発売された88のゲームと比べても、遜色ない出来で、完成度の高いものである。
ただ、このアニメーションを活かすために、ゲーム性に無理が生じたことは否めない。まず、サンライズとの提携により、ロボットを使ったロールプレイングになったため、舞台は宇宙にせざるを得なくなった。宇宙でロールプレイングゲームとなるとなかなか前例がない。しかも、アニメーションは容量をかなり食うので、アニメーションの使い場所はおのずと戦闘シーンなどにに限られてしまう。このため、3Dロールプレイングゲームの形式をそのまま踏襲する形で、本来3次元であるはずの宇宙という舞台をむりやり2次元マップの中に押しこめてしまった。いうなれば、宇宙空間をそのままダンジョンに押しこめてしまったのである。ダンジョンの壁はアステロイドに、町はステーションに、階段はゲートに、という具合である。このため、宇宙なのに行き止まりが存在するという極めて不条理な世界を生み出すことになった。このギャップにより、宇宙という広い舞台なのにもかかわらず、やたら窮屈なイメージがつきまとう原因となっている。
ただ、この置き換えはある意味大胆な発想でもある。作者の坂口氏や青木氏も、いろいろと悩んだ末に出した結論なのだろう。当時の技術力と開発期間を考えれば、この線でいくのが一番近道でラクな選択だったのかもしれない。ただし、ユーザーがこのゲームを購入する前に、アニメーションシーン以外の部分が、ほとんど知らされていなかったので、まさかロールプレイング部分がこのような大胆な構造になっているとは思わなかった。そしてプレーしたときにかなり違和感を感じたユーザーが多かっただろうと思う。
また、肝心のアニメーション部分の出来はすばらしいのだが、容量の関係でそれほど数が多くない。そのため、2,3度同じアニメーションを見ると、もう同じのを見るのが苦痛になってきてしまう。しかも違う敵の出現はかなり奥のゲートに進んでいかないと見ることができないため、なかなか違うアニメーションすら見ることが出来ない。先ほどの宇宙空間の退屈さと伴って、これがゲームを進める上での大きなネックとなってしまった。そのため、マップを自分で書いてコツコツと進めるプレーヤーは宇宙空間がすぐにいままでのダンジョンと同じ構造であることをすぐに見抜き、なんとか先に進むことができたのだが、マップを書かない無頓着なプレーヤーは、いったい宇宙空間がどのようになっているのか全く把握できずに(まさかダンジョンと同じになっているとは思わずに)、雑誌にマップが掲載されるまで、膠着状態が続くか、アニメーションを1度か2度見ただけでホッポリ出してしまうことになってしまった。
アニメーションのイライラを解消するためにつけた「ノーアニメーションモード」というのも、テストプレイでアニメーションが苦痛になってくることが証明されたからこそ、入った機能であろう。スクウェアも、せっかくのアニメーション機能をオフにされるのは非常に苦しいところだが、ゲーム性を考えると、この機能なしには済まされなかったのだろう。
でも、筆者はアニメーションを十分に堪能させ、ロールプレイングゲームとしてもそれなりの形に仕上げた、企画の坂口氏の手腕は、まことに見事であったと思っている。


ブラスティを作った人「坂口博信氏」

ブラスティを制作した中心人物は、現在(西暦2000年)スクウェア副社長の坂口博信氏である。
坂口氏がパソコンに出会ったのは、大学に入ってからであった。このとき、アップルのコンパチ機を自分で組み立てた。坂口氏がパソコンをはじめたのは、新しい物好きであったこともあるが、なんとなくパソコンを打っている姿がかっこよかったからだという。それまでカーリーヘアでロックをやっていた氏は、イメージチェンジを図る意味でパソコンをやってみたという面もあるらしい。坂口氏は、アップルで「ウルティマ」「ウィザードリィ」を全部解き、プログラムもある程度はやっていたらしいが、遊ぶ方がおもしろかったという。
坂口氏がスクウェアに入ったのは、1984年の3月。このときまだ坂口氏は学生で一ヶ月だけのアルバイトの予定であった。このアルバイトは実はフロムAで見つけたもので、事務のバイトの募集だったのだが、プログラマーも行けば雇ってくれるとみて、申し込んだのであった。当時のスクウェアは、まだパソコンショップでこれからソフトウェアを作ろうとしているところだった。まだあまりプログラマー経験のなかった坂口氏にとって、これが実は幸いしたのだ。
このときは、その企画がポシャってしまい、なんとお金がでなかったのである。それでも当時アップルユーザーだった坂口氏は、アドベンチャーゲームならなんとかなるのではないかと思い、そのままズルズルとスクウェアに残り、アドベンチャーゲームを制作した。このときのゲームが「ザ・デストラップ」である。このゲームのすべてを坂口氏が制作したわけではなく、最初にボツったプロジェクトの面々と制作した。グラフィックが3人、プログラマーが2人、全部で10人ほどである。坂口氏が実際に担当したのは、シナリオとプログラムが少し、それと全体のまとめであった。
デストラップの後、1985年1月から2作目の「Will」の制作にとりかかる。Willでアニメーション処理を成功させた氏は、次にロールプレイングを作りたいと思っていた。1秒間に12コマくらいを出せるアニメーションルーチンをその後完成させ、これをどうロールプレイングに活かすかということが問題であったが、アニメーション処理をもっと完成度の高いものにするために、原画はサンライズに制作してもらうことになった。当初考えていた中世のイメージからロボットへと路線が大きく変わったために、かなり設定で苦労したようである。シナリオは当時「アムトラック」を制作していた青木氏(チョコボの作者)が加わった(このためにアムトラックは発売中止になった)。
ブラスティ制作時、坂口氏はまだバイトのままであった。坂口氏は元々プログラマーとしてスクウェアに入ったが、ブラスティ制作時には、企画屋に転身していた。これは坂口氏がコツコツやるプログラマー気質よりも、企画として目立ちたいという気質の方が強かったためかもしれない。この後、大学を卒業したのかは不明だが、スクウェアの正社員となり、副社長まで上っていった彼の人生も非常に興味深いものである。

参考文献:テクノポリス86年、ログイン85年11月号、12月号
坂口氏の写真:ログイン85年10月号P.103より引用

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