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・発売日 1987年5月 ・発売機種 PC-8801mkIISR X1turbo MSX2 (要:漢字ロム) ・メディア 2D×2 (88, X1) 2DD×2 (MSX2) ・価格 7,800円 |
「WINGが88, X1市場へ参入」。この話を聞いたとき、MSX時代からのWINGファ ンは、どんな作品が出てくるのか心配だったのではないだろうか。後にMSX2版 も発売されたとはいえ、MSXから88SR, X1turboへの性能的な向上に伴い、音楽 やグラフィック、文章の雰囲気が変わってしまうことが予想されるからだ。特 に作品自体のテーマ、つまり白と黒の伝説のような伝奇的題材が失われること が最も危惧されただろう。発表されたタイトルは「魔界復活」。WING的ではあ るが、白と黒の伝説とは一線を画したこの名前に、今までのイメージを壊さな い、なんらかの新しい方向性を感じた人が多かっただろう。そして、発売され たゲームはその期待を裏切らないものだった。 |
オーソドックスなコマンド選択式のAVGで、システム的には大した特徴はな い。ただ、普通のシステムと違う点として「選択肢を選んだ後にリターンキー を押さなければいけない」というのを挙げておこう。テンキーを押すとその選 択肢のところが反転表示されるのだが、そこでリターンキーを押さないことに は決定したことにならない。選択ミスを防止するというメリットはあるが、キー 入力の回数が多くなるというデメリットに比べると取るに足らないことで、あ まり評価できない。何故こんなシステムにしたのか少々疑問だ。 因みに選択肢が「話をさせる」「行かせる」など、使役の形になっているの は、プレイヤーは登場人物を直接操作するのではなく、その背後霊となってキャ ラクターを導くという設定だからだそうだ。
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以前の、デッサンの崩れたお世辞にも上手いとは言えない絵から、取り込み 画像(昔の言葉で言うと画像入力)の美しいグラフィックになった。取り込み とはいっても写真そのままの絵ではなく、2値化された単色グラフィックになっ ている。これは色数云々よりも、手前に人物を表示するときに見辛くならない ようにするための措置だと思われる。派手さを押さえたこのグラフィックは、 日本密教に則した作風と良く調和しており、また場面ごとにその色を変えるこ とによって全体が単調になるのを防ぎ、うまくその場の雰囲気を作り出してい る。この WING 初の試みは、多くの点で高く評価できるものと言えるだろう。
これとは対照的に、人物画などは手描きで、陰影が付いて少々イメージが変 わっているものの、基本的には今まで通りの雰囲気を持った絵になっている。 背景と全く一体化せずに、人物だけ浮いた様な奇妙な感じになっているのがと ても良い。 |
内蔵音源になるということで不安もあったが、FM音源を活かした音作りがな されている。全体的にBGMに徹していると思われる単調な曲で、正直なところ、 一曲一曲にはあまり聞くべきところはない。これは少々残念なことではあるが、 場面の展開の仕方によって曲をアレンジし、雰囲気を盛り上げている点は評価 できる。特に住職に合うため、国東塔に行くシーンでの音色の変化はなかなか のものだ。このように雰囲気を盛り上げてくれるBGMなのだが、人物の絵をロー ドする度に音楽が途切れるのは興醒めだ。まあ、技術力の無さには定評のある WINGのことだから、初めての機種ではしょうがないと言えばしょうがないが。 ゲーム中の曲はこんな感じだが、オープニングとエンディングではきっちりと を聴かせる曲になっている。特にオープニングの曲は素晴らしく、音的にも中 盤から後半に掛けてのブラス系の音がとても良い。後のWINGのFM音源の曲の基 礎を築いたといっても過言ではないだろう。 |
MSX時代から「動きのあるアドベンチャーゲーム」を作っていたWINGらしく、 この作品でも色々と面白い特殊効果を見せてくれる。パレットを点滅させる単 純なものから、アニメーション、RGBページのずらし(またはそれらの組み合 わせ)などの見た目の効果に、絶妙な効果音を合わせてくる。効果音について は、オープニングでも使われている「鐘」の音が秀逸。とてもインパクトのあ る音だ。また、前兆的なシーンで使われる不安定な「鈴」の音は、次に何が起 こるのかという不安感をあおってくれる。
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ゲームシステムのところでも書いたように、一見するとオーソドックスなコ マンド選択式のAVGで、実際少々プレイしただけなら、システム的に何のヒネ リもないゲームに見えるだろう。だが、これはナメてかかるとえらい目にあう。 通常コマンド選択式のゲームは、謎(フラグ)が分からなくても、手当たり次 第にコマンドを選んでいけば必ずクリアできる。しかしこのゲームの場合、そ んなことをしても堂々巡りを繰り返すだけで、何の解決にもならない。何故か というと、コマンドを選ぶ順番がモノを言うからだ。たとえば歳良(住職代理) に照覧石の持ち出しを断わられた後、豊後大学に戻り、そこで歳良からの電話 を受けるためには、教授が「もう一度行くか」と言った直後に「行 かせる」を選択しなければいけない。教授が違うセリフを言った後に霊願寺へ 出かけても、何の進展もないのだ。これは結構分かりやすい方だが、最後の大 魔王辺りになるとメッセージからの推測がかなり難しくなる。このせいで、一 部では「超順番ゲー」などと言われたりもした。
これが難しい点であることには違いないが、本当にこのゲームの難易度を上げ ているのは、「フラグに何の必然性もない」というところだろう。AVGでフラグ が立つときは、そこに出てくるメッセージに関係したことについて進展があるの が普通だ。関係ない場合(単に未読メッセージの消化など)でも、少なくともフ ラグが立ったことが分かるよう、表示されるメッセージが変化したり(もしくは 変化しなくなったり)するものだが、このゲームではその両方が欠ているところ がチラホラと見受けられる。一番始め、消えた供岩跡から住職の数珠を発見する ところでは、一度霊願山頂上に上って会話してから境内に下り、そこで会話して からもう一度頂上に上らなければいけない。もちろん境内の会話で関係のあるメッ セージなど表示されず、それどころかメッセージ自体にまったく変化がない(し かしこれがフラグなのだ)。これは欠点と呼んで差し支えないだろう。魔界復活 のゲームとしての評価が低いのは、このせいではないだろうか。
魔界復活が難しい理由はこれだけでは終わらない。更に「誰が何を持ってい るか」がゲームに影響したりもする。ゲーム中で4つの重量なアイテムが登場 するのだが、これを場面に合わせて(とは言っても必然性ゼロなので博打しか ないが)上手く持ち変えないと、直ぐにゲームオーバーになってしまう。しか も持ち物がフラグになる場面の少し前に、よくちょっとした引っ掛けがある。 神城が「照覧石」を持っていなければいけない風林寺の叢の場面では、直前に 教授に照覧石を渡すシーンがあり、ちゃんと「持ち物移動」で神城に照覧石を 持たせなければ、ゲームオーバー(下手をするとハマリ)が待っている。この あたりはかなり意地悪に難易度を上げている。 |
このゲームのパッケージには2つの付属物が入っている。一つは『魔界マッ プ』で、これはその名の通り、ゲームの舞台の地図だ。といっても実はただの 九州の地図なのだが、車で数ヵ所の霊場を移動するこのゲームにおいて、雰囲 気を盛り上げる素晴らしいアイテムになっている。ゲーム中でも「見る」コマ ンドによって、移動中の周りの情景が表示されたり、会話中でも地図を前提と したメッセージが出てくるので、これを見ながらだと、臨場感たっぷりにプレ イすることができる。マニュアルによると重要なヒントが隠されてるとのこと だが、一体何処がヒントなのかは分からない。実際、ゲームをプレイするとき、 特にこの地図が必要となる場面はない。大分の所にWINGの会社の場所まで書き 込んであるのはご愛敬といったところか。なお、この地図は精度0%なので、 九州へ旅行する際には使用しないで欲しいとのこと。
もう一つは『魔界サウンドテープ』で、これは白と黒の伝説のようなBGMテー プではなく、飽くまでおまけのイメージサウンドテープということのようだ。 音楽にこだわるWINGとしては、やはりFM音源のBGMだけでなく、持ち前のシン セサイザーを駆使した音楽を提供したかったのだろう。A面の曲のタイトルは 「魔界復活組曲」で、マニュアルによると、「魔界の者達が復活を祝い、私た ちの住む現界に魔界の波動が、押し寄せてくる。餓鬼、妖魔、魔王、大魔王が 影のように音もなく、滑るように魔道を通り、流れてくる」という様子を組曲 風にまとめたそうだ。実際には太鼓の音をバックに魔物達の声が聞こえる異様 な曲で、「組曲風」というのはどうかと思うが、「押し寄せてくる」感じは恐 いくらいに良く表現されている。また、魔物達の笑い声は、ただ魔界の復活を 祝うだけでなく、恐怖する非力な人間達を嘲笑うかのようにも聞こえる。後半 の歪んだ異様な声は、引き裂かれた人間達の苦しみの叫びなのだろうか。
B面は「魔界戦士」で、エンディング曲のアレンジになっている。不動明王 に選ばれた戦士達が、魔界の者を倒し魔道に魔物を追い込み、魔界に迫ろうと する戦いをイメージした、激しいヘヴィーメタル風の曲らしい。ギターはヘヴィ だが、全体的には1980年代前半のプログレッシブハードロックに近いものがあ る。傷つきながらも、自らの運命にしたがって魔界に乗り込んでいく神城達の 様子が良く表現されている。 なお、心臓の弱い人や精神力の弱い人、霊媒体質の人はボリュームを下げて聴 かなければいけないそうなので、気をつけて欲しい。 マニュアルにもちょっとしたおまけが付いている。「魔界復活実用辞典」が それで、ゲーム中に出てくる言葉や、一般的なオカルト用語のミニ辞書になっ ている。こういう方面に暗い人は、先ずこれを読めばいいだろう。この実用辞 典(そう、「実用」なのだ)は後に「怨霊戦記」で第二版が発行されることに なる。 |
新しい機種に挑戦するにあたり、グラフィックや音楽の面でも変化があったが、 一番変わったのは、そのストーリーの下地となった背景設定だろう。今までは オカルト雑誌に載っているような、超能力や超古代文明などをモチーフとした 世界観を元に、WINGの独自の「光と闇」の世界を構築していたが、この作品で は、もっと身近な題材である仏教(密教)を元にした世界をベースにしている。 このような歴史的事実を絡ませた、日本人の心に根差した世界観が、この作品 にこれまでとは違った深みを与えたことは言うまでもない。
その世界観に沿って演出されている「恐怖」は、このゲームの主題とも言え る。よくある、プレイヤーを驚かせるタイプのものではなく、飽くまで「静」 を基調とした恐怖の表現は実にWINGらしい。特殊効果による演出も、「動」を 感じさせる「静」といった印象を受ける。また、「恐怖」という新しい題材を 生かしつつも、ストーリーの流れはWING得意の伝奇的冒険活劇で、後半はお決 まりのサイキック戦になっている。 流れとしては起伏もあり、進行には全く文句はないのだが、その中核をなす 登場人物、特に主人公の神城のキャラクターが、今一つ不鮮明なのは不満が残 る。尤も、福永教授が前面に出ているので、お付きの者的な神城は、印象が薄 くならざるを得ないのかもしれないが、後半でいきなり妖魔を殺しまくる様は、 あまりに統一感が無さ過ぎるだろう。 |
魔界復活はWINGのあらゆる意味での転機とも言える作品で、ゲーム的には低 い評価を受けながらも、その果たした役割は大きいだろう。個人的には、堪え 性のない福永教授も、下手をすると分裂症気味にも感じられる神城のキャラク ターも、長所も欠点も含めて大好きなゲームだ。もしかすると、その高い難易 度に苦しめられたことが、逆に心に強い印象を残したのかもしれない。この愛 憎入り交じりのゲームを敢えてお勧はしないが、せめて、こういうゲームがあっ たことだけは知っておいて頂きたい。
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