シルフィード


ゲームアーツより1987年3月に発売


Story

宇宙暦3032、人類は冥王星軌道で遭難した宇宙人の恒星間宇宙船を発見した。これを解析して、人類は外宇宙に飛び出した。そして短時間に銀河連邦を築き上げた。しかし、星が多くなれば、無法地帯も多くなり、連邦に反逆する者達には都合のよいことだった。狂暴な反乱軍のリーダー、ザカリテは連邦造船所を襲撃して完成したばかりの新造戦艦グロアールを奪取した。そしてザカリテは次に惑星破壊ミサイルを手に入れるために防衛基地を襲撃した。これを壊滅するためにコンピュータが出した成功率のもっとも高い作戦は、最終テストの終了した戦闘機SA-08シルフィードによる単独攻撃であった。(マニュアルより抜粋)


88史上最高のシューティング登場

シルフィードには"88史上最高のシューティングゲーム"という代名詞がついてまわる。もし当時このゲームをプレーしたことがなく、画面だけみたら「なぜ?」と思う人がたくさんいると思う。画面は宇宙空間にポツリポツリと敵がいるだけで、寂しくも見える。しかし、このゲームのすごさは、88というハードを知った上で述べられるべきことであり、当時88でゲームを遊んでいなかった人にはなにがすごいのか伝わりにくいだろう。




ゲームを起動すると、デモが開始される。デモはまるまるディスク1枚を使用するという贅沢さで、映画のような英文がカッコよく表示された後、シルフィードが格納庫から発射し、宇宙に飛び出す場面がワイヤーフレームで描画される。1987年ごろのゲームでは、徐々に簡単なデモがゲームに挿入されるようになっていたが、シルフィードのデモは他のゲームと一線(どころかそれ以上)を駕していた。それはデモでありながら、高速なワイヤーフレームに見られるように、高度なプログラム技術が贅沢に使われていることに見ることができる。そして、その演出も実にすばらしい。


ゲーム開始

ゲームを開始すると、いきなり反乱軍のリーダーであるザカリテが出現して、音声でしゃべリだす。ザカリテのモデルは、アタリのベクターゲーム「スペースフューリー」らしいが、この声はいままで聴いたことがなかった。「わたしは宇宙の帝王ザカリテ・・グロアールある限り、貴様らごとに破られはせぬ(←あっているのかな自信なし)」。この音声はFM音源のCSMモードというものを使って合成している。しゃべるゲームといえば、それまでの88でもいくつかあった。たとえば、キャリーラボのビクトリアスナイン。これはFM音源(PSGの可能性もあり)を使用した音声合成である。またBEEPを使用したものもいくつかあった。CSMモードは、音声データをホルマント解析(解析にオシロスコープを使ったりするらしい。筆者もよくわからない)して、4個の波形に分割し、それをFM音源3chの各オペレータそれぞれに割り当てて発生させるというものであった。
CSMモードは、非常に複雑な計算やプログラムを必要とし、実際にこのプログラムだけで3ヶ月かかったというエピソードもある。大変な労力の割には、音声はBEEPなどの音声合成よりもかなり聞き取りにくい。そのために、他のメーカーでこの方法により音声を発生させたところはなかった。それでも敢えてゲームアーツがこの方法をとったのは、音声データが非常に小さなデータで済むことと(音声合成やPCMではデータがかなり大きくなる)、ゲームアーツの技術に対するこだわりだと思われる。


ゲームは単純明解で、せまり来る敵を撃って撃って撃ちまくるというものだ。敵機は従来の88のゲームのような平面のものではなく、きちんと厚みがあり、立体的である。しかもそれがだんだん大きくなったり、回転しながらとか、複雑にな軌道を描いて攻撃してくる。いまでいう「ポリゴン」的な感覚だ。キャラクターはすべてX,Y,Zの座標データを持ち、これらすべての動きのデータを手計算で行った(3Dなので位置によって見えない場所などがある、この陰面処理も手計算)という。計算しておいた3次元データをあらかじめ用意しておき、ゲーム中にリアルタイムで2次元のデータに変換している。しかもシルフィードの画面は3プレーンすべてを使用しているために、処理はかなり重いはずなのだが、そんなことは全く感じさせないほど敵機の攻撃は速い。


次に自機の武器だが、全部で5種類ある。単発の「FORWARD BEAM」、前に5発、横に2発でるが連射ができない「PHALANX BEAM」、V字型に撃つ「V-WARD BEAM」、破壊力の大きい「LASER CANNON」、全自動照準の「AUTO-AIMING」である。最初に使えるのは、「FORWARD BEAM」のみであるが、スコアを5万点取るごとに使える武器が増えてくる。また武器を変更すると、自機の形状がきちんと変化するという凝りようだ。この武器の選択は非常に重要で、面の構成に合わせて選んでいく戦略性が必要となる。攻撃力から見ればレーザー(LASER CANNON)が最強の武器だが、面によってはレーザーを跳ね返してくる敵が多数登場する。このような面にレーザーを装備するとかなりの苦戦をしいられてしまう。レーザーの美しさとスピードは爽快感バツグンである。

自機はパワーアップが可能で、たまに飛んでくる赤い敵「タイラ」を倒すとパワーアップアイテムが1つ放出される。これを取ると、連射になったり、シールドが回復したり、一定時間無敵になったりする。

敵機に当たったり、敵の弾に当たると、シールドが1つ削られる。シールドがなくなると、そこからはエンジンが壊れたり、武器が壊れてしまう。エンジンが壊れたときは、自機がヨタヨタな動きになり、キー操作もおぼつかなくなる。なかなかリアルである。



豊富な面構成

ステージは全部で20あり、大きく分けて4種類のステージで構成される。通常の宇宙空間で戦う面、そして惑星軌道上で戦う面がある。惑星軌道上の面はだんだん惑星が画面下からみえてくるという演出で、惑星の描写は残念ながら青一色なのであるが、演出としては見応えはある。また敵の要塞に突入する面は秀逸である。要塞面は、要塞に突入するデモから始まり、中に入ると基地の壁が現れ、動きが制限される。壁は単色で特に凝っているわけではないのだが、なにか独特の雰囲気を持っていた。
アステロイドの中を駈け抜ける面もある。絶え間なく多数の隕石が流れ、その中を自機が航行するというものだ。もちろん敵も出てくる。かなりの数の隕石が動いているが処理落ちはほとんどない。


各面の最後にはボス戦艦が控えており、大きな(といってもこの当時の大きいというのは、それほど大きくないが)ボス戦艦が画面中を移動しながら、さまざまな攻撃でプレーヤーを苦しめる。このボス戦艦の攻撃方法が実に多彩で、このゲームの1つのウリになっている。



ラストの面になると激しいボス戦艦のラッシュが続く。このボスラッシュ、それまでのボスが次々に登場する。実はこのボスラッシュ、開発側ではプレーヤーを苦しめるために入れたのではなく、自機がここにたどり着くまでに成長したことを演出したかったらしい。ボスラッシュに登場する戦艦はどれも耐久力がかなり低く設定されていて、それをプレーヤーがあっさり撃退することによって、そのような効果を狙ったそうだ。しかし、このラッシュは筆者から見ればかなりの難しく思うのだが。
最後にグロアールが登場する。グロアールが登場する前に、音楽が不気味なものに変わり、グルアールがいきなり画面内にワープイン!!。 この演出はなかなか凝っている。グロアールは多彩な攻撃方法でプレーヤーを苦しめる。たぶん、1面から始めてグロアールまでたどり着くのは、相当な努力が必要だと思うが、このグロアールには一見の価値がある。



うわさのカウンターストップ

実は、このゲームには別のエンディングが存在する。そのためには、スコアをカウンターストップさせ面クリアしなくてはならないのだが、カウンターストップさせるには、9999990点を取得しなければならない。この点数は通常にプレーしていても絶対に不可能である。実は筆者もカウンターストップさせたことがない。これを行うには、以下の方法で行うらしい。(情報:神楽瑞樹氏)

エリア9で出現するバリア・アイテムを持ったままの状態で、エリア17のバリアチップをもう一度取ると200万点のボーナスポイントが得られる。
スピードアップ(またはオートマチック・ファイアー)のアイテムを持ったままの状態でスピードアップ(またはオートマチック・ファイアー)を取り続けていくと、スコアが大幅に加算される(ただし、そのあいだ他のアイテムは取ってはいけない)。
この方法で得点アップを狙えば、最終面直前頃にはカンストしているはず(エリア19までに、9999990点に達していればOK)。
バリアアイテムは、敵弾は完璧に防ぐが敵の体当たりで一発で破壊されてしまうため、それをキープし続ける事自体が困難(敵の攻撃のメインが体当たりのため)。さらにスピードアップ(オートマチック・ファイア)以外を取ってはいけないという条件は、簡単そうに見えてかなり厳しい。

参考までに、どんな感じで点数が入っていくのかを示しておく。
スピードアップの場合
1個 1000点
2個 3000点
3個 5000点
4個 10000点
5個 15000点
6個 20000点
7個 30000点
8個 50000点
9個 100000点
10個  200000点
11個  500000点
12個以上 1000000点

オートマチック・ファイアの場合
1個 5000点
2個 10000点
3個 20000点
4個 30000点
5個 50000点
6個 100000点
7個 200000点
8個 500000点
9個 1000000点
10個以上 2000000点

単純にエンディングだけをみたいのであれば、隠しコマンドでパスワードが存在する。このパスワードをタイトル表示中に打ち込み、ゲームを開始すると、途中面から始めることができる(ただしグロアールは自力で倒さなければならない)。パスワードは以下のとおり。

06面へのパスワード 04134507
11面へのパスワード 88016800
16面へのパスワード 340638308
20面へのパスワード 308153101

ついでにその他の隠しモード

[ESC]キーを押してデモを止めた後、[CTRL]キーと[F5]キーを同時に押すとサウンドテストモードになる(曲のタイトルも出ます)。次の曲に進むときには、スペースキーを押せばOK。ちなみに、放っておいても2ループすると自動的にフェードアウトして次の曲に進む。個人的に残念なのが、ボスの曲は本当は2バージョンあるのにサウンドテストでは1つだけしか聞けないということである(前奏が異なっている)。

続いて隠しゲームについて。ディスク2にはDISK BASICのミニゲームが2つ収録されている。遊ぶためには、88のシステムディスクを立ち上げ、ゲームディスク2をドライブ2に入れる。そこから「FILES:2」を取るとファイルネームが出るので、「RUN "2:XACALI.TE」などと入力することによって、2つの隠しゲームが遊べるようになる。隠しゲームの詳細は次の通り。

1. "SILPHE.ED"

自機を左右に動かして、上から降ってくるザカリテを弾でやっつけるゲーム。ゲームスタート時にウエポン選択ができるので、1~3の中からセレクトしてゲームスタート。ザカリテを倒しているうちに、グロアールが出現するので、それを倒しましょ う。
ザカリテが一番下まで来るかグロアールを倒すとゲームオーバーで、メッセージ が表示される。

2. "XACALI.TE"(ザカリテの復活)

「ワタシハ、ウチュウノテイオウ ザッザッザッ・・・ザカリテダ」と言う(実際には文章が表示される。)ので「ザカリテダ」と言い切った瞬間にスペースキーを押してザカリテを倒す(?)ゲーム。名前を言い切らないうちにスペースキーを押すと、ザカリテに「ヒキョウモノ」扱いをされてしまうので注意が必要。また、キーを押すタイミングが悪いと殺されてしまう(「オマエハシンダ」と表示されます)。単純だが、熱い。

隠しキャラ

月にいるモノ

エリア5終了時のデモ画面でU+S+Aとキーを押すと、一番手前の惑星上にウ サギが出現する。ベタなギャグな感じがするが、隠しキャラというものは、見つけると嬉しいモノである。

残虐行為手当

エリア10のデモでD+A+Eのキーを押しっぱなしにすると、本来なら敬礼を するはずの管制官のクビが吹っ飛ぶという、衝撃度150%なデモ。管制官の倒れ方が思わず笑いを誘う(不謹慎かもしれませんが、本当に笑えます)。

3032年宇宙の旅

エリア15の終了時のデモ中にM+O+Nと押すと右側からモ○リスが、D+I+Sと押すと某宇宙船ディ○カバリー号が飛んでくる。そのまま放っておくと2つとも中央で止まるが、さらにB+O+Mを押すと衝突する。


音楽

シルフィードは音楽もなかなかすぐれている。全12曲で、フュージョンっぽい軽快な音楽から、ボスとの死闘を感じさせる緊迫感のある音楽、デモで使用される心地よい音楽、グローアル登場時の不気味な音楽。どれもよく出来ている。音楽を担当したのは、五代響(池田公平)氏(おそらく音源ドライバも彼の手によるもの)、メカノアソシエイツ、大葉裕美氏。メカノアソシエイツは、舞台衣装なども手掛ける外注の会社である。ゲームアーツが音楽まで内部でやるのは大変なので、専門のところにまかせようと求人を出したところ、応募してきた一件がメカノアソシエイツであったらしい。他の応募はほとんどが、どうしようもないレベルだったり、ある程度のレベルであっても「ゲーム音楽」向きではないものだったのだが、メカノアソシエイツの応募テープはキラリと光っていたというということだ。
メカノアソシエイツの曲の特徴は、ベースとドラムスを1パートで表現するという点だった。FM3音しかないOPNで、まるで4音発声しているかのような錯覚させるテクニックは、音楽担当していた大葉裕美氏もびっくりしたそうだ。
音楽の特徴として、FM音源のビブラートが挙げられる。よく聴くとわかるのだが、音が4符音符以上(正確には分からないが)なると、音が大きく揺れるのである。シルフィードではFM3音のみ(PSGもドラムスに一部使用)で曲を制作しているため、音の厚みを出すための効果として成功している。このビブラートは、音源ドライバ自体がサポートしていれば、簡単にできる機能なのだが、筆者の記憶では、ここまでビブラートを活かした音楽は88では初めてではなかっただろうか。ちなみにシルフィードのCDはシングルCDとして1988年にアポロンから発売されている。



大幅に遅れた開発

シルフィードは発売が非常に延びたことでも有名である。シルフィードの開発は実はテグザーと同時に開発が開始されたらしい。当初85年冬から86年春にかけて発売予定だったシルフィードであるが、実際に発売されたのは87年になってからである。当時のパソコン業界では、ソフトの延期は当たり前のように起こっていて、あまりに多いために、PC-Magazineという雑誌では「遅延ソフトコーナー」というものが出来てしまうほどであった。シルフィードはあの「テグザー」を作ったゲームアーツの次回作ということもあり、まだかまだかと待ちわびたユーザーも多かった。
シルフィードの初期バージョンは、左右にしか動けなく、対地攻撃のある「ゼビウス」のようなものだったらしい。その写真を添付しておくが(ログインから掲載)、自機は完成版よりも凝った表示になっており、左右にエネルギーを表示するメーターがついている。自機はポリゴンではなく2Dだったようだ。86年に入り、全面的な作り変えが始まった。シルフィードは、メモリや速度的にギリギリのところで制作していたため、バグが出現したらデバッグし、そうするとまたプログラムが増えるので、メモリの制約上どこかを削ったり・・という作業を繰り返していたために、作業が雪だるま式に増えていってしまったそうである。結局、総勢約20人を巻き込み、2年間もかかってこのゲームは作られたのである。

しかし、シルフィードはそれだけの価値があるゲームに仕上がった。88のゲーム(パソコンゲーム)全体を語る上でも欠かせないゲームになったのである。

最後に。シルフィードの発売後、普通のシューティングゲームは88ではほとんど発売されなくなった。ここまでの技術を見せられては、他のメーカーも同種のソフトは作りづらかったのだろう。他のメーカーがこのようなゲームを発売するときは、必ずストーリー性でプラスαを補っていた。シルフィードは他のメーカーにも大きな影響を与えたと思う。

ゲームアーツという技術集団は、シルフィードを見る限り、パソコンでお金儲けをするのではなく、パソコンゲームで芸術を作ろうとしていたように見える。西暦2000年になった現在でもゲームアーツにそのこだわりは感じることができるし、これからもそうあってもらいたいと思う。

シルフィードに関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はゲームアーツに帰属します。