PIRATES! by MTB氏
(株)マイクロプローズジャパンより1989年7月発売
プロローグと目的
時は大航海時代、カリブ海の大海原を舞台に列強国が入り乱れての戦国の世。
めぐるましく変わる国々の攻防、武力と権力が試される時代。勇気と君主への忠誠心さえあれば騎士になれた時世。プレイヤーは船長となって、富と名誉、魅力的な女性との出会い、あるいは生き別れになった家族を求めて、カリブ海に旅立つ。
と、プロローグは兎も角、このGameの目的は、「海賊稼業で財産を作り身分を得、引退した後に何の職業に就いているのかな~?」って事でしょうか(^^)
でも、目的なんて何でもいいのです。楽しくさえあれば…。
パイレーツ!のジャンル
このGame、ハッキリした終わりの時がありません。
Playする気になれば、PC(PlayerCharacter)が天寿を全うするまで海賊稼業を続けられる(ただし、年老いた船長に付いてくる船員がいるかどうかは疑問)し、地位と財産を貯め続けてもいいでしょう。
自分が「止めた」と決めた時点でGameは終了し、それまでの人生が評価されます。
また、謎解きあり、PCの成長(身分が上がる)あり、アクションシーン(フェンシングや海戦)あり、戦術重視の陸戦あり…と、ありとあるジャンルを網羅しているにも関わらず、その非常に洗練されたGameSystemのおかげで、全く違和感なくGameに取り入れています。
一般に、当時の日本のシミュレーションは、光栄の三国志シリーズに代表されるように、「Data量の豊富さ」こそ命綱のように考えられていましたが、パイレーツ!をPlayして、Gameとはジャンルに関係なくGameSystemが全てだと改めて認識した次第です。
他国の船を奪い、街を襲撃し、多くの富を得て自国での地位を確保する。「17世紀のカリブ海をそのままパソコンに移し替える事」こそが、デザイナーのシド・マイヤーひいてはマイクロプローズ社の意図した所だった筈です。ただ、あまりにSystemが確立されているが故に、あえてどこかのジャンルに入れるとするならば「シミュレーション」としか表現しようがないのでしょうが、この壮大な計画は、シミュレーションという1ジャンルで表現するにはあまりにも窮屈すぎる、と考えます。
パイレーツ!とは一見無関係な諸々の事
まず、下の絵は、PCと、このGameで最も美しい(と思われる)女性です。
アニメで育まれた日本のゲーマーから見れば、落書きもいい所でしょう。正直言って当方も、このGameを購入してBootした途端、眉を顰めたモノです。ましてや当方の場合、自分でも絵を描くが故に、特にその思いは強かったと記憶しています。ただ、Gameをしていると、絵の雑さは全く気にならなくなります。イマジネーションとは、絵によってかき立てられるモノではなく、もっと総合的な要素が絡みます。何を表現しているか見分けられる程度の「図」でさえあれば、特に絵にこだわる必要ないのです。
※ 余談ですが……パイレーツ!の絵は、下手な訳ではありません。単に雑なだけです。ホントに下手な絵は、デッサンの狂った絵です。有名な見分け方ですが、CGを左右反転してみましょう。紙の上に描かれた絵ならば、鏡に映してみましょう。下手な絵ならば一目瞭然、全く違った絵に見えます。
当時、パソコンGameにはProtectが掛かっていて、Copyが取れませんでした。当然、パイレーツ!にも掛かっています。それどころか、マニュアルチェックもありました。が、マイクロプローズジャパンのユーザーフレンドリーな所は、BackUp券なるモノが、パッケージに同梱されていた事。2000円分の郵便為替とBackUp券を同封してマイクロプローズジャパン社に送れば、もう一枚GameDiskを受け取れる。当時、違法Copyが問題視され、各Soft会社が闇雲に取り締まりを強化しようとする中で、有効性は兎も角、マイクロプローズジャパンが我々Userに対して示したひとつの提案だったのです。
よく比較されるのが光栄の大航海時代です。ただ、この場で大航海時代とパイレーツ!の比較を論じるつもりは毛頭ありません(だって、比べるだけ無駄だもん(^^;)が、光栄のSLGについて閑筆を労します。
一連の光栄Game全てに言えることですが、一言で言って企画が甘い。
コマンドやパラメータを多くして、如何にも[複雑なSystem]だと思わせぶりですが、単純に数が多い為、Playerがコマンドを理解するまで時間がかかる。結果、長く遊べる。たったそれだけの事です。数多くのコマンドを駆使しても、たいして新しい事が出来る訳ではありません。要するに、無駄が多いのです。
SLGの初心者は、この操作を理解する事自体を、「面白い」と錯覚するのですが、ちょっと慣れてくると底が割れる。中級者以上のゲーマーに、光栄の支持者が圧倒的に少ない(あくまで当方の周囲では…)のは、この為だと思われます。
SLGであるにも関わらず、さながらストーリー性の強いRPGのような環境移入が出来る三国志のSyatemが光栄の長所であると共に、アキレス腱にもなっているのでしょう。
ここがパイレーツ!との隔世の違いなのですが、パイレーツ!の場合は、PCに対する思い入れ…よりもむしろ、カリブ海に対する思い入れが深くなるのです。本当に、カリブ海を愛することが出来るのです。
大航海時代をPlayしていて、海に感情移入する人はいませんよね?
要するに、大航海時代とパイレーツ!では、制作者の意図するところが違う。比較する事自体無駄なのです。
パイレーツ!の本質と人間性
Resetをしない。
たったこれだけの事が、たかがパソコンGameにとって、どれ程難しい事でしょう?
数時間で終わる一部のGameを除いて、二進も三進もいかない場合、あるいはPCが死亡して再Loadを強制された場合など、Gameを進める上でResetスイッチは必需です。
ただここに、Resetなど必要のないGameがあります。もちろん、より良いEndingを目指すならば、パイレーツ!でもResetは必要でしょう。ただし、文字通り、マイクロプローズ社の意図するような楽しみ方…つまり、カリブ海での略奪行為を楽しむ為…には、[神の指先]は必要ありません。
例えフェンシングに負けて捕虜になろうが、全ての船が座礁して遭難しようが、半年間の無為な時を過ごすだけで、決して再Loadを強要される事はありません。これをご都合主義と言えばそれまでですが、あくまでリアルに作ってUserの負担を増すよりも、娯楽に徹したデザインは、やはりシド・マイヤーの慧眼といえます。
何より、Playerが大ミスをしても決定的なダメージやペナルティが科せられない、懐の深さがパイレーツ!の大きな魅力でしょう。
いい加減なPlayをしても、真面目に略奪行為に打ち込んでも、やったなりの結果が出る…「貴方のPlayではダメです。もう一度やり直しましょう」的に、Gameの楽しみ方を制作者側から押しつけられるような事はありません。制作者に管理されている事を意識せずに…言葉を換えれば、より自由に…Play出来るGameは、残念な事にあまり多くありません。また、悲しい事に、日本のゲーマーの多くが、「このGameはこういう風にPlayするんだ」という先入観にとらわれすぎているという現実。
パイレーツ!は海戦のシミュレーションだ→敵国の船を襲わなければならない→そうして母国での身分を得る必要がある。…こういうのは単なる思いこみです。その気になれば、一度も戦闘する事なく、相当の身分まで昇格する事が可能です(かなり困難だが)。
固定観念をぶち破る事こそ、このGameを本当の意味で楽しむ為の資格です。
それでも尚、マニュアル通りにパイレーツ!人生を歩むか、破天荒な一生を送るか、弱小の輸送船や商船ばかり襲撃してセコく財産を貯めるか、その反対に一攫千金を目指して銀の輸送隊や宝船を追い続けるか、ありとある国家を渡り歩いて八方美人的に暮らすか……パイレーツ!の世界は、いわば我々の人生の縮図です。些か誇張気味に表現するならば、Playを通して、個々の人間性や人生観を問われる事になるでしょう。
一般に、シミュレーションGameは、やり込めばそれなりの必勝法を発見出来るモノです。「大戦略」のようなHex型のGameでは、コンピュータの思考ルーチンの裏を読む事も可能ですし、「三国志」の[火計][計略]技のような殆ど反則寸前のモノもあります。やんぬるかな?シミュレーションの場合は特に、GameのルーチンやSystemが読めてしまうと、途端に戦意を喪失するのは、何も当方だけではないでしょう。
が、パイレーツ!には必勝法は一切ありません。Playerの蓄積した経験が生かされるのは当然ですが、それとは別に、どんな熟練者でも油断すると恐ろしく強い敵に遭遇し、アッという間に捕虜にされて半年の牢獄生活…という悪夢もあり得ますし、Playに有利と言われるイギリスを母国にしてGameを始めた時には、強い敵と出会う確立が高いようです。この辺、パイレーツ!には独自のバランス調整ルーチンがあるような気がしてならないのですが……真実は不明です。
パイレーツ!のフローチャート
上辺だけではGameの面白さもルールも説明しようがありません。で、当方のPlayに沿って、このGameの流れを簡単に紹介してみようと思います。
Pirates!に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社マイクロプローズジャパンに帰属します。
パイレーツ!は、[見習い]→[旅行者]→[冒険者]→[暴れん坊]と難易度が上がる毎に、冒険で得た財産の分配時、船長、即ちPCの取り分が増えます。
今回、当方が選んだのは1660年。マニュアルによると、最も海賊が活躍出来た時勢。フランスのブカナーズとしてカリブ海に解纜す。
まずはフランスの小都市レオガネの提督の元を訪ね、フランスの国情を訊ねる。スペインと敵対している事を知るや、早速、レオガネのすぐ隣のスペイン領プチゴーブを襲撃、街ごと略奪。返す刀でスペインの海賊のバルク船ごと分捕り捕虜にする。早速レオガネに戻ると、提督のお褒めの言葉と共に、50エーカーの土地と少尉の称号を授かる。
この年、イギリスのレターオブマルク(略奪許可証)を買い受け、当国の敵対国であるオランダも敵に回す事になる。
暫くの間は、スペイン・オランダの船、及び海賊を徹底的に叩き、時には街も襲撃し、今まであまり利用しなかった陸戦も積極的に活用する。ただ、陸戦は、消耗戦になりがちなので、なるべく多くの船員を雇ってチャレンジする事が最良でしょう。
この間に2度の財産分配を繰り返し、[見習い]から[旅行者]、更に[冒険者]へと難易度を上げる。
順調だった筈の海賊稼業だったが、思いがけない事に、一介の商船の船長ごときに敗退。カリブ海でフェンシングに負けると言うことは、半年の俘囚の屈辱を味わうという事。更に復帰直後、またもや商船の船長に後塵を拝す。結果、1年を無為に過ごした事になる。以降、暫くの間、商船を見たら逃げる…という結構情けないブカナーズとして有名になった。酒場で船員を募るときに、「あれが臆病者の船長だ!俺達を仲間にしてくれ」なんて言われる(T_T)馬鹿にされてるみたいで屈辱的(>_<)
この時引退してみたら[やくざ]だった。ちなみに、Playを始めて即引退しても[ごろつき]になれるので、いつの間にかマイナス評価になっていたようだ。詳細は、ずっと下の画面写真で確認して下さい。
27歳の時、母国フランスがスペインと休戦協定を結んだ。これによって、フランスでの身分獲得が極端に難しくなる。敵対国との戦闘以外で身分を上げるには、各都市の提督からランダムに頼まれる任務をクリアするしかないのだが、これがまたアテにならない。
フランスでの身分向上が困難になったということもあり、ここらで財産の分配をして、最高Levelの「海の暴れん坊」で再び冒険の旅に出る。難易度は上がるが、こっちの方が実入りがいい。
で早速、生き別れになっていた兄弟を探し当て、それと共に彼が持っていたスペイン艦隊が失ったインカ帝国の遺産の地図を手がかりに、この遺産(10万)を入手。船員もホクホク顔だ。
30歳にて結婚。ちなみに、既に行く先々でも愛人を作ってる。愛人や妻は、宝船と銀の輸送隊の現在地を教えてくれる貴重な情報源。また、海賊を生け捕った時、彼の自由と引き替えでも情報は手に入ります。
また、長い間同じ船員を使い続けると団結力が乱れるので、頃合いを見計らって略奪品の分配が必要。更に、船員が多すぎる場合は、各船員の分配金が少なくなり、不満が爆発するので、あまり人数が多いのも考えモノ。人数減らし目的で戦う手段もありますが、結構卑怯←こーゆー事で、Playerの性格が判る(^^)
33歳にて、この辺が潮時と引退を決断。兄、妹、父、母、祖父と5人の家族と再会して、プラチナブロンドの可愛らしい妻(上のGame画面参照)を得、それなりの名声とかなりの領地を獲得し、海賊を引退した後、[砂糖黍畑の農場主]となった。8年間の海賊生活では、決して大成功とは言えないのだが、順当な結果でしょう。
以上のような流れでPlayが進みます。
本当は、このレビューの話をもらった時には、[国王の側近]まで到達しようと思っていたのだが、敢えなく玉砕してしまいました(T_T)
まとめとして一言添えますと、各国の関係がPlayする度に劇的に変化し、通り一遍の方法では思い通りにならないのがパイレーツ!の難しく、また面白いところだと再々認識した次第です(←今回のPlay中、散々な目に合った言い訳かも…(^^ゞ)。17世紀のカリブ海を追体験できる魅力は、他のどんなGameにも決して追従出来ないモノがあると確信しています。
文章:MTB氏