デジタルゲーム保存の歴史と未来

我々の活動であるデジタルゲーム保存は、まだ海外に比べて意識そのものが低い状況にあります。なぜゲーム保存が必要なのか、またどんな技術が必要とされるのか、様々な疑問を持たれる方も多いでしょう。
NPO化に向けて、そうした基本的な質問に答えられるような準備を進めていますが、一つの試みとして今年静岡で開催された「日本SF大会」における分科会の枠をお借りして「MSXユーザーズグループ」と共同で講演を行いました。日本SF大会は今年で50回を迎え、参加者も1000名を越える歴史と規模を持ったイベントです。

「ビデオゲーム保存の歴史と未来」
2011年09月04日 13:30~15:00 グランシップ・908会議室

日本SF大会における分科会は同時に複数の企画が開催され、参加者はその中から興味のある物に自由に参加できる形式を取っています。毎回開催される企画も多くある中で、今回が初開催の講演でありながら約40人ほどの方が来て下さいました。

ビデオゲーム保存の必要性、他メディアの現状、海外での意識や保存活動、具体的な保存技術も含めて約1時間の講演と、30分の質疑応答という構成を取りました。今回は始めてということもあり、特に「ビデオゲームをなぜ保存しなければならないか」、「デジタルゲームの現存状況」について重点を置いて解説しました。

・ビデオゲームは開発元の企業で保存されていることは稀
・保存している企業もパッケージの保管が主体で、劣化に対する意識は低い
・映画業界では特に無声時代の作品の多くが失われ、取り返しのつかない損失となった

最終的には立ち見の方も出る結果となり、想像以上の関心の高さを感じられるものとなりました。また、同様の活動をされている方やゲーム業界の古いお話を伺うこともでき、当方としても得る物は大きいイベントでした。

 

8インチディスク(メディア)の実物や、HxC Floppy Emulatorを装着したPC-8801MCも持ち込み、動作している状態の展示も行いました。実際の機材が動いているところはなかなかお見せすることは難しいのですが、こうした機会を捉えて活動の幅を広げていきたいと思います。

ゲーム保存協会 日下

幻の8インチのゲーム

1970年、IBMによって開発された8インチディスク。皆さんは子供の顔ほどもあるこの巨大なフロッピーディスクをご存知でしょうか?

一昔前には国産のPCでも8インチメディアが広く採用されており、80年代前半まで、いくつかのゲームも8インチで発売されていました。他のフロッピーと同様に残念ながらこの8インチもドライブ、メディアとも90年代後半には生産がすべて終了してしまっています。

私たちゲーム保存協会では、失われ行く旧世代のゲームを将来に残す活動の一つとして、この珍しい8インチディスクに関する取組みを続けています。 ラボでは様々な技術を駆使して保存活動を行っていますが、今回はそうした取組みの一つであるイメージデータとしての8インチゲームの保存方法について、入手なども比較的容易なやり方での保存方法をざっとお伝えしたいと思います。

必要なものは:

1、5.25インチをサポートしているPC/AT機(DOS/V機) BIOSのFDDの中に1.25メガバイト5.25インチをサポートしたものが必要です。

2、8インチのドライブ これがないと始まりませんよね。今回使用したドライブはNEC製のPC-9881nに内蔵されている「FD1165A」というものです。 PC/AT機と接続する上での注意点は「ドライブ番号」と「VFO」です。 「ドライブ番号」ですが、PC/AT機はケーブルを撚ることでドライブA、Bを分けており、ディスクドライブの基盤上での番号はどちらも「1」になります。 「FD1165A」もドライブ番号を「1」に設定しましょう。 次に「VFO」ですが、これを無効にする必要があります。 ドライブの基盤上に「RD」と記載されたジャンパがあると思います。これを「センターと2」へジャンパすると無効になります。 ドライブの準備はこれでOKです。

3、イメージ化のソフト 今回はエミュレータなどで広く使用されている形式としてイメージ化を試みますので、DOS環境でM88エミュレータの周辺ツールである「DITT」を使用させていただきました。 「DITT」を制作されたcisc氏に感謝いたします。

4、8インチドライブに必要な信号を作成してくれる「D Bit製 FDADAP」アダプター 今回のキモです。 8インチドライブは「TG43」や「motor on」と呼ばれる、3.5インチや5.25インチのドライブでは使用されていない信号が動作に必要です。 PC/AT機と8インチドライブの中間に接続することで、これらの信号を作り出し、ドライブとやりとりしてくれるアダプターです。

5、接続するケーブル50ピンのフラットケーブルはいわゆる内蔵SCSIのもので問題ありません。 その他、PCとドライブを接続するFDDのケーブルは通常のものを使用しました。 今回の場合、ドライブAをDOSのシステム起動に利用し、ドライブBを8インチドライブの接続としました。 イメージ化したファイルの保存先などにUSBメモリーを使用すると作業が楽です。

これらを接続し早速イメージ化です。

1つの注意する点は「FD1165A」と「FDADAP」を接続する際にピンの配置が180度反転している点です。 ケーブルを反転して接続することだけ注意してください(1ピン側を50ピン側にする)。 この際、逆挿し防止の為のノッチ部分は削るなどの加工が必要です。

私の所有している8インチのゲーム「LOCUS-98」をイメージ化してみました。 資料によると1983年の発売とのこと。私は小学校低学年の頃で父のPC-9801でプレイしていました。 フォーマットはPC-98シリーズのディスクBASICのもの、いわゆるIBMフォーマットです。 「DITT」は163トラックまでイメージ化してしまいますが、8インチのドライブは153トラックまでしか存在しません。 154トラック以降は不要ですので、バイナリエディタなどで消去しましょう。

作成されたイメージをエミュレータで確認してみます。 懐かしい記憶が蘇りますね。

ゲーム保存協会では今回例として取り上げた「LOCUS-98」の他にもいくつかのイメージを作成しましたが、8インチメディアは劣化がかなり深刻です。 非常に珍しい8インチディスク版のゲームソフトを苦労して収集しても、ディスク自体の損傷が激しくて読み込めないものも多々あります。こういったディスクはもう諦めるしかないのでしょうか?

ゲーム保存協会では文化研究資料として、そして文化財として、未来に残す資料としてふさわしい形での保存について、国内外の研究者の力を結集し研究開発してきました。現在では、ご紹介した保存方法よりもさらに高精度の保存技術が開発されており、8インチなどの特殊なメディアに関しても、通常のドライブでは読み込めないような深いレベルでディスクを読み取って保存できる特殊な機器を駆使し、保存活動を進めています。 8インチ、そして5.25インチは、フロッピーディスクの経年数や形状的特長から、特に劣化が激しく、保存が急がれるメディアです。 ドライブについても、きちんと動作するものを確保するのはとても大変です。

私たちは、多くの人と協力しながら、未来へとゲームを残して行きたいと願っています。

ゲーム保存協会 福田

FDADAPアダプター: http://www.dbit.com/fdadap.html

フロッピーディスクの長期保管のために

一昔前、パソコンを使う多くの人たちの誰もが、フロッピーディスクを利用していました。会社の中でも、役所や学校、病院の中でも、様々な場所で情報を記録する媒体として活躍していた黒くて四角いフロッピーディスクですが、2011年の3月に最後まで生産の続いていた3.5インチフロッピーディスクの生産が終了したのをご存知でしょうか?技術の進歩と共に、記録媒体は世代交代し次々に新しいものが出てきます。そんな流れの中、フロッピーも静かに、その役目を終えようとしているのです。
私たちゲーム保存協会は、旧世代のデジタルゲームを扱う中で、フロッピーディスクやカセットテープなどのメディアを数多く取り扱っています。ゲームの場合は製作した企業の倒産や統合といったバブル崩壊後の混乱の中で、マスターデータは失われ製造上の資料も散逸していることが多く、次世代にゲーム資料を残すプロジェクトを進めるために、手もとに残るこうした一枚一枚のフロッピーディスクの保管が非常に重要となります。
現在、私たちゲーム保存協会は大事なゲーム資料を専門的な技術で丁寧に解析し、文化財として継承に耐えうる適切な形での資料の保存に力を尽くしています。しかしながら、こうした作業にはどうしても時間がかかります。数千数万の大量のフロッピーをなんとか劣化させずに保存作業が終了するまで長期保管せねばならないわけです。
フロッピーディスクの保管については、これといって明確な条件が規定されてはいないのですが、各国の研究者たちの意見などを元に、ゲーム保存協会では次のような注意点を守るべきであると考えています。フロッピーディスクの保管技術についてはきちんとした研究がまだ為されていないため、あくまでも現段階でわかる範囲での最善の保管法の予測です。

1.埃を排除する
2.カビを除去する
3.保管時の湿度30%~35%(使用時の湿度は40%~50%)
4.保存時の温度は5℃~10℃(使用時は19℃~21℃)
※湿度、温度の上下降は相互に連動して緩やかにするべき
5.ディスクは立て向きに保管
6.磁場を排除する(磁化率>AC:5Oe、DC:25Oe)
7.激しい光、直射日光の排除
8.ディスクに圧力をかけないよう注意し、ラベルを貼らない
9.直接手で触れたり曲げたりしない(手で作業する際は角を持つ)
10.パッケージや通常スリーブとディスクを別々に保管(カビ除去機能を有するスリーブに入れて保管)

フロッピーディスクには8インチ、5.25インチ、3.5インチなど様々な種類がありますが、中でも私たち団体での所有数が多く、80年代のゲーム文化黄金期を伝える資料的意義の高い5.25インチフロッピーディスクは、保管方法に様々な問題を抱えています。
5.25インチフロッピーは非常に薄く、さらにカビも入りやすいため、注意して保管しなければ、ディスクの中身を救う前に物理的に壊れたり、修復不可能なまでにカビが生えてしまう可能性があるのです。80年代の資料には既に手遅れなほど劣化が進んでしまったものも沢山ありますが、ゲーム保存協会では一つでも多くの資料を救うため、フロッピーにとって最適な保管状況を実現できる保管庫の開発を専門の方々にお願いすることにしました。

フロッピーの長期保管は、まだ誰も考えていない未知の分野です。この難しい問題に一緒に取り組んでいただいたのが、株式会社日本ファイリングさんです。
株式会社日本ファイリングさんは、図書館や博物館の書庫や保管庫を作ってきた実績ある会社です。国立近代美術館フィルムセンターの映画フィルム保管庫なども担当されたとのことで、フロッピーについてご相談させていただいたところ、まだ誰も挑戦していないことですから是非やってみましょう!とご快諾いただいたのです。

フロッピーにとって好ましい条件は何なのか、それを実現するためにどんなものを使えばよいのか、株式会社日本ファイリング担当者さまと何度かやり取りをさせていただき、このたびついに、第一号試作品として5インチフロッピー保管用BOXができあがりました。

 

1箱に120枚、ディスクを立てた形で収納できるBOXは、大気中の窒素など様々な化学物質をはじく特殊な紙で作られており、その中には一枚一枚のディスクを安全に保管するための特殊スリーブが並べられます。特殊紙を使ったスリーブの中には、NASAなどでも電子部品などを包むために使われるインターセプトという特殊シートが入っており、フロッピーはこの中に入れられることで、外部のあらゆる物質から保護される仕組みです。使われている素材はほぼ半永久的に使用できるもので、長い期間安全にフロッピーを保管するにあたって、まさに魅力的なBOXです。現在はまだまだ試作段階とのことで、これから実用に向けた改良が加えられて行くことでしょう。

ゲーム保存協会が所有する大量のディスクが、よりよい環境で安全に保管されるように、これからも保管環境の改善や保管方法についての研究を進めて行きたいと思っています。20年30年という時の流れを生き残ってきた貴重なゲーム資料を、一つも無駄にせずきちんと管理して未来に残すため、ゲーム保存協会は多くの人と協力して真摯な姿勢で取り組みたいと思います。

現在、保管庫の条件などについて情報を収集し試行錯誤していますが、その他、フロッピーディスク内に既に発生しているカビをどのように除去するのか研究を進めているところです。
ゲーム資料の場合、企業側でマスターが保管されていないといった問題があるため、現存する主要な資料は一般家庭に残され、押入れなどで保管されていたゲームソフトやディスクになります。日本の気候風土の影響もあり、多くの資料が既にカビの被害を受けている状態で当団体に集められています。
磁気メディアのカビ除去については誰もはっきりとした意見を持っておらず、現在、早急に対応策や技術開発が必要となっているのです。

もしもこうしたメディアのカビへの対応の研究にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひ問い合わせフォームからご連絡いただけると幸いです。

ゲーム保存協会 辻

http://www.nipponfiling.co.jp/