ドラゴンアンドプリンセス


光栄より1982年に発売


アドベチンャーと謳ったロールプレイング

光栄(現:コーエー)は当時もっとも意欲的な会社の1つだった。まだ日本にロールプレイングゲームが紹介される前からこのジャンルを意欲的に制作し、その後も思考錯誤を繰り返しながら、その路線を追及していったからである。残念ながらメジャーヒットになったものはなかったが・・。この「ドラゴンアンドプリンセス(以下D&Pと略す)」もその意欲作のうちの1つである。


ゲームの進行

物語は中世の話。王様に山賊退治を命じられ、4人の友人とともに山賊を倒し宝を取り戻すことから始まる。このゲームを開始すると、まず5人のキャラクター一覧が表示され(文字だけ)、プレーヤーはそれぞれのキャラクターに好きな名前を入力する。キャラクターには、破壊力、回避力、命中率、体力、経験度があり、これらの初期値は個々のキャラによってまちまちである(自分で設定することはできない)。

ゲームの進行はテキストアドベンチャー形式で進められ、移動、調査といったコマンドを入力すると、その場面の情景が文字で表示される。そして「ナニカアラワレタゾ!」という文字が出ると、敵との戦闘モードに入る。戦闘シーンは、それまでのテキストアドベンチャーから一転し、地形などがグラフィック画面で表示される。戦闘は、シミュレーションゲームのように敵と仲間5人がコマのように表示され、移動、攻撃を交互に繰り返していくというものだ。画面内には遮蔽物(壁、通路など)もあり、敵に挟まれないように場所取りが重要になったりする(戦略性がある)。そして戦闘で勝つと、経験度やお金を得ることができるのだ。


ロールプレイングなのか?

一般にアドベンチャーゲームとロールプレイングゲームの違いは、プレイヤーキャラクターに主体が置かれているかどうかの差だ。つまり物語自体は同じでも、アドベンチャーはゴールに辿り着くまでの経路を覚えてしまえば同じパターンで解けるのに対し、ロールプレイングでは、プレイヤーが経験を積み、成長しないとゴールにまで辿り着くことができない。この点でD&Pは苦しいながらもロールプレイングゲームといえるだろう。

ロールプレイングの命ともいうべきキャラクターは、戦闘で得られる経験度によって、破壊力、回避率、命中率がわずかながらアップしていく。また敵を倒すか障害物を探索して得られるお金で、武器を調達することもできる。ただ、この部分に関しては非常にバランスが悪い。というのも、敵が強くてすぐ殺されてしまうし、はじめのうちは回復すらできない。また、こちらの成長に合わせて敵も強くなっていくので、なかなか「稼ぎ」ということができない。さらに死ぬと復活すらできないのだ。よってほとんどのプレーヤーは、成長という楽しみを味わう前につまづいてしまう。また、唐突にダメージを受けるトラップや調べずらいマップは、かなり陰険でもある。


世界観の欠落

このゲームは、「テキストアドベンチャーにロールプレイング要素を入れた」というのが正しい言い方なのかもしれない。実際、最終目標はドラゴンを倒すことだが、それ以外にもテキストアドベンチャー部で通過点がいくつかあり、ゲームが終了すると解き具合に応じて得点が表示されるシステムになっている。 ただ、そのテキストアドベンチャー部に問題がある。「ファンタジーアドベンチャー」と広告している割には、情景描写がかなり欠落しているため、D&Pの世界が頭の中で構築しにくい。また、世界をイメージするためのマニュアル、パッケージには最低限のことしか書かれておらず、ただでさえ日本人にはなじみの薄いファンタジーの世界を理解しろという方が無理な気がする。


最後に

光栄はこのゲームの宣伝文句に「ロールプレイング」という言葉を使わずに「ファンタジーアドベンチャー」という言葉を使っていた。そして次作「クフ王の秘密」を日本初のロールプレイングと宣伝している。ロールプレイングゲームが雑誌ログインで紹介されたのは1983年に入ってからのことである。1982年に発売されたD&Pを宣伝するには、「ロールプレイング」という聴きなれない言葉よりも「アドベンチャー」という当時騒がれ始めた言葉を使った方が効果が大きかったのだろう。 ただ、このゲームが当時まだ珍しかったアドベンチャーとロールプレイング、さらに戦闘のストラテジィ性の要素を持つというのは、時代を考えれば脅威的なことだと思う。しかし、多くを欲張りすぎたために、容量的にも表現的にも、中途半端なものになってしまったのが非常に惜しい。光栄の初期のロールプレイングゲームは全般的に、バラエティに富んだものが多く、アイデアとしてはおもしろいのだが、残念ながらユーザーに与えたのは、「面倒」「遅い」「すぐ死ぬ」といった苦痛でしかなく、ロールプレイング本来の楽しさを与えることはできなかった。「ザ・ブラックオニキス」のヒットにより、光栄はこの分野での敗北宣言をしたかのように、シミュレーション路線一色へと変貌していくのである。

「ドラゴンアンドプリンセス」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社コーエーに帰属します。