黒猫荘相続殺人事件 by きたかZ氏
ユニオンプランニングより1984年7月に発売
「良作」は永遠に色褪せないものです
あんまり実感わかないんですが、私のレビューもこれで7回目となりました。ほとんど関係ないんですけどラッキーセブンということで(苦笑) 今回は私が88のゲームの中でもっとも好きなゲームのレビューを書かせていただきます。(正直なところ理由はもうひとつありまして、あまりバカなゲームのレビューばっかり書いていると書いてる本人までバカだと思われたらちょっとアレなんで、たまにはまともな作品もレビューさせていただきたいというのも本音です。(笑))・・・ところで私も業の深い人間なんで二十余年にわたってあらゆる機種のあらゆるゲームをプレイしてきましたが、「機種・ジャンルを問わず好きなゲームを5つあげよ!」・・・といわれれば必ずベスト5に入るのが本作・「黒猫荘相続殺人事件」です。このゲーム、派手さは一切ありませんし、シリーズ化したとはいえ、そんなに売れたといった話は聞きません。ですんで、「隠れた良作」にスポットをあてる意味も含めて選ばせていただきました。
ところで推理もののアドヴェンチャーゲームって、つくるの大変だと思うんですよね。普通のアドヴェンチャーならストーリー上多少の矛盾もご愛嬌ですまされるんですが、推理ものだと一貫して理路整然としたストーリーでなければゲームとして成立しませんので盤石なシナリオが要求されるわけですし、アチコチをグルグル廻ってフラグをたてていくアドヴェンチャーだといかにプレイヤーを退屈させないかという問題もでてきます。ですんで、そういった問題をごまかす意味でも、妙にキザったらしいヤツとかかわいい女の子とかが探偵(プレイヤー)だったりするのが多いのですが、本作はキャラクターにたよらず、まっこうからシナリオで勝負した作品です。
さて、ストーリーですが・・・一代で巨大な製薬会社を築いた「大野木 義蔵」(「シオノギ」のパクリか?)が自宅(通称:黒猫荘)の2階で殺されてるのが発見された。死因はノド元を鋭利な刃物で刺され、その時のショックによる心筋梗塞。容疑者は第一発見者で義蔵の後妻の「玲子」、義蔵の実弟「享蔵」、先妻との間にできた一人息子で10年ぶりにフラっと帰ってきた「稔」、先妻の親類で身寄りがないためにひきとられた「俊行」、顧問弁護士の「村瀬」、医師の「北山」、お手伝いさんの「澄子」の7人です。当然、義蔵が残した莫大な財産をめぐっての殺人事件なわけです。7人の容疑者はそれぞれにクセのある人物で集めた証拠品と7人の人間関係を整理して犯人を特定していく・・・という、「これ以上ありません」というくらいシンプルな推理ゲームなわけです。
やはりゲームはシナリオが命なのです
ゲームは大別して2種類で、「ミステリーハウス」のような家捜しの証拠品集め・・・と、容疑者の尋問です。プレイヤー(R県警の捜査主任)の相棒となるのが新任刑事の「マサオ」くんで、この「マサオ」くん、新任なだけにプレイヤーに助言してくれるなんてのは一切ないんですが、容疑者の呼び出しや血痕・指紋の採取・判別などはキチンとこなしてくれます。(要するに、いてもいなくてもいいキャラなんですが、妙に存在感があるのが不思議です・・・)
ゲーム中は尋問の最中にでも現場に出られますし、証拠品を一つ見つけるごとに尋問することも可能ですんで、プレイ中のストレスはほとんどないといっていいでしょう。(そのへんもすごく丁寧につくってあります。)・・・で、家捜しを始めて証拠として見つかるものは、遺書・遺言状・生命保険の証書・・・と、金にカラむものばかり。しかも遺言状には、「全財産を稔に譲る」と書いてあったものだから容疑者はみな、稔を「ニセ者ではないか?」と疑い始める・・・と、このように容疑者はみな疑心暗鬼となり責任の押しつけ合いやデマカセをいいはじめるので、誰の言っていることが本当なのかわからなくなり、オマケに凶器とみられていた包丁からも血痕が検出されないと、プレイヤーは宙ぶらりんの状態に置かれるわけです。(尋問の演出で特筆すべきは、容疑者達は都合の悪いものをみせられたり、痛いところをつかれたりすると顔色がサッと青くなり、どもりはじめるという秀逸な演出がなされたいます。)そんな中、弁護士が、遺言状の筆跡が義蔵のものではないことを指摘し、捜査を進めると本物の遺言状が発見され、それには・・・
・・・と、これ以上書いてしまうと、何を書いてもネタバレになってしまうので書けないんですが、続きは必死で探してでもぜひご自身でプレイされてみてください!徹底して書きこまれたシナリオと、容疑者らの人間模様にグングン引き込まれること間違いありません!
「名作」と「良作」は別物なのです
最終的には容疑者をしぼり込んで決定的な証拠を出せれば犯人は自白してくれるんですが、エンディングでの犯人からの意外な真相の激白は、冗談ヌキで泪なくしてはとても聞くことの出来ない話です・・・犯人が泣きながら最後にボソリともらす、「自分はいったいなんのために生きてきたのか・・・ホントウニナンノタメニ・・・」というセリフがプレイが終わってからも重くのしかかってきます・・・(恥ずかしながら正直にいいますと、私がゲームで泣けた最初で(多分)最後の作品です(恥))ですから、「犯人をつかまえた」というカタルシスはほぼゼロに近いですね。それを「感動」ととるか、「後味の悪さ」ととるかはもちもん個々の主観ですが・・・
・・・とまあ、私は基本的によっぽどの良作でなければあまりベタぼめはしないのですが、本作は「隠れた良作」の典型とも言えるでしょう。しかし残念ながら、「ハデ」さがなかったために、「名作」とはなれませんでした。しかし、このゲームからは、ゲームにとって一番大切なものは、「キャラ」でも「絵」でも「音楽」でもなく、「シナリオ」と「演出」だという事を学びました。他にもこのような地味なために気づかれることなく「名作」とはなれなかった「隠れた良作」は、ごく少数の人の想い出と一緒にたくさん埋もれてることでしょうねえ・・・出来れば、リバーヒルの「殺人事件シリーズ」の第2弾・3弾(本作は第1弾)の、「白薔薇連続殺人事件」や「狼男殺人事件」も機会があればレビューさせていただきたいですね・
・・最後になりましたが、今回のレビューに限っては完全に、「私の私による私のためだけ」のレビューになってしまったことをお詫びいたします。(笑)私にとっては小さな宝物のようなゲームなんです、ご容赦ください!皆さんつきあってくださってホントにありがとうございました!!
ま、「一度だけのワガママ」ということで・・・(笑)
ちょっと補足
(鈴木理香さんという方が後の「殺人倶楽部」のシナリオライターですが、この一連のシリーズも彼女の担当です。ただし、すべてのシナリオをやったかはわかりません。リバーヒルソフトは、シナリオやキャスティングに重点を置いたものを作っていましたので、それが「殺人倶楽部」で表現的にもようやく開花したものと考えられるでしょう):Y.ROMI
文章:きたかZ氏
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