ミコとアケミのジャングルアドベンチャー


(株)システムソフトより1984年3月に発売


斬新なアイデアを持ったゲーム

ミコとアケミのジャングルアドベンチャー(以下、ミコアケ)は、アフリカを舞台とした、かわいい(?)女の子2人と動物のコミカルアドベンチャーゲームである。システムソフトは、前年に「ミオのミステリーアドベンチャー」という屋内物のアドベンチヤーを発売しているが、このゲームはメッセージがすべて英語、入力も英語という敷居の高さから、ユーザーから不評であった。アドベンチャーゲームの入力を基本的に英語と考えていたシステムソフトが、思考錯誤の結果として制作したのが本作である。


コマンド選択式の採用

ミコアケの最大の特徴は、全画面の瞬間表示(後述)と従来のコマンド入力式ではなくコマンド選択式を採用したということである(本格的なアドベンチャーゲームとしてはどちらもおそらく日本で初めて)。ミコアケのコマンド選択は、その後主流となった「オホーツクに消ゆ」などの選択式とはちょっと違う。プレイヤーがよく入力する28の動詞(「トル」「ミル」「オス」「ウゴカス」など)または移動方向を画面下に表示し、矢印キーにて選択。その後、動詞に対する名詞を選択するという2段方式である。この方式は、コマンド入力をそのまま選択式に置き換えたもので、プレイヤーに当時流行の言葉探しアドベンチャー(動詞+名詞)の雰囲気を残しつつ、「言葉を探す」「言葉を入力する」という徒労を軽減させることが目的だと思われる。つまりターゲットとして、初心者やゲームマニア以外の幅広いユーザー層を狙って作られたものなのだ。それはミコアケの微笑ましいタイトルや、動物などの愛らしいキャラクター、さらにお試し版が88本体に同梱されていたことからもわかるだろう。このような狙いで制作されたコマンド選択式アドベンチャーたが、以下に述べる内容からうまく機能せずに終わってしまっている。


ユーザー泣かせの難易度

ミコアケで選択できる動詞は、28個。すべての場面で同じ動詞を選択するようにしたため、似たような場面が続いたり、謎の展開が単調になってしまった。もし、表示される動詞が場面によって異なると、変化したコマンドがなにかしらその場面に関係することがすぐに分かってしまい、さらに簡単に解けてしまう。きっと開発する側にもこのジレンマあったのだろう。
ところが、ミコアケをプレーしてみるとけっこう難しい。これは開発側が簡単に解けないように、いやらしいトリックを入れたためである。たとえば、このゲームはある場面に行くとなんの前触れもなく唐突に死んでしまう。これでは単なる迷路ゲームと一緒である(さらにミコアケには途中に迷路もある)。また、ある場面である事をしておかないと相当先にいってつまづいたり、アイテムを関係ない相手に渡してしまうと、そのまま持っていかれて、どうしようもなくなったりと、初期のアドベンチャーにありがちなユーザーに対する不親切をそのまま背負っている。また持ち物に個数制限があり、「カバン」というアイテムを持っていると、他のアイテムを入れて制限をなくすことができる。ところが、このカバンの中に入っているアイテムは出さないと使うことができない(コマンドで使用できない)。これがこのゲーム最大のポイントで、普通はアイテムのほとんどをカバンの中に入れて持ち歩いているため、使うときは、必要なものをいちいち出さなくてはならない。だから、コマンドを片っ端から選択しても、アイテムの持ちかたによって、変わってくるのである。


結論

このゲーム、他にもゴールにたどり着くと、いままでの行動の点数が表示される(1000点満点)。点数がつくアドベンチャーで有名なものは「地獄の練習問題(ハミングバードソフト)」があるが、こちらの方が先である。ただし、この点数も1ヶ所のフラグとコマンド選択の回数による減点という単純なものであった。瞬間画面表示、点数式、コマンド選択式と実に画期的な要素を入れたゲームであったが、後者2つは残念ながら成功とはいえないだろう。当時のアドベンチャーゲームが内容よりも、「場面の謎解き」というパズルを解くような楽しみに主眼が置かれていたため、ミコアケも内容よりも、難しいトリックで勝負してしまったためである。この後発売された「オホーツクに消ゆ」がコマンド選択式の元祖のようになってしまったが、これはオホーツクに消ゆが、コマンド選択式でも十分に楽しめるシナリオとシステムをもっていたからだろう。


瞬間画面表示について

「瞬間画面表示」という定義をしておく必要があるが、これは次の場面が表示される時間(アクセスから表示まで)が、約2秒以内に収まるものと考えた。当時のアドベンチャーゲームは、線を引いて、色を塗ってというライン&ペイント方式で絵を表示していて、1画面表示するのに10秒とか、20秒とかかかっていた。これが、瞬間的に表示されるのだから、当時驚いたものだった。
瞬間画面表示を最初に88で行ったアドベンチャーは、おそらく「ミオのミステリーアドベンチャー(システムソフト/1983年)」である。このゲームのオープニング画面や途中の「タコ部屋」と呼ばれるグラフィック画面に瞬間表示が使われている。ミコアケの瞬間画面表示の技法は、ほとんど「ミオの・・」と同じものが使用さてれいるようだ。
「黄金の墓(マジカルズゥ、1983年)」も5秒ほどで画面を表示するディスク転送方式が用いられているが、これは圧縮せずに、絵そのものをベタでディスクでもっていた。ただ、絵の表示範囲が狭いので、5秒程度で1画面が表示される。

●瞬間画面表示の技法

そもそも瞬間表示はどうしてできるのだろうか?それには、まずディスクからGVRAM(グラフィックVRAM)へデータを転送すると画面にドットが表示されることを理解しなくてはならない。コンピュータのメモリにはGVRAMという空間があり、この空間1ビットが画面の1ドットに対応している。GVRAM上に「1」という数字を入れるとそのドットに点を表示し、「0」を入れると点を消すというものである。GVRAMは、BRG(色の3原色)の3枚(プレーンという)に分かれており、8色出すには、各プレーンの組み合わせが必要になる。
アドベンチャーゲームのように8色を使っている場合、この3枚のプレーンに絵を描きこむ必要がある。画面のサイズは640×200ドットだから、1プレーンににつき16KB(640×200÷8)が必要で、3プレーン合わせて48KBが必要ということだ。
ミコアケの場合、画面の上半分しか使っていないので、48KBの半分、24KB程度のデータが必要になる。ところが、ディスクが1秒間に読み込むデータ量は4~5KB程度。24KB読み込むのに、6秒もかかってしまう。
そこで、ミコアケの場合、データの圧縮とディスクの高速読みこみでこれを克服している。
まず圧縮。ミコアケの絵をよくみると、横方向に「赤黒」や「緑黒」のパターンが連続しているのがわかる。これらの同じパターンを横方向に何個というように数え、これによってデータを圧縮していると考えられる。たとえば、「赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒」というデータがあったとしよう。これを「赤黒を6個」というデータに変換しているのである。実際はもっと複雑だが、概要はなんとなく分かってもらえると思う。
圧縮のときに問題になるのが、展開のスピード。一般的に圧縮率を良くすれば、展開するのに時間がかかる。ミコアケの場合、画面表示時間を考えると、ディスク読み込み時間を除いて0.1~0.2秒で展開(描画)を完了しなくてはならない。ミコアケは恐らく展開速度重視型の圧縮方法を用いており、さらに絵を圧縮を意識した(単純)描画にする事で、平均30%程度に圧縮していると考えられる。
次にディスクの読みこみであるが、88はディスクの制御にもうひとつのCPU(Z80,4MHz)を搭載している。ディスクからデータを読み込む際に、本体のCPUとディスク側のCPUが通信してデータを転送している。通常は1バイト単位でやり取りを行うが、ディスク側に通信用の独自プログラムを置くことで、送受信単位を2バイトまたは4バイトにすることができるのである(4バイト転送は裏技的で、かの日高 徹氏は「超高速4バイト転送」と呼んでいた)。これでデータを1秒くらいで表示することができるというわけだ。
ただし、ここに掲載しているものはあくまで推測であり、実際は違った技術で行っている可能性もある。

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