オホーツクに消ゆby 成川氏
ログインソフト/アスキーより1984年12月に発売
Story
東京、晴海埠頭に浮かんだひとりの男の他殺死体。 怨恨か、物盗りか、あるいは暴力団同士の抗争か。いずれにせよ、そのひとつの殺人が、北の地における惨く悲しい連続殺人の前触れに過ぎなかったことを、その時誰が予想できただろうか・・・。(パッケージ写真はMSX版、画面写真は98復刻版)(ストーリーをマニュアルから抜粋)
ゲームの特徴
『オホーツクに消ゆ 北海道連鎖殺人』は1984年、LOGiN SOFTとしてアスキーから発売されたアドベンチャーゲームです。 『ドラゴンクエスト』シリーズでおなじみの堀井雄二の作品であり、氏の手がけたアドベンチャーゲームとしては『ポートピア連続殺人事件』(エニックス)に続いて2作目となります。
プレイヤーはこの殺人事件を担当する刑事です。 そして、東京で得られた手がかりをもとに北海道へと向かい、現地の刑事と協力して捜査を進めてゆきます。 必死の捜査をあざ笑うかのような非情な連続殺人、背後に見え隠れする権力の影、事件の鍵を握っていると思われる女性の失踪。それらは複雑に絡み合い、そして次第に1つに収束し、最後には感動的なハッピーエンドへ至ります。
まず1つは、コマンド選択方式を採用したこと。 コマンド選択方式では、自分のしたいことをコマンドのリストから番号で選ぶだけでOKです。 これを当たり前と思う方もいらっしゃるかと思いますが、それまでのアドベンチャーゲームの多くでは「コマンド入力方式」、つまりフルキーボードを使って「ドア アケル」、「コップ トル」のように直接自分の行動を文字で入力しなければならず、入力の手間がかかるのみらず、いわゆる「言葉探し」の問題を抱えていたことを考えると、当時としては画期的な方式だったのです。 コマンド選択方式は堀井雄二のアドベンチャーゲーム第3作目の『軽井沢誘拐案内』にも引き継がれ、今ではアドベンチャーゲームの入力方式の主流となっています。 コマンド選択方式を採用したゲームはこの作品以前にも無かったわけではありません。 しかし、現在のアドベンチャーゲームにも通用するような形に完成させた作品は、この『オホーツクに消ゆ』と言って良いでしょう。
次に、ストーリーや演出を重視していること。それまでのアドベンチャーゲームはあくまで「ゲーム」であって、一貫したストーリー展開や練り込まれた演出などはありませんでした。 しかし『オホーツクに消ゆ』では、プレイしてゆくに従い、ストーリーが自然に展開するよう、シーンの流れが注意深く設定されています。 そのようなストーリー支えるために、他のメディア、例えばテレビドラマや映画のような演出が意欲的に取り入れられています。 これはテレビドラマやコミックのシナリオに携わっていた堀井雄二だからこそ可能だったのでしょう。
北海道への手がかりを掴んだ後に現れるオープニング、突然起こる新たな殺人等々・・・絶妙なストーリー運びによって、プレイヤーはゲームの世界に引き込まれます。ネタバレになるのでここで書くことは出来ませんが、東京に戻ってからエンディングに至るまでのシーン展開、会話の流れは見事と言うより他ありません。
内容的には『ポートピア連続殺人事件』同様、いわゆる社会派ミステリータイプですが、当時としては画期的な要素が盛り込まれています。
88版以外のオホーツク
他にはPC-6001版やFM-7版、MSX版などが発売されましたが、それらはほぼPC-8801版と同様です。 MSX版はオープニング、エンディングにBGMが流れます。また、PC-6001版はジョイスティックにも対応しています。
1987年には後にファミコン版も発売されました。 グラフィックは「べーしっ君」の荒井清和、音楽は上野利幸(昔からのログイン読者には「ゲヱセン上野」の名の方が有名かもしれません)が担当しています(ちなみにMSX版の音楽も彼が担当していたと思います)。 ファミコン版のゲームミュージックサントラCDは私自身は聴いたことがありませんが、なかなか良い出来だったそうです。
パソコン版のストーリーに堀井雄二自ら手を加えていますが、基本的なストーリーラインは変わっていません。 ファミコン版ではゲーム中に相棒の刑事とブラックジャックで遊べるようになっています。 これに勝つとヒントがもらえるという仕組みになっており、アドベンチャーゲームに慣れていないプレイヤーへの配慮が感じられます。 終盤には3Dダンジョンの探検もありますが、これはちょっと余分でしたね(3Dダンジョンは、ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』にも追加されています(オリジナルのパソコン版には無い))。
NTTのキャプテンシステムでも、『オホーツクに消ゆ』が遊べました。ただし、北海道への手がかりが手に入ったところで終了してしまい、いわゆる「体験版」のようなものでした。 私はこれにまんまと乗せられて、MSX版を買ってしまいました。
珍しい物としては、ログイン誌に掲載されたPC-8801用テキストアドベンチャー作成ツールのサンプルとして、テキスト版『オホーツクに消ゆ』がありました。これもキャプテンシステム版同様、東京のシーンだけだったと思います。
LOGiN DISK&BOOKシリーズとして、PC-9801版『オホーツクに消ゆ』が出版されています(1992年9月25日 初版発行)。 アスキーの書籍検索でもまだ検索できるので、今でも入手できるかもしれません。 内容はファミコン版を踏襲したものとなっており、BGMもかなり共通しているようですし、ヒントをもらえるブラックジャックや3Dダンジョンも健在です。 ただし、グラフィックは荒井清和氏のものではなく、かなり淡泊な雰囲気のものになっていますが、個人的にはこちらの方が好みです。 これには堀井雄二へのインタビューも掲載されており、製作のいきさつなどが語られています。
オホーツクに消ゆの続編の話が持ち上がっていたことがあります。タイトルは『白夜に消えた目撃者 ~ロシア殺人紀行~』。 ログイン誌上に取材旅行のレポートが掲載されていたと思います。 しかし、残念ながら実現しませんでした。
オホーツクに消ゆの欠点
コマンド選択方式を採用することで、プレイヤーは面倒なコマンド入力から解放され、よりストーリーに没頭できるようになりました。 他のアドベンチャーゲームもこの作品に倣いコマンド選択式が主流となり、アドベンチャーゲームは謎解きからストーリー鑑賞に重点が置かれるようになってゆきます。 後に、音楽・映像の演出において『ジーザス』(エニックス)が大きな飛躍をもたらし、『スナッチャー』(コナミ)においてこの路線は完成されました。しかし、コマンド選択方式の弊害として、コマンドを全て実行すれば頭を使わなくてもゲームをクリアできてしまう、逆に言えばあらゆるコマンドを試さないとクリアできない「コマンド総当たり」という問題が生まれました。なお悪いことに、コマンド選択方式の多くが「コマンド総当たり」しなければクリアできないような出来の悪いものであったため、「コマンド選択式アドベンチャー」全体のイメージを悪くしてしまいました。
そもそも『オホーツクに消ゆ』自体も「コマンド総当たりゲーム」と言えなくもありません。 正直に言って、『オホーツクに消ゆ』のフラグ立ての条件の中には納得できないものも少なくありません(たまたま通りがかった人が重大な手がかりを持っているとか、特定の町に行かないと新たな殺人を知ることが出来ないとか)。堀井雄二のゲーム作りにおけるポリシーとして、「プレーヤーにストーリーを伝える」、そして「ゲームとして楽しめる」という考えがあるように見受けられますが、アドベンチャーゲームはいわゆる「フラグ」を立てられないとストーリーは全く進まず、プレーヤーはゲームではなく単なる作業を強いられることになります。
後に堀井雄二は「ストーリーを伝えるメディア」としてアドベンチャーゲームではなくロールプレイングゲームを選ぶこととなりますが、極めて象徴的なことではないでしょうか。最近では、そのロールプレイングゲームもまた『一本道』と呼ばれるストーリー重視のものが好まれるようです。
どの雑誌に掲載されたのかは忘れてしまいましたが、堀井雄二はNintendo64の『スーパーマリオ64』を評して「ずるが出来るから楽しい」と言っています。つまり、目的を達成するために、それぞれのプレイヤーなりの楽しみ方ができ、自由度が高いと言うことです。 私は、ストーリー重視ゲームは素直にストーリーを楽しめばいい、自由度を重視したゲームなら思うままに振る舞えばいいと思います。 とにかくゲームは楽しければよい、というのは確かに1つの真実です。
しかし『オホーツクに消ゆ』は、「ストーリー」と「ゲーム性」という、相反する場合の多い2つの要素を両立すべく「コマンド選択方式」等のフィーチャーを新たに導入したという点で、アドベンチャーゲーム史上に偉大な足跡を残したと言って良いのではないでしょうか。
「オホーツクに消ゆ」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はアスキー、ログインソフトに帰属します。
<文章 成川氏>