ウイングマン
エニックスより1984年11月に発売
マンガをゲームに
「ウイングマン」は、少年ジャンプで連載されていた同名のマンガが原作になったアドベンチャーゲームにしたものである。マンガ(アニメ)が原作になったアドベンチャーゲームとして、「幻魔大戦(ポニー)」、「超人ロック(ポニー)」、「ゴルゴ13(ポニー)」などがある。ウイングマンとこれらのゲームの違いは、マンガの特徴を十分に生かした設定、演出、そして原作など全く知らなくても、その世界に入りこめるような敷居の低さにあった。
徹底的に楽しませるゲーム
このゲームは、原作のアナザーストーリー的なもので、原作を知らなくてもゲームを解くことができる(数カ所、知っていないと厳しいところもある。もちろん知っていた方が数倍楽しめことは間違いない)。逆に知らない方がこのゲームをプレーしたときに、原作の楽しさがとてもよく伝わってきて、逆に読みたくなるのではないだろうか。それだけ「プレーしていて楽しい」と感じさせてくれる。
このゲームは、プレイヤーを楽しませるように工夫が随所に見られる。まず会話の楽しさ。「あおいさん」の反応はとてもシャレが効いている。表示がカタカナではなく、ひらがなであるのも効いていると思うが、いままでの"デキマセン!"一辺倒のアドベンチャーゲームとは明かに違って、いろんな反応が返ってくるのだ。たとえば、変な行動をすると「けんぼう、ばっかじゃなーい」と軽いセリフで怒られてしまう。
また、コマンド入力のわずらわしさを少しでも軽減するために、ファンクションキーに基本的なキーを割り当て、さらに画面上の物の名前がわからないときは「ナンデスカモード」で画面上のカーソルを移動し、その物の上でリターンを押すと、あおいさんが「けんぼう、それは○○だよ」と親切に教えてくれる。画面をカーソルで移動する方法は「惑星メフィウス」からある手法ではあるが、惑星メフィウスでは、画面中のある1ヶ所を何回も叩いたりと、このモードが実際に謎解きの1つに含まれ、苦痛でしかなかった。しかし、ウイングマンでは、それを謎解きに使用するのではなく、物の名称を知るためのヒントにしまったことがすばらしいアイデアだと思う。
心憎い数々の演出
「ウイングマン」をプレーしていると、細かいところで実に「ニャッ」とするような演出が入っていることに気がつくだろう。まずゲームがはじまると、画面左に幕を引くミクちゃんが登場。ヒモを引っ張って下ろすと画面がパラッと表示されるという仕組みだ。実は、ミクちゃんが幕を引いて画面が真っ暗になったときに、ディスクから画像データを転送し描いているのである。そして幕を下ろしたときには、瞬間的に画面が表示されるようにみえるわけだ。テキスト画面でグラフィック画面を隠すという手法は後期になっても使われたが、ミクちゃんというキャラクターを使った非常にうまい方法である。また、カーソルにウイングマンが描かれ、点滅するごとにポーズを変えるという点も見ていて楽しい。最も感心したのは、ウイングマンの変身する掛け声「ちぇいんぐ」を入力すると、キークタラーが現れ、画面下に戦闘アクションゲームが始まること。上下に弾をよけて攻撃するという、簡単で単純なゲームではあるが、これがついついはまってしまう。また、この戦闘自体にも意味があり、負けても決してゲームオーバーにはならず、逆に使える武器が1つずつ増えていく。ゲーム中に強制的に戦闘モードになる場面もあり、ここで鍛えておくと後で有利なのである。
ウイングマンを作った人たち
ウイングマンを作ったのはTAM・TAMというグループで、高校3年生のときにマイコンフリークが5人集まって結成されたという。その名前は結成したメンバーの頭文字をとったものだ。メンバーの一人、金尾淳氏(後にエルフの創設メンバーとなる)は、エニックスのコンテストに応募したが、落選した。そのときのコネもあり、卒業した春休みにみんなで「なにかやろう」ということでエニックスの曽根氏に相談してみると、こういう企画があるからやってみないかといわれ、「ウイングマン」という題材を与えられたということだ。ウィングマンの開発は84年4月に開始された。5人のメンバーのうち、2人は進学していたが、3人は浪人。金尾氏も浪人組の一人であったという。
(金尾氏がパソコンに関心を抱いたのは中学時代。その後高校に入ってからベーシックマスターレベル3を持つ友人のもとに通い、高校2年の6月にPC-8801を手に入れた。)
TAMTAMのメンバーは5人だが、それぞれにいろいろな得意分野があったらしい。リアルタイム部分とサブルーチン専門の金尾氏、まとめ役の竹内氏、音楽担当の安井氏、PC-9801につよい腰越氏、ハード担当の井上氏と実にバランスがよく構成されていた。絵描きの人がいないのが問題であったが、「ザース」のグラフィッカーである中沢氏が関わっている。
最後に
このゲームは誉めてばかりしまったが、欠点がないわけではない。まず原作より絵のディテールが落ち、ファンには少し物足りなかったという点。それから親切な割には、難しいコマンドが多少存在するという点。物語の前半で「焼却炉」に行けなくて苦労した人が多かったのはこのせいである。
金尾氏の写真:テクノポリス86年6月号P.105より引用
しかし、このゲームは地図を書く必要もないし、変に真剣にやる必要もない。アドベンチャーゲームをプレーしていて、こんなに「楽しい」と思ったゲームはこれが最初かもしれない。
テクノポリス86年6月号P.105より一部引用
「ウイングマン」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はエニックスに帰属します。