ホットドッグ


ボーステックより1985年6月に発売


ストーリー

PC8801mkIISRが発売され、「テグザー」フィーバーに沸いた1985年初頭、ボーステックからスキーアクションゲームが発売された。その名は「ホットドッグ」。それほど前評判は高くなかったゲームなのだが、ボーステックお得意の効果的な宣伝のためか、口コミか、それなりに売れたゲームである。なんでも映画に同名のものがあるそうで、そこからヒントを得たという話なのであるが、筆者は映画音痴なのでさっぱりわからない。



どんなゲームか?

ホットドッグは珍しい「3Dタイプのスキーゲーム」である。しかも、当時流行りつつあった「フリースタイルスキー」をゲーム化したところもユニークだ。スキーゲームは、パソコン創世記から数多く発売された。しかし、そのほとんどは「逆スクロールによる「旗と旗」の間を通っていくゲーム」である(昔からゲームをプレーしていない人には分かりにくいかもしれない)。画面上に[----]のようなキャラクターが次々にスクロールしていき、その間を通っていくというものだ。また、アーケードゲームでは、タイトーの「アルペンスキー」というゲームが1982年にヒットを飛ばし、スキーゲームといえば、「上からみた構図で、障害物にぶつからないようにしながら、旗の間をスルスルと通っていき、タイムを競うゲーム」と相場が決まっていたのである。

このゲームはそんな常識を覆した。なんと視点はプレーヤーを背面からみたもので、旗が画面の奥からこちらに迫ってくるというものだ。ポリゴンが当たり前の現在では、この視点は驚くべきものではない。しかし、この当時は3Dタイプの視点のゲームは、技術的にかなり難しかった。ポリゴンを計算するにはCPUのパワーがまるで足りなかったし、ワイヤーフレーム(線画のみ)でなんとか動かすくらいなら可能だったが、それでもスピードが遅くて画面はそっけないものになってしまう。
また、スプライトやキャラクターパターンで3D感を表現することはもちろん可能であったが、かなり動きが荒く、ぎこちなくなってしまうため、なかなか秀作ゲームが登場しにくい分野であった(アーケードではポールポジョンというレースゲームがあったが、実際に3Dタイプが認知されるようになったのはセガの「スペースハリアー」(1986年以降)だろう)。



ゲームの内容

このゲームは3種目の競技からなる。「スラローム」「モーグルスキー」「エアリアル」だ。「スラローム」は旗と旗の間を通っていき、タイムを競うゲームだが、「モーグル」と「エアリアル」は当時としてはマニアックだった。私は、長野オリンピックで里谷多英が「モーグル」で金メダルを取得したときに、このホットドッグを思い出してしまった(笑)。この時代ではあまり知られていなかったのだ。

ゲームを起動すると、軽快なリズムにのって、デモがはじまる。そしてスペースキーを押すとゲームスタート。このゲームは最大4名でプレーすることができる。もちろん同時プレーではなく交互プレーなのだが、友達がたくさんいるとさらにおもしろさ倍増なのは間違いない(ちょっと難点もあるが後ほど)。



スラローム

まず第一種目は「スラローム」である。ルールは簡単で、次々に迫る旗門の間を通りぬけて、なるべく速くゴールするというもの。キーは[4][6]のみというお手軽さ。なにもしないとどんどん加速がついてきて、SRでプレーすると最高速度時は手がつけられないほど速い(このスピードですべて通りぬけるのが理想なのだが)。プレーヤーは横にも加速がかかっているため、すぐに向きを移動することができない。また、旗は触れるだけでも、通過とみなされるが、スピードが落ちてしまう。また、ギャップ(地面のでこぼこ)に斜めに進入すると転倒してしまう。
このゲームは如何に次のポールの位置を予知(というか判断)して、そのポールの間にプレーヤーを移動しておくかが重要となる。プレーヤーが最高速に達してしまうと、ポールが0.5秒くらいおきに通過する(ともかく速い)。1つ通過するかしないかのうちに、次のポールの位置をみて、そこに移動しておく必要がある。スキーを左右に振ってスピードを落とすことは可能だが、これではなかなか点数がアップしない。
このステージは第一ステージであるが、いきなり難易度が高い。というのも、ポールをひとつでも逃すと、いきなりゲームオーバーだからである。だから、最高速に達したときに、ちょっとでも気を抜くとマッハのスピードでゲームオーバーである。たぶん、コンピュータスキーゲームの歴史(?)の中で、ここまでスピード感があり、難しいゲームは存在しない。逆にここまでのスピード感を出したことを誉めるべきなのだろうか。



モーグル

モーグルは、ギャップ(地面のでこぼこ)の中から盛り上がったギャップを選んで進入し(盛り上がったギャップは逆三角形をしている)、その直前でスペースキーを押してエアーを行うというものである。エアーをゴールまでに2回実行し、なるべく早くゴールに到着する。エアーの種類はコンピュータが勝手にするために自分でポーズを取ったりすることはできない。しかも、ポーズは単にマタを開いたりするくらいだ(笑)。
モーグルは即失格ということはないので、とりあえず精神的には楽なのだが(笑)、なるべく序盤で2回のエアーを行い、あとはスピードをつけて一気にゴールしてしまうのがポイントである。もっとエアーの種類が多かったりすると面白いのだが。あとギャップがやたらとあるので、斜めに進入して転ばないようにすることも大切だ。転ぶと大幅にタイムをロスしてしまう。



エアリアル

おそらくここがホットドック最大の見せ場であろう。スタートしたら、左右にスケーティングをし、速度をつけていく。最初はノロイのだが、だんだんスピードがついてくる。そして十分に速度がついたらジャンプ台に進入し、タイミングを計ってスペースキーでジャンプをする(このタイミングによってジャンプの高さが違う)。体が宙に浮き上がったら、[2][4][6][8]のキーで前後左右の回転が可能で、グルグルと回って着地する。着地体制がきちんととれていないと転倒して点数が下がってしまう。
このアクロバティックなスキーは、プレーしていても爽快感があるのだが、ジャンプする際のタイミングが難しく、空中高く飛ぶのは慣れが必要である。この高さと宙返りで点数は決まるが、フロントサマーソルト、バックサマーソルト、ひねりなどを自由に演技することで点数もかなり違ってくるようだ。残念ながら何をすると最も点数が高いかまだは分からないのだが。着地も重要で、少しでも自分が傾いていると転んでしまう。地面に近づいたら、きちんと着地体制をとることが重要である。

これらの3種目が終了すると、総合得点が表示され。上位5位までに入賞していると次のステージに進むことができる。



ゲームの長所

このゲームの作者、藤田昌宏氏は当時22歳で、工学院大学の学生であった。彼の最初の作品は、同じボーステックから発売された「フリーウェイ」という3Dカーレースゲームであった。このフリーウェイ、正直いうと出来が悪い。ただ、車が真ん中にあって、敵が少しずつみえてきて、それをよける。ただそれだけだ。PC-Engineの「F1パイロット(パックスソフトニカ)」(分かる人には分かるクソゲー)も真っ青なほどすごかった。
そんな藤田氏がこの3D技術を使って次の作品をボーステックに持ちこんだ。それがホットドッグの原型となった「スキーフォーラム」というゲームであった。初めは水上スキーを作る予定だったのが、水上スキーはヒモで引っ張られるときの計算が大変だったらしく、断念。スキーの方が楽そうだということでスキーゲームに変更したそうである。彼自身もフリースタイルのスキーはあまり知らなかったらしく、スキーの詳しい人や雑誌、テレビで研究して制作したそうである。

ホットドックは「フリーウェイ」と違って、3Dの部分にかなりの進歩が見られる。背景は1パレットであるが、奥と手前の2重スクロールになっており、遠近感を出すのに成功している。この背景、よくよてみると、加速したり減速したりしたときに(こちらがなにも移動していなくても)、細かく動いていて、しかもそれが違和感がない。おもしろい動きだ。場の雰囲気を出すのに一役買っている。

また、画面に必要最低限のものしか、表示されていないので、スピードが速い(SRでプレーしたときの話。mkIIではやっぱり遅い)。このあたりのレイアウトはすっきりしていて逆によいと思う。エアリアルのキャラクターのパターンや背景のスクロールなども、プレーヤーに違和感を感じさせないようにうまく出来ていると思う。

また、このゲームは音楽がよい。もちろんSRで実行した場合に限られる。音楽というより、ドラムスのみのリズムなのだが、非常にゲームにマッチングした出来だと思う。ちなみにデモだとちょっとしたメロディもついている。



ホットドッグの難点

ホットドックにはいくつか難点がある。一番ひどいのは、難易度である。このゲームはプレーしてみるとわかるのだが、かなり難しい。スピードがあまりに速いために、こちらの対応もかなりの慣れを必要とする。また、「スラローム」では1度でも旗門から外れると、即ゲームオーバーなのはかなりつらい。また、敵が一面から強敵ぞろいだ(どの相手が出場してくるかは乱数)。序盤3面のライバルである「PING PONG」を抜くのはかなりの熟練が必要だろう。彼はほとんどの競技で信じられないようなタイムと点数を出してくる。また、4面以降はその「PING PONG」さえ5,6位になってしまうというレベルの高さ。人間業ではクリアできない。
このゲームは複数人でできるところが1つのウリなのだが、かなり慣れが必要となるため、4人で楽しもうと思ったら4人とも相当熟練していることが必要である。だから、ちょっと友達が来たときに、「ホットドッグでも遊ぼうよ」と気軽にプレーできない。もし気軽にプレーしてしまえば、その友人は1面の最初の「スラローム」でゲームオーバーだろう。このあたりを配慮して、2人だけの対戦モードや初心者モードをつけてほしかった。

最後にひとつ。スポーツゲームというのは、そのスポーツのおもしろさをどのようにゲームに置きかえるか、という点にあると思う。簡単に言えば、たとえば野球ゲームの場合、"打つ"という動作を"タイミングよくスペースキーを押す"という動作に置き換える。ゴルフゲームならば、"バンカーに入ったときのショットの難しさ"を、"キーを押すタイミング"を難しくして表現したりする。このポイントがしっかり表現出来ているゲームは、プレーヤーがそのスポーツをしたことがなくても、おもしろい感じさせくれるのだと思う。しかし、ホットドックはどうだろう? 作者はこのスキー競技のどこをユーザーに楽しんでもらおうとして作ったのだろうか?残念ながら、私にはおもしろいと感じさせるポイントがぼやけているように思える。それは技術的に表現し切れなかったということもあるだろうが、作者が「本物のスキーの再現」に気を取られすぎて、これがユーザーが楽しむゲームであることを忘れてしまったのではないかと思うのである。

ホットドッグに関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権は株式会社ボーステックに帰属します。