バーニングポイント by 村田氏
エニックスより1989年2月に発売
Story
僕の名前は、マイク・スティール。二週間前にライセンスを取得したばかりの新米の探偵だ。今日、ボクは生まれ故郷のサンタクリスの町に帰ってきた。小さいながらもかねてからの夢だった探偵事務所を開業することにしたのだ。久しぶりのサンタクリスは以前とはちょっぴり様子が違うようだ。とりあえず、探偵の広告でも近くのお店に貼らせてもらおうか・・。なんていってる間にはじめての依頼がきた。その依頼っていうのは、ホテルの火災に巻き込まれて、死体も見つからなければ、生存者の中にも姿が見つからないヘレンという女性の消息を調べてくれ・・という奇妙な依頼だった。(マニュアルより抜粋)
ゲームについて
私はこの作品より面白かったADVゲームを知らない。当時88の全盛期にあってADVゲームも一つの黄金期を迎えていたと思う。このころ、ハードがこれだけ発達した現在にあってもその面白さが認められている「スナッチャー」や未だ完結せずPCエンジンで続編の発売が予定されるも中止となった「アンジェラス」等様々な秀逸なADVゲームが次々と開発されていった。「バーニングポイント」はそんな作品の中でひときわ群をぬいたミステリーADVだった。不幸にしてその知名度は他の作品に比べると低いが、その完成度は他の追随を許さない。
物語はカリフォルニアで開業したばかりの新米探偵マイク・スティールに、老夫婦からホテルで焼死したはずの孫娘を探して欲しいという不可解な依頼が舞い込んだことからはじまる。スティールはこの娘を探していく過程でこの家族の過去を知る。そしてその過去の背後に隠された大きな黒い事件につきあたっていくのだ。
確かにゲーム用のストーリーとうことで、終盤からラストにかけての事件を解決するための証拠集めのくだりがいかにも御都合主義的であることは否定しない。しかし、これはゲーム性を重視する上でしかたがなかった事であろう。
最後に「バーニングポイント」のゲーム性について述べておこうと思う。昨今のミステリーADVゲームをつまらないものにしている原因。それは動画の存在である。確かに動画は奇麗だ。効果音にしろ音楽にしろ当時の88の比べ物にならない。しかしそれがゆえにADVゲームを単なる分岐のある映画にしてしまった。「バーニングポイント」にしても上に挙げたような秀逸な当時のADVゲームにしても絵などはほとんど動かなかった。声もでなかった。しかし効果的にアニメーションや効果音を使うことによって我々を驚かせ、ストーリーを十分に盛り上げた。そして単なる分岐や声のでるスイッチでない、まさに自分がその世界の登場人物かのように錯覚させるような多彩な会話の選択肢とそのレスポンス。これらがうまく噛み合わないと本当に素晴らしいADVゲームとは呼べないと
私は思う。
「バーニングポイント」のコマンド選択システムはやや変わっていて動詞+名詞といったコマンド選択の方法ではなく、事件の事柄ごとに「××を聞いてみよう!」とか「××を見せてみよう!」などといった微笑ましい選択肢がその状況状況で並び、ストーリーがテンポよく進むのに一役買っている。また会話は漫画の吹き出しのような囲いの中に文字がでる。このとき登場人物の台詞のニュアンスによって文字の大きさや表示されるスピード、そして効果音が変化し、文字だけの会話にリアリティーや臨場感を効果的に与えている。
そしてこの作品のセールスポイントである”パーセプション”機能(広告で宣伝していた機能)ではSEをふんだんに用いてそれ自身が重要な情報や証拠であったりして、プレイヤーを物語へとひきこませる。
以上のようにマシンが非力だった時代は作者が細部にこだわり、ゲームとしていかに楽しめるかを追求し、様々な方法を用いてプレイヤーを満足させてきた。
しかし近年のADVゲームは強力なマシンパワーによる表現力を手に入れたのと引き換えに、これらのプレーヤーを楽しませるという最も大切なことを放棄し、3流の映画やアニメをPCのモニターの上で再現するだけの模倣品となってしまった。決して私は新しい技術を否定するものではない。そろそろこの素晴らしい表現力を使って、いかにプレーヤーを楽しませることができるかを追求した、新しい世代のADVが出てくることを切望してやまないのである。
「スナッチャー」や「アンジェラス」は作品の出来自体は非常に優れている。しかしこれらは当時完結していなかった。すなわち開発上の理由で物語が途中で終了してしまっていたのだ。これはプレイしているものにとって非常に高いフラストレーションを与える。一方バーニングポイントの物語は完全に完結している。この作品単体で完全な「バーニングポイント」の世界を紡ぎだしている。それがこのゲームを解き終えた時の達成感や感動をより大きいものにしたのだろう。
なによりも「バーニングポイント」は物語自体が非常によくできている。マイクスティールという頼りなげな新米探偵というキャラクターも親しみやすいし、カリフォルニアの海岸の田舎町という舞台設定もこの作品になんとなく爽やかな感覚を与える。ストーリーで言えば、中盤から後半にかけての情報の断片が一つに収束し意外な事実が判明したとき、「バーニングポイント」というタイトルの意味がはじめて明らかになる。この時の私はその衝撃に鳥肌をたてたものだった。
文章:村田氏
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