鍵穴殺人事件


シンキングラビットより1983年に発売


ミステリーアドベンチャーの走り

日本のアドベンチャーゲームは、テキストよりもグラフィックを重視する傾向が強かった。さらに「場面数の多さ=質の高いアドベンチャー」のような風潮もあったので、各ソフトハウスはグラフィック画面をメモリに詰めこめるだけ詰めこみ、テキスト部分は二の次になる傾向が強かったのである。
日本では西洋中心のファンタジーの世界になじみが薄く、そのようなシナリオを書くのはなかなか難しかった。よって日本の初期のアドベンチャーで、シナリオがまともだったゲームというのは、ミステリー(推理)アドベンチャーの分野ぐらいだったかもしれない。推理小説は日本でもそれなりに定着していたし、得意な分野だったかもしれない。この作品はそれを証明する一作といってよいだろう。


ミステリーハウス+推理

鍵穴殺人事件を制作したのは、当時創業して間もない「シンキングラビット」という会社である。社長であり作者でもある今林氏は、推理小説が好きなこともあって、自ら脚本を手がけた。彼が影響を受けたのはあのインフォコム社の秀作「デッドライン」という推理テキストアドベンチャー。そしてもう1つはシェラ・オンライン社の名作「ミステリーハウス」。鍵穴殺人事件は、この2つのゲームの特徴を組み合わせたゲームになっている。「デッドライン」の推理部分と、「ミステリーハウス」の宝探し部分である。今林氏は、本当は容疑者を問い詰める会話型アドベンチャーゲームを作りたかったらしいのだが、メモリの制約により断念。その分グラフィックに力を入れることにしたらしい。


ゲームのプロローグ

ゲームの舞台はロンドン。「俺は殺人予告を受けたギルズ・ウィルコック氏の別荘にいた。予告された日時は午前0時。ウィルコックは2階の書斎に、そして俺はその部屋に唯一通じるドアの前で0時が来るのを待っていた。現在この別荘にいるのは秘書、メイド、コック、客、使用人の5人。時計をみるともうまもなく0時であった。・・・そのとき、部屋の中から銃声とともに悲鳴と人の倒れる音がした。急いでドアを開けようとしたが鍵がかかって開かない。とりあえず、鍵穴から部屋を覗いた。するとそこには・・」こんなプロローグで始まるこのゲーム、鍵穴を覗くと主人が倒れているのだ。おまけに密室殺人。この謎を解くためにまずプレーヤーは屋敷をくまなく徘徊し、証拠品を探さなければならない。そして証拠品を見つけたら、容疑者の5人に尋問をして犯人を割り出さないといけないのだ。


証拠品集め

鍵穴殺人事件は、本家「ミステリーハウス」顔負けの、証拠品探し部分が非常によくできている。たとえば、ウィルコックが倒れた書斎に入るためのカギを取得するためには、1階の花瓶をとり、その中を覗かないと見つからない。また、別荘は「ミステリーハウス」も真っ青な隠し部屋、隠し扉がたくさんある。極めつけは書斎の仕掛けで、部屋の隅にする置時計のフタを開け、針に塗ってある毒を拭き、さらに針を戻すと後ろにある暖炉の扉が開くという寸法だ。純粋な"家の中をを探索するアドベンチャーゲーム"として見ても、これ以上の完成度をもったゲームを探す方が大変だと思うほどよく出来ている。
良く考えると、証拠品を集めるのに、このような非現実的な家(?)を探索しなければならないのはナンセンスである。しかしこれは、この時代だから出来た楽しみ、作者のトリックをいかに言葉で探すかという初期のアドベンチャーの良さを評価したい。


尋問

鍵穴殺人事件が、単なる「ミステリーハウス」の模倣ならばそれまでの作品だが、集めた証拠品を使って、犯人を自白させることこそが真の目的であることが、他のアドベンチャーゲームと一線を駕していたと言えるだろう。この尋問部分はけっこう細かい。容疑者の名前、年齢、出身地、アリバイなどをきちんと聞き、関連する証拠品を見せることにより、ウィルコックとの意外な関係が次第に明白になっていく。また、証拠品の中には、尋問でしか得られないものがあるのも目新しい。ただ、その尋問部分は、淡々と語る部分が多く、容疑者の表情が変わったり、なにかもっと効果があるとドキドキするような展開になったと思う。しかし、メモリの制約と当時の技術を考えると、これが限界だったのだろう。


そして

鍵穴殺人事件は、後に発売された「黒猫荘相続殺人事件」「殺人倶楽部」などの推理アドベンチャーのお手本となったゲームでもある。このあとミステリーアドベンチャーは、コンピュータでどのようにそれを表現していくかを思考錯誤していくことになる。


当時の記憶

筆者がはじめてアドベンチャーゲームに触れたのは、この「鍵穴殺人事件」だったと思う。それまでテレビや人づてに「アドベンチャーゲーム」というものを聞いてはいたものの、どのようなゲームなのかはよく分からなかった。筆者がこのゲームをプレーしたのは秋葉原に当時あった「コスモス秋葉原」というお店だった。そこに「鍵穴殺人事件」がデモってあり、友達とそこでプレーしたのである。
アドベンチャーゲームを最初にプレーしたとき、その画面の怖さ、不気味さにドキドキした記憶がある。また、なにかコマンドを入力するとディスクのアクセスが始まり、画面がゆっくり書き換わる。謎が解けたは店で友達と大騒ぎだった。こんなにおもしろいゲームがこの世に存在したなんて・・。私はそれ以来、88を購入してアドベンチャーゲームをプレーすることをずっと夢見ていたのだ。その後88mkIIを購入したときに当時高価だったディスクドライブを一基つけた。それは鍵穴殺人事件をプレーするためだったのだ。筆者にはこのゲームにこんな思い出があったのでした。


おまけ!!鍵穴殺人事件の攻略(ネタバレあり)

1. はじまりの場所

ゲームはここから開始される。銃声をきいた主人公がマニュアルの薦めどおりにカギアナをノゾクと・・。



2. のぞいた場面

主人が倒れているのだ。ドアをたたいてもどうしようもないぞ。もう死んでいるんだから。


3. 下の奥の部屋

この部屋にカビンがあるので、とりあえず拾っておく。しかし、拾っただけではダメ。このカビンをきちんと覗かないとダメなのだ!!覗くと主人の部屋の鍵ゲット。


4.主人の部屋

先ほど入れなかった主人の部屋。死体は誰かに片付けられている。鍵穴殺人事件の第一の難関といえば、この場面だろう。ここではさまざまなアイテムが手に入る。まず、「ヒキダシ アケル」で主人の日記が、「ジュウタン メクル」でその日記のページの一部が手に入る。そして問題は柱時計。時計はなぜか12時5分で止まっている。時計のフタをあけ、針を動かそうとするとなんと針に毒が・・。さらにこの場面、「ハリ ウゴカス」ではダメ。「どう動かすの?」と聞いてくる。「ハリ モドス」が正解。そんなの分かるか! 。針を戻すと暖炉の奥の扉が開く。


5.暖炉の奥

暖炉の中は部屋になっていて、ピストルが手に入る。重要な証拠物件である。このピストルで殺したのだろうか。


6.台所

下に降りると台所が。奥の部屋には包丁がおちているので取っておこう。もちろん冷蔵庫をあけないといけない。


7.冷蔵庫

冷蔵庫の中には肉が一個入っている。肉は食べようにも食べられない。包丁をせっかくとったのだから、肉をきってみよう。2つめのキーをゲットだ。このあと冷蔵庫を動かしてもよいのだが、まずは上をもう一度攻略しよう。


8.本棚の部屋

主人の部屋のとなりにある本棚のある部屋。フミダイはもちろん取っておくとして、問題は本棚。実はいくつか読める本がある。「ヒントシュウ1」「ヒントシュウ5」が読める。これがあると使える動詞がわかるので展開が楽。


9.使用人の部屋

1階の使用人の部屋には、あやしいタナがあるので、フミダイを使って登ってみよう。ロープを発見できる。


10.ベッドルーム

2階にあるベッドルーム。まずシーツをめくると、フタが出てくる。そこでフタをあけると下に行ける穴が出現。ロープを通してやると下におりられるようになる。


なんて、ここまでネタバレでやってまいりましたが、あとは自力でがんばってみてくださいね。いろんな人に尋問しないと解けませんよ。残りはヒントです。


11.秘書の部屋

殺風景な部屋の真ん中に変わった形の置物がある。この置物をなんとかすると、タンスが開いて、なんと秘密の通路が出現する(どういうタンスなんだ)。実は「カビン ノセル」で花瓶を天秤に載せればよいのだが、そのままではダメ。花瓶に水を汲んで重量を重くしておかないといけない。


12.風呂場

ここは言葉が超難しい。花瓶に水を汲めるところはここしかないのだが、どうやって水を汲んだらよいのか難しい。まず、「ミズ ダス」でシャワーから水を出す。しかし、風呂の栓をしていないらしく、風呂に水が溜まらないので水が汲めない(別にシャワーから汲めばいいと思うのだができないのだ)。そして栓をしたいので、「フロ ミル」とか「フロ ノゾク」とやってみるがダメ。なんと「フロオケ ノゾク」または「ヨクソウ ノゾク」が正解。また、風呂の栓をするのは「セン スル」。単純なコマンド過ぎて意外と思い付かない。


このゲーム、実は最初セーブしないで、ぶっとおしでプレーしないと解けないことがあるというバグがあり、私は解くのに相当時間がかかってしまいました。しかし、夜な夜なこのゲームにすっかりはまっていた高校1年の頃を思い出すと、なんとも懐かしい気分に浸れます。


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