David's Midnight Magic
システムソフトより1984年7月に発売
ビデオピンボールゲームの元祖
パソコンのピンボールゲームの元祖をご存知だろうか?天才プログラマーと言われたビル・バッジ制作の「ラスターブラスター」(写真)というゲームがそれである。このゲームは、バリー社のピンボールゲーム「FirePower」をパソコンで忠実に再現したもので、制作に6ヶ月を要したという。このゲームが当時画期的だったのは、ピンボールという電磁力の力を借りるしかなかったものを、アップルIIのモニターに押しこんだ、つまりテレビゲームの中にゲームがあるという2重の空間の演出である。また、ボールの動きを物理の法則にかなうように計算し、リアルタイムなボールの動きを作り出したことも挙げられる。その後、アップルIIではさまざまなピンボールゲームが発売されたが、デービッドミッドナイトマジック(以下、DMMと略す)もそんなすばらしいゲームの1つである。
伝説的なプログラマーのビル・バッジだが、彼はカリフォルニア大学でコンピュータ・サイエンスを専攻、卒業後、アップル社においてアップルIIのためのソフトウェアエンジニアとして働いていた。それと並行してカルフォルニア・パシフィック社やストーンウェア社などからゲームを発売。1978年に3つのゲームがパッケージされたアップルII用の「トリロジー・オブ・ゲームズ」を、77年には宇宙を舞台とした3つのアクションゲームをパックした「スペース・アルバム」を発表。その後、自らの会社「バジコ」を設立、81年には「ラスターブラスター」を発表し、人々を驚かせた。ラスターブラスターは、アップル社の創設者のひとり、スティーブン・ウォズニアクと、シンプルだけど定評のあるソフトを書く、ボブ・ビショップに進められた作ったものである。その後、アップル社に戻り、82年には自分でピンボールゲームを組み立てることができる「ピンボールコンストラクションセット」を発表。これも大ヒットとなった。
●ビルバッジについて
デービッドミッドナイトマジックのすごさ
DMMは、ブローダーバンドソフト社がアップルII用に開発したゲーム(作者はデビッド・スナイダー。自分の名前をゲームに入れるなんてアメリカらしい)で、1983年にシステムソフトが「ロードランナー」や「チョップリフター」とともに88用に移植した。DMMは2段式のピンボールゲームで、ゲームの盤は上部と下部に分かれている。そしてそれらを斜面で美しくつないでいるのだ。上部と下部にはそれぞれフリッパーがあり、2つのキーを押すことで正確に反応する。このゲームは見た目はシンプルだが、いろいろなアクションがあるのが特徴。上下にいろいろな標的があり、そのうちいくつかを倒すと、外側の通路に行きそうになったボールを引き止めるマジックマグネットを動かすことができる。また、スペースキーを押すと、TILTという台を揺らす効果があるが、やりすぎると反則になってしまう。さらに、ある標的を通るか、倒すことで、ボーナスポイントが画面左に加算され、ボーナスポイントが何倍にもなる標的もあるのだ。DMMで点数をかせぐには、このボーナスポイントを何倍にもする画面下の標的を狙ったり、なるべくボールを落とさないように、常に画面上でボールを地道に維持し続けるなど、多様な戦略がとれる。
そもそも、このグラフィックの解像度で2段のピンボールを入れた配置は実に見事としかいいようがない。そして、最もエキサイトするのは、ボール溜にボールが入ったときだ。ここにボールが3つたまると、ボールがすべて落ちて3つのボールが同時に盤面を動きまわることになる。このときに処理速度が落ちないところも、この技術的な高さを示しているのではないだろうか。
ボールの動き
ピンボールのボールの動きは物理計算で成り立っている。重力、台の傾き、フリッパーの反射、これらが絶妙に組み合わなければ、ピンボールはまともなゲームにはならないだろう。この当時、PC-9801用のムーンボール(システムサコム製)という大ヒットしたピンボールゲームがあった。ボールの動きのリアルさ、台の色彩の鮮やかさはすばらしい出来映えで、フリッパーを動かすのに使用するエスケープキーと「/」キーの壊れた98が続出したというエピソードもある。実はこのムーンボール、当時アップルIIで最高峰といわれたDMMを超えようと、システムサコムの「マークフリント氏」が制作したものだ。ボールの動きが命のピンホールゲーム、物理計算を16bit(98)と8bit(88)で行った場合、単純に256倍の精度の差がでるため、98の方が圧倒的に有利だ。ムーンボールはそんな有利な点を活かした作りになっている。しかし、DMMも16bitに比べて8bitという不利なマシンにも関わらず、この計算が実によくできている。台の傾きの値を調整することで、ボールのスピードを最適にコントロールする。そして、永久ループ(精度が低いと、跳ね返ったボールが同じところをぐるぐる回ってしまう場合もありうる)になってしまう部分に、乱数を組みこんだりと、見えないところでの様々な工夫がされているのだ。
また、ビデオピンボールゲームとして「TILT」のファクターを入れたことは革新的である。「TILT」とはピンボールの台を揺らしてボールの軌道を変えるという、実際のピンボールでは反則ではあるが、重要なテクニックである。DMMで、TILTを使うにはスペースキーを押すのだが、押しっぱなしにしたり、あまり使いすぎると反則になったしまうあたり、実際のピンボールに近づけようとした部分で非常に評価できる。
その他のピンボール
88ではDMMの他にもいくつかのピンボールゲームが発売された。ポニカの「ボールパニカー」、HAL研究所の「ローラーボール」などである。しかし、これらのゲームはピンボールの命ともいえる、ボールの動きにぎこちなさが残っている。たとえば、ボールパニカーでは、ボールのちらつきが気になるし、物理計算もおかしい。その分、台上の飾りものを多くしてごまかしている。ローラーボールに至っては、難易度の違いを重力の違いに置き換えてしまい、ピンボールそのものおもしろさを追求するのではなく、コンピュータでしかできない架空のピンボールマシンを作るという方向に進んでしまった。これが悪いことだとは言わないが、プレーしてみればなにがピンボールにとって重要な要素なのかはすぐに理解できると思う。
参考文献:電視遊戯大全
ログイン 83年7月号
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