ザ・ファイアークリスタル


BPSより1984年9月に発売


ブラックオニキスの続編

日本で初めてロールプレイングゲームとして大ヒットを収めた「ザ・ブラックオニキス」。この続編として制作されたのが本作「ザ・ファイアークリスタル」である。ザ・ブラックオニキスでは、できるだけ難しい要素を廃し、自分がゲームという世界に入り込み、その役割を演じるという部分にスポットが当てられた。そのため、まだロールプレイング慣れしていない日本のユーザーに受け入れられたのだろうが、本作はどうだっただろうか。



まずはキャラクター

ファイアークリスタルは、ブラックオニキスの続編として作られたため、ブラックオニキスで育てたキャラクターを使用する。よってブラックオニキスをプレーしていない場合、キャラクターをまずブラックオニキスで作成しなければならない。また、ファイアークリスタルでブラックオニキスのキャラクターを呼び出すには、ブラックオニキスのウツロの街にある寺院(Temple Gate)の前でセーブしておかなければならない。これはファイアークリスタルの舞台が寺院の中であるためである。まぁ理にかかなっているといえばいるが、ブラックオニキスとファイアークリスタルを交互にプレーする場合は、ちょっと面倒でもある。

ただ、このキャラクターを使いまわすというアイデアは「ウィザードリィ」にも見られる、ファンの泣き所をついた要素だろう。ブラックオニキスで心労を共にした愛らしいキャラクターと再びプレーができるというだけでファンにとってはたまらないのだから。ブラックオニキス自体があれだけヒットしたゲームだったから、新規でファイアークリスタルを始める人のことをそれぼと懸念する必要もないだろう。
ファイアークリスタルでは、ウツロの街も多少変化しており、ヘアースタイルを変えられる「床屋」や、名前を変更できる「市役所」が増えた。ブラックオニキスで不満だった髪型や名前を変えられるというのは、心機一転できてよかったと思う。(画面は呼び出してゲームスタートしたところ)



魔法使いになるには

ファイアークリスタルで、最も重要な進歩。これはキャラクターが魔法を使えるようになったことである。前作では、複雑になり過ぎると敬遠した魔法がついに使えるわけだ。BPSの考えるステップアップは非常に好感がもてる。ブラックオニキスである程度ロールプレイングやシステムに慣れた人にとって、魔法の要素は新鮮でもあり、さらにその部分に集中できるというわけだ。

ブラックオニキスで手塩にかけて育てたキャラクターを魔法使いにするには、地下一階にいるオラクルという魔法使いに出会う必要がある(右図)。彼に出会い、魔法使いになると、キャラクターの頭上にファイアークリスタルが表示され、これは魔法の力を示している。ファイアークリスタルが明るさを示すときは魔法の力が十分にある。しかし、魔法を使うと輝きは失われ、色が失われてしまう。ただし、移動などで魔法を使わないと、輝きは再び元に戻っていく。

また、魔法使いになると、すべての防具と武器は取り去られてしまう。ただ、ウツロの街に戻れば、武器をもち戦うことは可能である(防具も付けられるが、攻撃系の魔法が使えなくなる)。パーティのうち2人または3人を魔法使いにするのが妥当だが(というか、最低2人はゲームを終わらせるために必要)、彼らは防具をつけていないため、攻撃を受けにくい後列に位置を変えておく必要がある(ブラックオニキスにはなかった要素で、キャラの順番によって攻撃を受ける確率が違うのだ)。

魔法使いを育てるには、魔法を使わなければならない。最初のうちはたいした魔法も使えず、パーティの中ではお荷物のような存在であるが、魔法をどんどん使うといろいろな強力な魔法を覚えていくのである。

余談だが、筆者は魔法使いの格好がいまいちカッコ悪くて好きではない。レベルが上がったときの緑と赤の刺繍の入った法衣って、イカサマ宗教の教祖みたいな・・・。


ちなみに魔法は戦闘中に使うとグラフィックで表示され、これは非常に目新しかった。たとえば、「Cloud」という魔法をかけると敵の上空に霧が発生し、いかにもみえにくくなっているようだし、最強の魔法「Magma」を使うと地面が真っ赤に染まるのである。慣れてくるとちょっとうざったい部分もあるが、このような演出は3D形式のロールプレイングではその後もあまりみられないものだったし、ここまでがんばったデザイナーの方を誉めてあげたい(ちなみにSRバージョンでは、魔法を使うとそれらしい"音"によって演出される)。
魔法は主に戦闘時の魔法と非戦闘時の魔法に分けられる。戦闘時の魔法は、敵を直接攻撃するものの他、相手をおどろかせたり、敵の防御力を下げたりするものもある。戦闘以外の魔法は、たとえば明かりをつけたり、壁を通り抜けたり、クローンを作ったりと冒険には欠かせないものである。




攻略

ファイアークリスタルはPC8801で発売されたゲームの中でも難易度の高さはトップクラスだろう。それだけヒントが少なく、敵キャラクターも強い。さらにマッピングも困難である。
地下1階は前作のブラックオニキスをプレーしていれば別に難しいところはない。やることは、オラクルに会うことと、魔法の泉をさがすことぐらいである。
地下2階になると、いきなり真っ暗になるので、Lightの魔法で照らすことが必要である。ここから迷宮は複雑になり、別の場所に飛ばされるワープ、そこに立つと方向が変わる床(ターンテーブル)、通過できる壁、見えない壁、一方通行の壁、Knockの魔法を使わないと入ることができない閉鎖された場所などがある。また、昇降の階段は一方通行なので、いったん階下に降りると、上りの階段を見つけるまで上にあがることができない。見つけるまで安易なセーブは禁物。ただし、Teleportの魔法を覚えれば、上の階にワープできる。



地下3階、4階になるとある地点に行くと別の場所に飛ばされるワープがある。しかし、景色が全く変わらないので、ワープしたのか最初分からない。地図を書く側からみると、かなり陰険である。「ウィザードリィ」などのように、その階のマップ全体の形が決まっていれば、マッピングも楽なのだが、ファイアークリスタルの場合、形状は無限に広がっているため、余計にやっかいである。また、モンスターもこちらのキャラと同等ぐらいの能力(ブラックオニキスの地下6階クラス)がごろごろしているので、魔法をいかに使うかが重要になる。まず攻撃魔法では、「Magma」の最強魔法をいち早く覚えることが重要だ。この魔法は複数の敵に対してダメージを与えることが出来る。その他の魔法は、一匹にしかダメージを与えられなかったり、複数に与えたとしても「Magma」ほどの効果がない。



地下5階では、いよいよブラックオニキス同様、名物の色迷路が登場。今回は"イロイッカイヅツ"や、カラーコード順という単純なものではない。この壁、ある地点を通過すると、正面の壁の色または側面の壁の色が変化する。その2つの壁の色が「赤」「赤」になったときに下への階段が出現するというトリックである。しかし、ほとんどノーヒントだっような記憶があるのだが・・。前作では"イロイッカイヅツ"のカラーコードもノーヒントだったから仕方ないかもしれない。しかし、こんな謎はまだ序の口。
ようやく地下6階に行くと、「魔法の合言葉は?」と尋ねてくる扉がある。そこで適当に答えると(筆者は正しい答えがいまだにわからない)、前方のエリアの景色が変化する。そしてこの階の謎はとんでもない。まず「ルビー」と「サファイア」というアイテムを取得していなくてはいけなのだが、これを持っていると「Jump」の魔法を使ったときにある規則に従ってジャンプする。これを使って、この階の中央の部屋まで「ケイマトビ」で進んでいく(ちなみに「ケイマトビ」はどこかの階でヒントが得られるが、これだけで分かる人はほとんどいないと思う)。中央にたどりついたら、「Astral」の魔法で魂となり、ずっと上まで進んでいくとようやく終了となる。こう書くと簡単そうにみえるが、ノーヒントで終わらせた人は相当なものだ。



アミュレット

このゲーム、他にも「アミュレット」なるアイテムがあり、身につけるとキズが自然に治癒されたり、攻撃力や防御力が強化される。また、10種類のスレイヤーがあり、モンスターの系統によって効果が発揮されるらしいが、筆者は全部取ったことがない(^^;。「ウィザードリィ」のようにアイテム集めだけをやっても楽しいと感じさせるようなゲームシステムになっていれば、このゲームはさらに奥が深いものになったのだろうが、このアミュレットの存在があまり知られていなかったし、取ったとしても効力もどれほどあるのかいまいち不明なものが多かった(いまだによくわからない)。また、地下5階はモンスターが強く、探索するだけでも大変な労力がかかるため、集めようという気力さえ失せてくる。またランプというアイテムもあり、最強の魔人を呼び出せるのだが、3回しか使用できないので、あまり役に立たなかった。



問題点

このゲームは、ブラックオニキスという大ヒットゲームの恩恵を受けてかなりの売り上げを記録したと思うが、ゲームの完成度を考えるといまひとつの部分が多い。
まず魔法から。魔法はたくさんの種類があるのだが、攻撃魔法は攻撃方法は違えど与えるダメージは最強の魔法「Magma」を使えば、他を使う必要がほとんどない。成長過程は弱い魔法を使うが、1度魔法のグラフィックを見れば、もはや使う必要もないと感じる。また、熱系の魔法で強力なものが多いのだが、地下5,6階に行くと、この魔法が効かないばかりか、体力が逆に増えたりする敵がいて、このような敵に有効と思われる氷系の魔法で強力なものがないのが痛い。このあたりはゲームバランスを考えて欲しいところだ。
続いて、戦士の成長である。ブラックオニキスでだいたいレベル12からレベル13まで上げている人がほとんどだと思うのだが、ファイアークリスタルでプレーしてもこの経験値がほとんどあがらない。よって戦士はほとんど成長しない。また、武器も新しいものがない。もし、戦士がさらに成長し、武器も強いものがゴロゴロしていたら、もっとこのゲームがおもしろいものになったはずだ。地下5階より下の敵があまりに強くて、ゲームに嫌気が差すことを考えると、「バグ」で成長しなかったのではないか?と疑ってしまうほどだ。ちなみに筆者は非道にも途中でキャラクターを改造してしまった。右の図で、一番上のキャラクターは非改造のもの、あとの4人は改造キャラで、パラメータをMAXまで上げている。右の敵と比べて、通常のキャラでは太刀打ちできそうもないことはあきらかだ(地下5階)。
実際、この改造は雑誌「テクノポリス」で改造リストが掲載されてから広まったものだったと記憶しているが、おそらく多くの人は改造していたと思う。それだけこのゲームのバランスが悪かったことを証明している。

また、敵の出現率もかなり気になるところだ。はっきりいってエンカウントしすぎる。特に地下5,6階は謎解きが難しい上にマップも複雑なので、戦闘に神経を集中していると、すぐに道に迷ってしまう。おまけに、たいしてキャラクターも成長しないので、しまいには「RUN」の魔法で逃げまくるという結果になってしまう。少なくとも、敵とのエンカウントを軽減する魔法は用意してほしかった。

続いて、ゲームスピードの相変わらずの遅さだ。地図はセミキャラクターを使っているので、ブラックオニキスからそのスピードには問題はないのだが、モンスターの読み込みは相変わらず遅い。これは敵キャラクターデータをすべてシーケンシャルデータでもっているためで、簡単にいうといちいちキャラを先頭からなめているためである。また、プログラムは基本的にBASICで書かれており、オニキス以来基本部分はほとんど変わっていない。もうちょっと技術的にもがんばってほしいところだった。


結局のところ、ファイアークリスタルの残した影響とは何だろうか?ロールプレイングゲームに「魔法を使う」というおもしろさは少なくとも伝わったと思う。しかし、マップの凶悪さと謎解きの難しさはどうだろう?このゲーム、地下4階あたりから、苦痛に感じてくるプレーヤーが圧倒的に多かったのではないだろうか。しかし、心の中でおもしろいと信じている「ブラックオニキス」シリーズ。中途半端にやめるのも心が許さない。そして惰性で毎日地下4階,5階で飽くなき苦闘が続いていただろう。しかし、1984年12月に「ハイドライド」が発売され、「ファイアークリスタル」の冗長さに嫌気を感じたプレーヤーは、フィールドを自由に動き、敵をリタルタイムでバシバシと倒していく爽快感に酔いしれてしまった。ファイアークリスタルのディスクに埃がかぶるのに、そう時間はかからなかったのである・・・。いま振り返って見ると、以後全盛となるアクティブロールプレイングは、3Dタイプの「ファイアークリスタル」の偏屈さに対するプレーヤーの反動がその1つの原因といえるのかもしれない。



公開:ファイアークリスタルの敵キャラ

Grem
ブラックオニキスの「コボルド」と同じザコキャラ。しかし、序盤は集団なので油断は禁物。
Devdog
ファイアークリスタル序盤の雑魚中の雑魚。Terrorでおどかしたりして、遊ぶのがかオツ。
Simian
見た目強そうなゴリラというか類人猿だが、弱い。単色なのでちょっと不気味。
Goone
迷宮に捨てられた鎧が動き回っているもの。その割には顔のようなものがみえるが。アンデット系なので逃げない。
Undead
戦いから絶対に逃げないモンスター。ザコ。
Grunt
オーク族のモンスター。前回弱かったコボルトの大きくなったものみたい。けっこう稼ぎとしてはよい。
Assasin
暗殺者という意味だが、カマもって暗殺者はないだろう。しかも黒い袋かぶって・・・・強盗か、おまえは。
Talons
巨大な手の怪物。これをみて「トリオザパンチ」を思い出す人はツウだ。
Slug
巨大なナメクジ。ボルトスペルなどを生意気に使う。なぜナメクジが電気を発生させることができるのだろうか・・。
Cornus
目玉のお化け。Cloudのスペルをかけると一気に弱くなる。鬼太郎のオヤジではない。
Ticks
でかいダニ。クモのようにもみえるが。ネバネバ液をうってくる。気持ち悪い。
Trog
集団ででてくる鬼のようなヤツ。そんなに強くない。白いドクロとキバがおちゃめ。
Rodent
巨大なアルマジロ。すぐにげる。しかし、けっこうかわいく感じる。
Gorgon
頭がヘビになっている怪物。見たら石になる・・わけがない。天然パーマのあぶないおっさんという話もある。
Lizman
巨大なリザードマン。手にもっているのが刀なのかなんだかよくわからないが、全体的な形もやっぱりよくわからない。
Dtetyl
鳥男らしい。しかし、仮面ライダーにでてきそうだ。
Locus
コウロギの化け物。こんなの実際にいたら相当怖い。腹のでこぼこがリアルだ。
Triman
ほとんどオカルト映画ノリの3つ首人間。しかも胴なし。夜やっていると怖い。でも強くない。
Spect
幽霊の一種。しかし、影もないキャラクターでかわいそう。前作のレイスの親戚っぽい。
Scree
捕まえて売ると高く売れそうな金色の美しい鳥。でも、ボルトスペルなどを生意気に撃って来る。集団でててくるとうざったい。
Hertic
魔法使い。地下4、5階で出現する。オリンピックの聖火をもっているおばさん。給食のおばさんという説もある。
Manthis
大カマキリ。攻撃力はあるが、防御力はない。特に強くない。地下4、5階で出現する。
Harpy
人食い鳥らしい。アイススペルをバリバリ投げてくるが、そんなに強くない。鳥というより雪の結晶のようだ。
Reptle
恐竜のようなモンスター。パワーはありそうだが、そうでもない。逆にかわいくみえるぞ。
Reaper
キンコツマン(@キン肉マン)のようなやつだが、死神。大量にでてくるとやっかい。
Soul
魂が具現化したモンスター。地下5階で出現し、集団なのでけっこうやっかい。剣が折れているように見えるが。
Spirit
スピリット、つまり魂。かなり攻撃力がある。地下5階で出現し、集団なのでめっちゃやっかい。耐久力もすさまじい。地下5階ですごいむかつく敵No.1。しかし、手は常に「こちらにおいで」ポーズをしており、よくみるとかわいい分けがない。
Hupha
象人間。攻撃力や防御力もなかなか。しかし、こんなでかいマンモスが迷宮うろついているのかしらん。
Worm
スピナースペルを使うが、数が多くないので、地下5階ではそれほど強くない。ダンジョンマスターでは食料にできそうだ。
Sharman
ちょっと徳の高い魔法使い。体力もあるし、魔法もかなり使ってくる。
Masque
オラクルの慣れの果てらしい。しかし、単なる石像にしかみえない。攻撃力はかなりのもの。少ないのが救い。
Mystic
名前の通り、謎の生物。形もよく分からない。しかし、めっちゃ強い。ブラックオニキスのトロールやミーアを思い出す。
Kishna
悪に染まった仏教徒らしい。ということは人間か?ドリフの雷様を想像しているとどえらい目にあってしまう。
Vulcan
火の神。火の魔法を使うとパワーアップしたりする。このあたりになると手におえない。逃げるのみ。FC中で嫌な敵3本の指に入る。ちなみに選手宣誓をしているわけではない。
Mage
最強クラスの魔法使い。しかし、発煙筒をもったおばあさんにしかみえない。
Barlog
魔界の王という話だが、一匹でしかでてこないので、みんなでボコボコにするのがよし。(地下6階では2匹でてきたかも)
Serpet
ドラゴンの子供。魔法はほとなど効かない。しかし、炎がボッとしかでていないので、あんま強そうに見えない。実際数が少ないのでまだいいほうだ。
Eyes
明るいところでも目しかみえないモンスター。または、暗闇で出会うと通常の敵もこのような形になるが、前者のEyesはやたらと強い。
ミラー君
自分と全く同じ能力をもった敵。改造しているとこいつらが最強の敵。先制攻撃を食らうとリセット。



BPSの変遷

少し余談になるが、ブラックオニキスからファイアークリスタルへの変遷、BPSの生い立ちをみてみよう。

BPSの社長はヘンク・B・ロジャース氏。彼はオランダ生まれ。アメリカのニューヨークのハイスクールではじめてコンピュータに触った。パズルや算数は得意だったヘンク氏だが、このころから将来はコンピュータを使った生活があたりまえになると思っていたという。ヘンク氏はコンピュータをさらに深く追求するために、ハワイ大学のコンピュータサイエンスを専攻。そして入学後、運命の人と出会う。それがコンラッド・T・小沢氏である。彼は同じハワイ大学で英語を専攻する日系II世の文学青年だった。知り合ったきっかけは、卓球。ヘンク氏が3年生、小沢氏が1年生のときである。そのうち2人ともボード版のロールプレイングゲーム「D&D」に夢中になっていく。ハワイ大学では夢中になっていたのは彼らを含めて15人くらいだったらしいが、そのうちボード版じゃ飽き足らなくなって、大学の大型コンピュータ(PLATOというものだったらしい)を使いだした。ここのネットワークには、あるD&Dゲームが搭載されていた(Epyx社の"Temple of Apshai"というゲームのようなもので12才の天才少年が書いたソフトらしい)。そしてそれをプレーしていくうちに、小沢氏はコンピュータRPGのシナリオを書いてみたいと思っていたらしい。
卒業後、ヘンク氏は山梨県の実家の宝石商を継いでいたが、コンピュータロールプレイングへの熱意はさめず、「今がコンピュータで儲けるチャンス」と思い、アメリカからコンラッド・小沢氏を呼び、BPSを83年8月に設立した。



ロールプレイングゲームを簡単にした前作

ザ・ブラックオニキス成功の裏には、ヘンク氏やコンラッド小沢氏のなどの日本でのロールプレイングゲームへの的確なアプローチがあった。
まず、日本のコンピュータの当時の土壌は、アメリカに比べてまだまだ貧弱であった。NECのPC-8801などはよいマシンにもかかわらず、ソフトがないために外国では売れていない。ソフトがなければハードは売れない。つまり日本のパソコンにはアメリカのメーカーの参入も考えにくい。つまり日本に十分ヒットのチャンスがあると彼らは考えたのだった。
日本の市場を調べると、日本で流行っているソフトウェアはアメリカで1年前に流行っていたものであった。この当時1年前にアメリカで流行っていたものといえば「ロールプレイングゲーム」であった。そこで、ロールプレイングゲームを作る決断をしたのであった。
両氏ともにボードゲームのロールプレイングゲームのおもしろさは十二分に知り尽くしていた。そして、ロールプレイングゲームの欠点もわかっていた。それは、「ゲームが複雑で面倒なこと」であった。特に初めてプレーする人に、ゲームの面白さを教えることの難しさを痛切に感じていたという。
そこでブラックオニキスは、できるだけ簡単にプレーできるように考えられた。いきなり「ウィザードリィ」のようなゲームを作っても受け入れられないのでは?と考えたのである。そして取り入れられたのが、雰囲気を出すための3Dメイズ、キーボードに慣れていない日本人のためのワンキー入力、最小限のコマンド、パラメータのグラフ化である。
そして最も苦労したのが、ロールプレイグゲームの要である「プレイヤーがキャラクターに感情移入できるか?」という点であった。ブラックオニキスでは、キャラクターメイキング時に外観も設定できる(服を選んだり、髪型を選んだり)ようにした。そして常に自分のキャラクターを画面の中に表示するようにした。この結果、ユーザーが自分が画面の中にいて冒険しているような錯覚を起こさせることができたのである。



余談:シリーズについて

ザ・ブラックオニキスシリーズは、この「ザ・ファイアークリスタル」を含めて全4部作の予定であった。1つは「ムーンストーン(アウトドア編)」そしてもう1つが「アリーナ編」である。「アリーナ編」は、ヘンク氏や小沢氏が学生時代に夢中になっていた「ファイティングシステム(日本の剣道に似ているスポーツ)」の雰囲気が楽しめる世界へと突入するものだ。

月刊ログインでその情報が掲載されているので順を追って紹介しよう。

ログイン85年10月号 ブラックオニキスのシリーズ第3弾はハワイで作られていた

ブラックオニキス第3弾はBPSハワイで作られていた。BPSハワイはハワイ大学の出身者が集まったもので、メンバーにはヘンク氏のボードゲームの師匠であるノールト氏なども含まれる。BPSハワイ、1985年5月設立、従業員4名。社長のデイブ氏は大学時代にARRGHというボードゲームを作るサークルを作った。そこのダンジョンマスターがデイブ氏。彼が指揮するブラックオニキスは、このARRGHの世界をデイブが構築したものになる予定だったのだろう。BPSハワイはハワイで一番のコンピュータショップでもある。BPSがもっていたブラックオニキス第3弾のアイデア、シナリオはハワイのメンバーに預けられたとのことである。

ムーンストーンのストーリー・・・「昔あるところにゴッドストーンという魔法の宝石がありました。神様の子孫であるエインシャント一族はそれをもつことによって巨大な力を得て、世界と人間、エルフ、ドワーフなどの召使い、奴隷種族を作り上げました。それらの中でも代表的なのが、シルン(Syln:天使的)とディム(Dim:悪魔的)の2つの種族で、エインシャントは彼らをアシスタントとして魔法の研究をしていました。つまり、この2種族だけは魔法やエンシャントの命ともいえるゴッドストーンの秘密を知っていたのだ。エンシャントも空バカではなくて、生、光、治癒の力を、ディムには死、暗、破壊の力をバランスがとれるように実はケンカしたら2人とも死ぬように与えていました。しかし、長い年月が経つと初志を忘れるもの。エインシャントはせっかくの力を遊びに使い出し、堕落しはじめました。それを見てこのままでは道連れだな、と思ったシルンとディムは、ゴッドストーンを奪ってしまいました。で2つで割ってサン(sun)ストーンとムーン(moon)ストーンと名づけ、ひとつずつ分けたのでした。
でもやっぱり天使と悪魔は油と水。すぐに他の種族を巻き込んだ戦争になってしまいました。ここで登場するのが滅びたはずのエンシャントの生き残り、イルソスさん。彼は隠れていた城にディム&ムーンストーンが近づくのに気づき、先手必勝、一世一代のすごい魔法をかけました。くやしがったディムですが、解き方を知りません。実はイルソスさんも知らなかったのです。怒ったディムは彼を牢に閉じ込めました。それを知ったシルンは、その正義の下僕サンセクトである君たちに、イルソスさんを助け、ムーンストーンを手に入れるように命じました・・」。


ゲームの概要だが、ゲーム画面は上1/3が味方と敵の生命力のグラフ。下1/3がテキストエリア。そして中央1/3が横スクロールのマップエリア。戦闘画面ではもちろんチェンジする。パーティは6人編成となり、クレリック(聖職者)というクラスも追加される。その魔法は通常用と攻撃用が10数種類ずつで、2作目のウィザード用魔法と合わせて60種類近くになる。同時にエルフやドワーフも登場し、彼等を仲間でできるようになる。また、「TALK」で情報を集めることができるようになり、それにはルーマー(RUMOR:うわさ)という不正確な情報も混じるという。




ログイン86年1月号

昨年10月に途中のバージョンのものが日本に戻り、日本のBPSのスタッフにより新たなる開発、主にシェイプアップが始まった。といっても現段階はグラフイックとメインプログラムがリンクしておらず、グラフィック、背景、キャラはそれぞれ単体でしか表示できない状態。




PCマガジン86年3月号

ハワイ支社で開発していたが、マシンに不慣れで先に進まず、また開発情報が入ってこないため、日本でやることにした。BASIC+マシン語でかかれていたが、Cで書きなおすことにした。内部ルーチンの作成中。




ポプコム86年4月号

大幅の遅れの原因は、ハワイで作ったプログラムが膨大になってしまったこと、またRPGで知られているBPSとしては今までにないようなソフト作りを目指しているためにある程度形になっていたものを、よりすぐれたものに作りなおしている。しかも一からだそうだ。ザ・ムーンストーンのプロジェクトマネージャとして、木田康夫氏が就任。本業は学生でしかも東大生。彼はBPSがまだ会社として存在しないころから、ヘンク氏と知り合いである。たまたま日吉の自宅近くでヘンク氏と出会ったのがきっかけ。それからずっとBPSの仲間としてソフト作りに携わっているが、直接のプロジェクトマネージャは今回がはじめてだという。




ログイン86年9月号

1986年9月の段階では、マップも完成し、キャラクターも7割完成していたとあるが、それらが「日本人の好みのあわない」という理由により、「細部にいたるまでの洗い直し」作業に時間がかかっているとのこと。




コンプティーク87年1月号

ソフトハウスマラソン(コンプティークの編集員がソフトハウスを回るという企画)にて、「86年8月には発売するといっていた「ムーンストーン」はどうしたのか?」という質問に対して、ヘンク氏は「そんなゲーム知らない」としらを切った。




コンプティーク87年5月号

コンプティーク87年1月号にて、ヘンク氏が「ムーンストーン?そんなゲーム知らない」と発言したことが問題に。それが5月に発売の見とおしがたったという。この段階で、画面はまだ見せられる状態ではなく、モンスターもデザイナーが作っている最中。パッケージイラストのラフはできていた。ちなみにイラストは生頼範義氏。発売が延びている原因だが、構想が膨らみすぎたこと、ハワイのスタックをもってきた原型を修正しているうちに破綻してしまい、作りなおしているのだという。



アリーナ編について

アリーナ編は、第4作目にあたるもの。ログインに初めて登場したときは、はじめこちらの仮称が「MOON STONE」だった。ウツロの街にある「アリーナ」(ブラックオニキスでは入ることができなかった場所)でゲームは行われ、簡単なコマンドで自分自身を戦わせ、負けてもその原因によって学習していくというもの。1対1のゲームで、まずは自分のファイターに攻め技、防御技を教える。ある程度強くなったところで、それをディスクにセーブしてBPSに送る。そこでいよいよ対戦となり、5つ勝つとナイトの称号が与えられる。5人のナイトに勝つとキングに昇格。キングにはブラックオニキスゲーム中の土地1区画が与えられるという仕組みである。



ということで結論

ということで、続編の情報をいろいろと調べてみたが、こんなことをいくら書いてもしようもない。一部で中止宣言が出たという話があるが、それは少年少女たちの夢を踏みにじるようなもの。みんなでこう思っていよう。「まだBPSの内部でムーンストーンの開発は続いている!」

ログイン85年10月号、86年1月号、コンプティーク87年1月号、5月号、ポプコム86年4月号より一部引用
ヘンク氏の写真:コンプティーク87年1月号より引用
「ザ・ブラックオニキス」「ザ・ファイアークリスタル」「ムーンストーン」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はBPSに帰属します。