ななこSOS


テクノポリスソフトより1984年6月に発売


ストーリー

世界征服をたくらむDr.イシカワは動物を巨大化させる薬「デカクナール」を発明した。実験のため、動物園を訪れたDr.イシカワは、とりあえずそばにいたモグラさんに薬を飲ませて見た・・。巨大化したモグラはDr.イシカワを連れ、地底深く消えてしまった。あとに残った薬ビンを見つけたのは、あの、ななこ、四谷、飯田橋の3人組だった。(マニュアルから抜粋)



「ななこ」ファン以外お断りのゲーム

このゲームは、雑誌テクノポリスが主宰したコンテストで入選したものだったと記憶している。このときに入選したのは「風の谷のナウシカ」「MISS MACROSS」などのアニメ関連ゲームだった。「ななこSOS」は広告に「ハチャメチャアドベンチャー」と銘打っており、当時としてはかなり異質な部類に入るゲームだったと思う。

このゲームは、アドベンチャーゲームの形式で進行する。しかし普通のアドベンチャーゲームとは全く違う。このゲームを解くには、まずアドベンチャーゲームの常識を捨てることから始めなければならない。それまでのアドベンチャーゲームの常識とは、画面に表示されるものからプレーヤーがコマンドを推測し、「名詞+動詞」の形でコマンドを入力していく、そして主人公が「自分=プレイヤー」であるということであった。
普通のアドベンチャーゲームでは、プレイヤーがその物語の主人公となり、自分なりの言葉でゲームを進めていくのだが、「ななこSOS」では、主人公はあくまで「ななこ」本人である。プレイヤー(自分)の思惑は存在しない。だから、コマンドも「ななこ」が行うと思われる言葉を入力しなければならない。また、コマンドの形式も独特で、「名詞」+「動詞」ではない。「ななこ」がしゃべる吹き出しの中に当てはまるセリフ(ななこ語)を入力するというものだ。普通のアドベンチャーゲームに慣れていると、絶対にこのゲームのコマンドは思いつかない。たとえば、「コマッタワ ドウシヨウ」とか「チョウチョサン コンニチハ」「イヤーン」などというコマンドを入力しなければならない。
また、普通のアドベンチャーゲームは、モノを取るとか、モノを使うという要素があるのだが、このゲームはそのようなものがない。このゲームを攻略しようと思ったら、ただ、「ななこSOS」の単行本を全巻買ってきて読むしかない。

ただ、いくら「ななこSOS」ファンの人でも、このゲームの性格を知っておかないと最初の場面から全く進むことすらできない。また、いわゆる「ななこ語」入力のため、「ななこSOS」の物語や、ななこの性格、超能力などをきちんと把握していないと、これまた難しい。このゲームは、通常のアドベンチャーゲームの「思考錯誤」する楽しみなどは一切ない。マニア以外お断りの恐ろしいゲームである。


パソコンならではのゲーム

このゲームは先にも書いたように、「ななこSOS」を知らないと全く進めないマニアックなゲームである。しかし、それだからひどいゲームだとは思わない。むしろ、パソコンゲームならではの特徴あるものではないかと考える。ここまで一般ユーザーを完全に無視したゲームは、他の家庭用ゲームやアーケードではあまり見られない。正直にいって、このゲームの出来はよくない。ゲームの内容はほとんど無きに等しいし、各画面で正解コマンドはたったの1つ、しかもそれが超マニアックで、一般の人には分からない。このゲームは、コンテストから生まれたゲームで、「個人」が制作したゲームである。もし会社組織が制作したゲームならば、利益を優先するために売れるための努力をするはずである。たとえば、ユーザーのことを考えて親切に設計したり、ゲーム性を高めるという努力である。しかし、このゲームをプレーすると、そのような考えが全く見られないことに気づく。あくまで制作者のマガママなノリにつきあわなければならない。
しかし、当時パソコンでゲームをプレイしていた人間は、やはりどこかマニアックで、なぜか「アニメが好きな」人たちが多かった(今でもそうかもしれない)。だから、このゲームが発売され、こんなハチャメチャな内容だったとしても、雑誌で叩いたり、ユーザーが苦情を出すということはそれほどなかったと思う。こういうゲームだと納得していたのだ。今考えて見ると、初期のパソコンソフトならでは許されたということで非常に個性的なゲームだったのではないだろうか。
しかし、このゲーム、欲張ってゲーム中に「シューティングゲーム」や「パズルゲーム」まで入っている。しかもこれが妙に難しく、出来があまりよろしくない。徹底的に「ななこ語」だけにこだわってもよかったと思うのだが。


おまけ!!序盤攻略(ネタバレあり)

四谷:「試しにネコにでも飲ませて見るか」
ななこ:「イケナイワ、ソンナコト」


四谷:「構うものか、ホレホレ」
ネコ:「これじゃミケちゃんに嫌われちゃうよ」
ななこ:「ネコサン カワイソウ」
ネコ:「かわいそうだと思ったら何とかしてくれよ」
ななこ:「コマッタワ ドウシヨウ」


ネコ:「かわいそうだと思ったら何とかしてくれよ」
ななこ:「コマッタワ ドウシヨウ」
四谷:「幻のオオアリクイのヒゲさえあれば・・」
ななこ:「ヘンシン オオアリクイ」


ネコ:「おっ。そいつならウパウパ島にいるぞ」
ななこ:「トブ ウパウパトウ」


(ウパウパ島にななこが1人、チョウチョが一匹飛んでいるだけ)


ななこ:「チョウチョサン コンニチハ」
チョウチョ:「このへんはあまり詳しくないの」
ななこ:「ダレモ イナイノカシラ」
チョウチョ:「みんな隠れているんだ」
ななこ:「トウシスル ヒダリノキ」


イモムシ:「よく見つけたなぁ」
ななこ:「ナク」
イモムシ:「かわいい娘が泣いているとタマラナイ」
ななこ:「ヘンシン オオアリクイ」


イモムシ:「俺の友達の「マタヤン」のことか?」
ななこ:「マタヤン」
イモムシ:「マタヤンに会いたければハレホレ山に行きな」
ななこ:「トブ ハレホレヤマ」
(ハレホレ山、ナハハ怪人が立っている)


ナハハ怪人:「俺はナハハ怪人だぞー」
ななこ:「コンニチハ」
ナハハ怪人:「この山はブスは入れないよーだ」
ななこ:「ナク」
ナハハ怪人:「通してやるとするか」
ななこ:「アリガトウ」


ナハハ怪人:「こいつでゲームをして勝ったら通そう」


ここでちょっと出来の悪いシューティングゲームが開始される。このあとは自力でがんばってください。


作った人

このゲームの作者は、コンピュータミュージシャンだった藤井保則氏。彼は中学のころからコンピュータ音楽に熱中し、18才のころにはロックとか歌謡曲(有名なところではイモ欽トリオ)のバックを演奏したりしていたという。その後、アップルIIやMZ、IBM-PCなどをいろいろといじり、独学でマシン語まで覚えてしまった藤井氏は、1983年に「ハイアンドロー」というゲームを作り、タカラから発売。また、その後も同社から「時をかける少女」「原田知世のシネマパズル」といったゲームを制作していった。「ななこSOS」の制作期間はなんと約2週間だという。彼はゲームを作るときはワーッと作ってしまうタイプ。「未知のものを作るときは、取っ掛かりのときはおもしろい。しかし、時間が経つとだんだん薄れていくというか、自分自身が疲れていくという感じがする。最初のころの面白さがわからなくなってきてしまう。だから、肉体的にも疲れても短い期間にドバーってやってしまった方がいい」と語っている。ななこSOSで苦労した点は、テレビのアニメーションのように背景とキャラクターのセルの組み合わせのように、どこでも好きな位置に好きなものを重ねられるようにしたという点らしい。
彼が当時一番興味をもっていたのは南極へ旅行することだったらしいが、果たして実現したのだろうか・・。

参考文献:テクノポリス84年8月P.95
「ななこSOS」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はテクノポリスソフトに帰属します。(C)吾妻ひでお・国際映画社