大脱走
キャリーラボより1985年3月に発売
大脱走とは
大脱走は、非常に細かい部分までよくできた固定画面アクションゲームである。固定画面のアクションゲームは、スクロールするタイプのゲームに比べて、場面の展開力が乏しい。その分、ゲームアイデアに依存する部分が大きく、そのアイデアをいかに分かりやすいルールに昇華させるかが非常に重要なポイントだろう。
たとえば、大ヒットした「ドアドア」は「ドアにモンスターを閉じ込める」という画期的なアイデアをゲームとしてうまく具現化した。また、「ちゃっくんぽっぷ」はパズル的な要素をもつアクションだが、ルールがちょっと複雑で「ちゃっくん」の動きにもクセがあったため、短期決戦のアーケードではゲーム性がユーザーに伝わらなかった。しかし、パソコンゲームに移植され、長期決戦が可能になると、そのルールがようやく理解され、おもしろさが分かったという珍しいゲームでもある。
ルール
大脱走は、ルールがちょっと複雑である。ゲームの舞台は古城を改造したナチの捕虜収容所。プレイヤーは味方の捕虜を救出する特命を帯び、単身城へ乗り込むというストーリーである。プレイヤーは、古城に入り、まず牢屋を探す。牢屋は前半面では見えているが、後半面では画面上には表示されていないので、自分で探す必要がある。牢屋を開けるには鍵が必要で、敵を銃で殺すと鍵を落とすのでこれを使う。捕虜を脱走させるためには、ただ牢屋を開けただけではダメだ。牢屋から出した後、その捕虜を先導し、収容所の出口まで連れていかなければならない。ここがこのゲームのポイントで、捕虜は丸腰のため、敵兵には何も抵抗できない。それどころかもし捕まれば牢屋で連れ戻されてしまう。そこで、プレイヤーが捕虜も守ってやらなければならない。ただし、自分の銃は味方にも当たるので、敵に当てたつもりが味方を殺してしまう、なんてこともあるので注意が必要だ。
捕虜を誘導するのにもやり方があって、「集まれ」「散れ」の2つのコマンドがある。「集まれ」を命令すると、捕虜は自分の周りに集まり、金魚のフンのように後をついてくる(実際いうこときかない場合もある)。「散れ」を命令すると、自分の意志と関係なく、捕虜自身が勝手な行動をする。これは敵に囲まれた時に使い、捕虜を一時的に遠くに逃がすためのコマンドである(ただし、城がせまいのでだいたい捕まってしまう)。
一度捕らえられた捕虜は、別の牢屋に入れられ、再び救出しなければならない。また弾薬にも制限があるので、むやみやたらに撃ちまくると、弾不足になり、悲惨な目にあう。ルールもちょっと複雑だが、内容もかなり難しいゲームだ。
ゲーム性
このゲームはルールが複雑なので、アーケード用のゲームだったらきっとヒットはしなかっただろう。じっくりと味わえる長期決戦用、つまりパソコンならではの作品だと言える。
このゲームの要は、捕虜を救出した後、どうやって捕虜を出口まで先導するかである。捕虜は怪我をしているので、プレーヤーよりも足が遅い。そのため、敵に追撃をすぐに受けてしまう。おまけに階段で引っかかったりしてなかなか思うように進んでくれない。敵が近づいたら、すぐに敵を処理しにいかなければならない。また、捕虜は5人いるので、1人ずつ先導してやってもよいのだが、人間やはり欲がでるというもの。一辺に5人まとめて救出してしまった方が、簡単と思ってしまう。そこで一気に5つの牢屋を開け、金魚のフンのように5人をブラブラと自分の後ろに従わせるのである。しかし、捕虜といえども、きちんと命令を聞く従順なやつもいれば、どこかすぐに寄り道する困ったヤツもいる。ひたすら「集まれ」コールを繰り返えし、後ろに整列させようとするのだが、5人もいると収集がつかなくなってくる。そのスキに敵兵がやってきて、1人連れて行かれてしまう。その1人を追っていると、別の捕虜が別の敵兵に捕まってしまう。無理に銃で撃てば味方に当たってしまう。このじれったさはゲームをプレーすればよく分かるおもしろさである。
センスあるデザイン
このゲームのキャラクターは敵も味方も鼻デカの2頭身キャラクターで、迷彩服もよく似合っていて愛着を感じる。また、味方キャラクターが目を大きくして表情を作っているのに対し、敵はサングラスをかけて冷酷な感じをうまく出していると思う。そして死んだときの天使姿もなかなか滑稽だ。
また、表現も細かい。たとえば、階段の登り下りは普通の道より時間がかかってタイムロスになるし、しかも1段1段きちんと登り下りする。銃で撃たれたときに、大きく斜めに画面内を飛び跳ねるというのも、オーバーアクションでおもしろい。
そして最もセンスの現れた部分はやはり古城のデザインだろう。ディスクで全50面(テープ版は16面)の古城は擬似3Dをふんだんに使い、錯覚を起こさせる。前半面は通路に高低差があったり、トンネルがあったりするぐらいだが、後半面では、「エッシャーの不思議絵」のような、階段を登っていたら元に戻るというような、現実ではありえない高低差のある迷路へと発展していく。このような迷路のセンスをもったゲームはアップルの「Illusion」などいくつかあるのだが、このゲームでは迷路の要素以外にも多くの魅力的な要素がある。肝心のゲーム性が細かくよく出来ているからこそ、この複雑な迷路も生きてくると思う。
シナリオ
大脱走のシナリオ、アイデアを制作したのは、東京・新橋にあった「株式会社アド・テクノス」というシナリオ制作会社である。アド・テクノスは、広告代理店のような仕事や、ゲームのシナリオ・ルールを考案していた。大脱走は同社のコンピュータ作品第一号で、特に立体的な牢獄のイメージはアド・テクノスの発案のようだ。
音に関して
音に関しては非常によく出来ている。キャリーラボお得意のBEEP音の3重和音はオープニングデモで健在である。デモも非常に凝っていて、ゲームのルールを懇切丁寧に説明している。アーケードゲームではプレー方法を詳細にデモにする方法が見られるが、パソコンでここまでデモで説明しているゲームは見当たらない。
ゲーム中の音もなかなかコミカルである。特に「集まれ」「散れ」という音階をつけたBEEP音は、あたかもしゃべっているような錯覚を起こさせるような、キャリーラボのこだわりが感じられるのである。このあと開発された「ビクトリアスナイン」では音声合成を使ってしまったが・・。
最後に
このゲームは、自分の移動で多少ひっかかる点を除けば、細かいところまでよくできた秀作である。パソコンならではのちょっと難しいパズル的要素が入ったアクションゲームで、さらに指さばきも重要で、戦略性もある。こんなゲームは時間のあるときにコーヒーでも飲みながらゆっくりと楽しみたいものだ。
大脱走に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はキャリーラボに帰属します。