夢幻の心臓II by 須田氏
クリスタルソフトより1985年11月に発売
はじめに
1985年秋。当時からのPCユーザ/RPGファンにとっては忘れられない時であろう。
一種の時代を構成した時期といっても過言ではない。
日本ファルコムから『XANADU』、T&E SOFTからは『ハイドライドII』、MagicalZooからは『THE SCREAMER』、ASCIIからは『Wizardry』(国産機種版)と、今でも名作と評価できるRPGが各社から次々とリリースされていたからだ。
そして、XTAL SOFTからもこれらキラ星のごとく輝くタイトルと双肩をなす
名RPGがリリースされた。それが、この『夢幻の心臓II』だ。
ストーリー
剣と魔法が支配し、輪廻の輪の外に存在する「夢幻界」。
秘宝「夢幻の心臓」を入手できれば、再び地上へと蘇る事ができるという...
前作『夢幻の心臓』で秘宝「夢幻の心臓」を手に入れ、「夢幻界」から蘇った「夢幻の心臓の戦士」。しかし彼の蘇った地は、元の人間界ではなく、人間の住む次元「エルダーアイン」であった。
それは、夢幻の心臓の戦士の宿命として、エルダーアインの危機を救うため、また、自らの人間界への復活のため、このエルダーアインの地を侵略せんとする「暗黒の皇子」を打倒するためである。(ストーリーをマニュアルから抜粋)
ゲームの特徴
『夢幻の心臓II』は比較的オーソドックスなスタイルのRPGであった。しかし、そのオーソドックスなスタイルの陰に隠れた作者の細かな配慮、そして高度な技術をみのがしてはならない。
当時『ULTIMA III』との類似性が問いただされた面があった。 確かに『夢幻の心臓II』は『ULTIMA III』からいくつかのシステムを 継承しているという主張には異論が無い。 しかし、すべての正統派RPGは多かれ少なかれ「ULTIMA」「Wizardry」 いずれかの影響を受けている事実を考えれば、着目すべき点は いかにそれらの継承点を巧みにアレンジし、自分のものに昇華したか であろう。本『夢幻の心臓II』のレビューも、この点を踏まえて 『ULTIMA III』との比較を行っているので留意されたい。
・2Dスタイル
『夢幻の心臓II』で最も特徴的なのは、そのマップ表示機構であろう。スタイルとしては、基本的な完全見下ろし型の2D平面マップ(いわゆるUltimaタイプ)で、前作『夢幻の心臓』とは異なり、迷宮内や、市街なども平面マップで表示されるようになっている。ただし、山や壁などで視界が遮られる部分に関しては、画面上でも表示されないようになっている。つまり、森の中に入ると視界はゼロ、つまり自分の周囲半キャラ分しか画面には表示されない仕組みである。このシステムには当時から肯定意見/反対意見が論出していたが、私個人としては、大いに評価したい。
壁の向こうが見えないという事は、迷宮内の探索に特別なスリルと臨場感を生むからである。一般に、2D型平面マップではシステム上、壁の向こう側が見渡せてしまうため自身の所在位置というものが容易に把握できてしまう嫌いがある。また、宝箱や階段などのフィーチャーをその部屋に入らずとも確認できてしまう。これは現実の世界と比較しても不合理な点であるし、また、3Dマップのシステムと比較しても劣っている点であるということができる。
しかし、視界という概念を導入したこの『夢幻の心臓II』のスタイルは、前述の問題をクリアしていると言える。自分の周り以外は見えず、部屋の中に足を踏み入れないと、その部屋の中の状況がつかめない。まさに、プレイヤーに臨場感を与えるという意味では理想的な形である。また、このシステムは「敵キャラクタがマップ上に表示されている」事とあいまって更なる臨場感をうむ事となる(後述)。
なお、このシステム自体は『夢幻の心臓II』がオリジナルではない。1983年にORIGIN SYSTEMSから発表されたAPPLE IIe用の『EXODUS: ULTIMA III』がオリジナルである。ただし、『ULTIMA III』では1キャラ単位であった陰の効果を『夢幻の心臓II』半キャラ単位に変更し、より自然な演出を行っていることに注目したい(キャラクタの移動単位を半キャラ分に変更したというのが正確だが)。
・敵キャラクタの表示
前述の通り、この『夢幻の心臓II』では画面上に敵のキャラクタが表示されている。つまりフィールド上では、『HYDLIDE』などのARPGと同様に敵キャラクタが動きまわっていることになる(ただしリアルタイム性はない)。このシステムも、プレイヤーに大きな臨場感を与えることになった。なぜなら、物陰から突然現れる敵、部屋の中で待機する敵、そしてフィールド上でプレイヤーである勇者に忍び寄る敵。これらの敵が実際に画面上で目視できるという事が、臨場感の向上に貢献していないといえるだろうか? プレイヤーはこれらの敵と正面きって戦っても良いし、当然逃げても構わない。しかし、逃げるためには実際にプレイヤーのキー操作が試されることになる。一般のスタイルのRPGでは、戦闘シーンで退却すれば、その敵はどこかに去ってしまうが、『夢幻の心臓II』では、たとえ戦闘シーンから逃げる事ができても、画面上にその敵は残ったままである。つまり、キー操作を誤れば、すぐさま同じ敵と再度戦闘を行わなくてはならない。狭い迷宮の小部屋で強力な敵と遭遇したとき、このシステムは否が応でもプレイヤーの興奮をかきたててくれる事は想像に難くない。まさに主人公との一体感、感情移入が最高潮に達する瞬間かもしれない。
赤き塔におけるデュラハン、そして魔人の世界におけるドラゴン、彼らに追い回された
苦くとも楽しい経験は『夢幻の心臓II』をプレイした誰しもが持っているに違いない。
なお、このシステムも『ULTIMA III』から継承しているものであるが、『ULTIMA III』
では戦闘シーンから退却する事ができなかったことを注記しておく。
・パーティ
『夢幻の心臓II』は最大5人までのパーティを組んで冒険する事ができる。ただし、自分の作成できるキャラクタは主人公である勇者のみ(これも正確にいえば、設定できる項目は名前のみ。職業やパラメータは一意固定である)。パーティの他のメンバ(仲間)は、街や城などにいる冒険者の中から募るスタイルとなっている。また、パーティはいつでもどこででも、自由に組み替える事ができる。特徴的なのは、一度別れたメンバを再度パーティの仲間とすることができる点だ(もちろん再度仲間にするためには、再び彼または彼女を探し出す必要があるが)。
『夢幻の心臓II』には、さまざまな職業が存在し、その職業のキャラクタのみが持っている技能をいたるところで発揮する機会がある。つまり、主人公である勇者は、それぞれの難関ごとに、最も適切な、または必要な技能を持つキャラクタを仲間にする必要がある。戦闘能力が必要な場面、魔法能力が必要な場面、または操船能力が必要な場面... それぞれのシチュエーションにしたがって、最もふさわしいパーティを編成する楽しさ。そして仲間との別れと出会い。この作品の自由度の高さ、懐の広さを象徴するフィーチャーではないだろうか?
なお『夢幻の心臓II』の作者・富一成氏は、この「別れと出会い」のコンセプトを推し進め、よりドラマ性を高めたRPG『LUNAR - THE SILVER STAR』をコンシューマ機で発表している事を付記しておく。
さて『ULTIMA III』におけるパーティ構成は、非常に画一的である。初期のキャラクタメイキングで名前/種族/性別/職業を選択し、4人のパーティを構成する。ゲーム中でのパーティの入れ替えの機会は無く、また職業の変更も行えない。『夢幻の心臓II』では、上級職業への転身が行える。
・操作性
『夢幻の心臓II』の特筆すべきもうひとつの点はユーザインタフェース、およびその操作性だ。前作『夢幻の心臓』では、処理速度、具体的にはグラフィックの描写速度に問題があり、決して快適にプレイできる作品ではなかった。しかし『夢幻の心臓II』では、プログラムがすべてマシン語で記述されているため、その速度は圧倒的だ。また、セーブの際などのディスクアクセスも速く、非常に快適にプレイを進める事ができる。
さらに操作性も素晴らしく、操作に必要なキーは上下左右の移動キーと決定キーのみ。移動キーとしてはテンキーの8246、決定キーはスペースバー、またはテンキーの5を使用する。つまりは右手一本でも楽にプレイできる非常に簡便な操作性だ。この操作性を逆手に取った、非常に簡単な経験値稼ぎを行う事ができるのはご愛敬か(ただしX1版では「弱いものいじめ防止機能」が搭載されているため、この経験値稼ぎは不可能)。
操作性という意味では『ULTIMA III』は、対極をなす。コマンドキーのみで、A-N,P-Zの26キー、またOキーはOther Commandとして phase を受け付けるため非常に複雑なものになっている。この点などにも、Ultimaシリーズの敷居の高さがあらわれている。
※注記
私論
『夢幻の心臓II』の主な特徴を挙げてみたが、もちろんこれらの「機能的」特徴だけでは、名作とは呼べない。『夢幻の心臓II』の素晴らしさは、そのシナリオと適度な難易度が実現している。人間の世界、エルフの世界、魔人の世界の3つの世界。そしてそれぞれの世界に散らばる謎。さまざまな情報。さまざまな人物。
これらの要素が複雑に絡み合い『夢幻の心臓II』の世界 - エルダーアインを構築している。この魅力的な世界を提示した上で、先に挙げたさまざまな工夫(特徴)を凝らしプレイヤーに高い臨場感を提供することに成功している(簡便な操作性はプレイヤーに「PCを操作している」という現実を意識させない作者の配慮であると言える)点が、この作品の最大の「特長」である。つまりは、シナリオの素晴らしさ、そして作者の細かな配慮が感じられるさまざまな機能、この2点があいまって、プレイヤーに高度な臨場感、または主人公の勇者への一体感(必ずしも感情移入度ではないが)を与えている。これは、この作品の最も誇れる(そして他作品に比べて最も秀でている)特長ではないであろうか? なぜなら「Role Playing」という言葉の本質を顧みるならば、主人公への一体感や臨場感の高さこそがもっとも「Role Playing」というジャンルに必要とされる要素であるからだ。もちろん、この『夢幻の心臓II』にも不満点や改良要求点は散在する。しかし、それを補ってあまりある「Role Playing」らしさが、この作品にはある。
発売から既に10数年が過ぎようとしている今でも、数多くの支持者を誇る『夢幻の心臓II』。その理由は、この作品が「最も完成された正統派RPG」であるからと言えるであろう。
<文章 須田氏>
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