Will(デストラップ2)
スクウェアより1985年9月に発売
ストーリー
Willは、場面の半分近くでアニメーション処理(動画)を入れたという画期的なアドベンチャーゲームである。Will以前にも、画面の一部が動いたり、画像そのものを移動させるような効果を与えるものは存在したが、全体の半分近くの場面にきちんとしたアニメーション効果をいれたものは、おそらく日本で初めてであろう。
ウケを始めから狙った路線変更
※目のパチクリについて
スクウェアの第1弾「ザ・デストラップ」は、スパイである主人公ベンソンが、ジャングル奥地に連れ去られたジタン博士を救出するという硬派なアドベンチャーであった。このゲームの特徴は、ストーリーやセリフがいままでのアドベンチャーにはない大人の雰囲気、そして難関をクリアするのに何通りかの方法があったりというもので、一部で話題になった。しかし、ディスク3枚組で移動範囲がやたらと広く、すぐに死ぬという当時のアドベンチャーの流儀から脱することができなかった。
しかしその反省を踏まえ、Willでは違った表現方法でアドベンチャーゲームを模索しているのがよくわかる。まず、前作のハードボイルド路線を一新した。主人公は同じベンソンであるが、「美少女とロボット」という当時のパソコン少年の泣き所をついたのだ。これは、前作があまりにハードボイルドすぎて、ユーザーのほとんどであるパソコン少年に拒絶されてしまったからだろう(ただし業界での内輪ウケはよかったらしい)。そして、その最たるものがいきなりオープニングに表現されている。「アイシャ」というかわいい女の子(アンドロイド)が目をパチクリさせるというシーンだ。このシーンにみな魅惑されたのか、Willはアドベンチャーゲームとして久々の大ヒットとなった。
このゲームのすべては、オープニングのアイシャの目のパチクリアニメーションにあるといっても過言ではない。この目のパチクリがとてもよくできている。目の開き方の速度、開く具合が本物の人間のようだ。このアイデアが生まれたのは、作者の坂口氏が静岡の彼女の部屋で、風邪で寝こんでいるとき思いついたものだとか(本当かウソかはわからないが)。彼女の目を見つめているうちに思いついたのだろうか・・。
場面数よりも表現力で
次にWillは、これまでのアドベンチャーゲームの評価基準だった場面数の多さにこだわらず、少ない場面数の中で多彩な表現をしているのが特徴だ。画面数は約30で少なく感じるが、狭い範囲を行ったり来たりするので世界全体を把握しやすい(画面の左には親切に島全体のマップもついている)。それでいて謎解きもけっこう凝っている。また、場面の約半数には、星の点滅のような色の切り替えから、ヒゲがピクピクする迫力のあるアニメーションまでさまざまな「動き」が取り入れられている。さらに機械的な効果音が随所に入れられており、音や動きがこんなに雰囲気を盛り上げるものかと当時、みなびっくりしたものだった。
たったディスク1枚
このゲーム、通常の画像の他に遊びとして「隠れキャラ」というのがあった。たとえば最初の場面で「バカ」と入力すると上空にUFOが登場するのだ。これは恐らく業界初だと思われる。こんな遊び心も含めて、すべてをディスク1枚で収めたいう技術はなかなかのものだ。画像自体はそれほど大きくないが、これが約0.5秒で表示されることから、かなりの速度で画像を展開でき、それなりに圧縮率のよいプログラムが使われていたのだろう。また、アニメーション処理に関しても、メモリ内に置いたパターンを高速にVRAMに転送する技術の開発があったからこそできたのだろう。この技術をさらに発展させたものが「ブラスティ」、「アルファ」で、アルファに関しては、Willよりもスケールアップしたにも関わらず、ディスク1枚というこだわりをみせているのだ(ただし、単なるディスケット(*)のコストを下げるためという理由かもしれないが)。
(*)当時はフロッピーディスクのことをこう呼んだ。
アニメーションと効果音、そして
Willは、低迷するアドベンチャーゲームに、一筋の光明を見出すことができたゲームだったと思う。それは、アニメーションと効果音で「電子映画」に近づけるのでのではないかという提起だったのではないか。しかし、ひとつ気になるのが、「美少女」を使ったということだ。次の「アルファ」では、ベンソンという親父から、クリスという美少女に主人公を鞍替えしてしまった。クリスはいかにも当時のアニメヒロインといった感じで、服は露出度満点だし、時には鎖でつながれて素っ裸になったりする。アルファが大ヒットにより、売れれば何でもよいというメーカーが、「パソコン少年が求めるもの=美少女」と思い、この類の内容のない美少女ゲームを乱発するようになってしまったという事実が少なからずあると思うと、筆者は非常に残念なのである。
「Will」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はスクウェアに帰属します。