ザクサスby 須田氏
エニックスより1985年3月に発売
終焉を飾る大作
どんなに素晴らしいプラットフォームであっても、どんなにシェアを持ったプラットフォームであっても、ハードウェアの進歩がある限り、必ずその終焉がやってくる。今からさかのぼること十数年。80年代半ば。市場では83年末のPC-8801mkIIの登場とともに本格的なフロッピー時代が到来しており、既にPC88/FM/X1などへのプラットフォームの移行が進んでいた。さらには、85年初頭にはFM音源を搭載したPC-8801mkIISRが発売され、PCゲームの市場は大きなうねりを見せつつあった。このような環境の元では、かつては一世を風靡した名機PC-8001もすでにその役割を終えていたと言っても過言ではなかった。しかし、85年春。突如としてENIXより一本のPC8001用TAPE版ソフト『ザクサス』が発売された。この時代外れな作品こそ、PC-8001の終焉を飾るにふさわしい大作であったのだ。
ゲームの説明
『ザクサス』を説明する際には、米Broderbund社の名作『Choplifter!』(PC-8801移植版はシステムソフト '84)を例に挙げた方がわかりやすいだろう。それほどまでに『Choplifter!』と共通点の多い任意型横スクロールタイプのアクションゲームだ。『Choplifter!』は、敵地に取り残された捕虜を、ヘリコプターを操縦して救出することが目的だったのに対し、この『ザクサス』は自基地から脱走し、相手国の基地に逃走する捕虜を、UFOを操縦して奪還し、自基地に連れ戻すのが目的だ。
脱走兵の捕獲および、敵機砲台の攻撃には、UFO下部から照射される円錐形の「ビーム」を用いる。この「ビーム」はエネルギー制になっており、ビームを照射し続けると次第にエネルギーが減少していき、エネルギーが0になるとそれ以上のビームの照射できなくなる。ビームの照射を行わないでいると、エネルギーは徐々に回復する。また、ゲーム開始時のビームの攻撃力は微々たるものであり、敵固定砲台の破壊さえも容易ではない。攻撃力の増加には、各面にひとつづつ隠されているアイテムのうち、攻撃力増加のアイテムを回収する事により行う。
PC-8001版チョップリフター?
この作品は名作『Choplifter!』の影響を色濃く残している。『Choplifter!』の影響をうけた作品としては、『EGGY』(ボーステック)という名作が有名だが、この『ザクサス』は『EGGY』以上に『Choplifter!』の影響をうけており、まさに「PC-8001版チョップリフター」ともいえる作品になっている。前項の「説明」にも記述したとおり、ゲームのスタイルは、『Choplifter!』の設定を逆の立場から描写したものに過ぎないといっても過言ではない。また、走る、泳ぐ、UFOを攻撃するといった脱走兵のアクションの詳細な描写も『Choplifter!』における演出を模倣したともいえるだろう。しかし『Choplifter!』を模倣しただけでは、この『ザクサス』が"名作"と呼ばれる事はない。『ザクサス』が名作たるゆえんは、『Choplifter!』にさまざまな「改良」を加えた、ゲームデザインにおけるアレンジセンスが絶妙だったからではないだろうか。
隠しアイテム
『ザクサス』の(『Choplifter!』からの)アレンジとしては、先ほどにも示した「捕虜の収容方法」と「敵機への攻撃方法」以外には、「隠しアイテム」の存在があげられる。この隠しアイテムは、すべての面でひとつずつ"地表"に隠されている。アイテムの発見にもビームを用いる。その仕組みは、ビームを地面に照射しているときにその地面下にアイテムが隠されているのならば、ビームゲージが反応するようになっている。したがって、アイテムを発見するためには、最悪マップの端から端までこのビームを照射しつづけなければならない。もちろんビームのエネルギーは有限なので、それは容易な作業ではない。
次に発見したアイテムを回収するためには、アイテムが隠されている場所で自機を着地させれば良い(実際には、地表すれすれに近づいた時点でアイテムを回収できる)。
回収したアイテムは自基地に持ちかえることでその効果を発揮する。アイテムを回収後、自基地に持ち帰るまでに「ビーム」を発射してしまうと、アイテムを落としてしまい回収不可能となるので注意したい。アイテムの効果としては純粋に点数のみのものから、ビームの捕虜捕獲能力の増加(より高い位置からでも捕虜を捕獲できるようになる)、攻撃力増加など多彩。攻撃力増加のアイテムの中には、敵基地を破壊することのできるアイテムがある。敵基地を破壊すると、スペシャルボーナスが得られ、高次面へとスキップとなる。このアイテムはかなり爽快なので是非とも回収したいところだ。なお、どの面に何のアイテムが隠されているかはランダムではなく、固定されている。つまり、敵基地を破壊することのできるアイテムが出現する面は決まっているので、そのような面ではアイテムの発見・回収に躍起になること請け合いだ。ところで、アイテムは地表に隠されていて、その回収には自機を着陸させなければならないことは先ほどにも記述した。では、その地表に立ち木などの障害物がある場合はどうすれば良いのだろうか? 答えは、その立ち木を破壊すれば良いのであるが、その方法といえば、敵空中機または自機(!)を墜落させて立ち木などをなぎ倒すこと。ある意味、アイテムを回収するために自機を犠牲にするなどの戦略面を考慮するケースも出てくるだろう。
敵キャラクター
『ザクサス』には、主要なファクターを占める脱走兵以外にも、移動砲台や炎を吐く怪獣、バルーン爆弾などさまざまなキャラクターが出現し、またそれぞれがさまざまなアクションを見せてくれる。特に脱走兵のアクション - 走る、草むらに隠れる、弾をなげる、川に飛び込む、泳ぐ、そしてプレイヤーキャラが破壊されたときの喜び... PC-8001のあの解像度で書き込まれたひとつひとつのアクションの細かさには驚嘆させられる。
ポイント
敵捕虜を捕獲するためには、ある程度地面に近づかなければならない。敵キャラを破壊するためには、さらに地面(敵キャラ)に近づき、より長い時間ビームを放射しつづけなければならない。隠しアイテムを回収するためには、またさらに地面に近づかなければならない。しかし地面に近づけば近づくほど、敵からの攻撃の放火を浴びやすくなる。また、自機の唯一の武器であるビームは、円錐状であるため、地面に近づけばその分、照射面積は小さくなり、効率は悪い。さらに高高度からビームを照射すると、結果的にエネルギーの消費量も大きくなる。ビームは下方向にしか照射できないので、空中の敵キャラを破壊するためには、敵キャラが高度を落としたときを見計らって、その上に回り込まなければならない... 『ザクサス』でのゲームのポイントは、このビームの特性を把握し、その時その時の状況に合わせて自機を操作することだ。
ロード中...
さて、ゲーム内容からはちょっと離れるのだが、この作品はロード中にもユーザを引き付けるフィーチャーがあった。そもそもTAPE版のソフトはゲーム開始までに3~5分もののロード時間というものが存在する。大抵のゲームでは、TAPEからプログラムをロードしている間は、画面にはほとんど変化がない。「ただいまロード中」なるメッセージが表示されいるだけに過ぎないものがほとんどだ。しかし、この『ザクサス』では、キー操作の説明などが繰り返し表示され、あたかもアーケードゲームのDEMOさながらの演出を行っている。この点にも、この作品の完成度の高さがうかがえる。なお、先にも記したが、TAPEからのロード中にDEMO画面が表示される作品はそれほど多くない。『ザクサス』と同じENIX社からリリースされた『ドアドアmkII』(PC-6001mkII版)や、SYSTEM SOFT社からリリースされた『Lode Runner』などがその数少ない中の代表作であろう。
私論
『ザクサス』は『Choplifter!』の捕虜収容方法、および攻撃方法を変更して、ひとつのビームにまとめたことで、『Choplifter!』にはない独特の魅力にあふれる傑作となった。さらにPC-8001という、ハードウェア的な見劣りが否めないこのプラットフォームでここまでの作品に仕上げた作者の宮田氏の手腕は大いに評価されるところだ。宮田氏は、やはりENIXからリリースされた『FANFUN』という傑作もあり、PC-8001というプラットフォームを語る上で、いや国産PCゲーム史を語る上でも欠かせないプログラマのひとりと言っていいだろう。
この『ザクサス』、惜しむらくべきところは、やはりリリース時期。まさにPC-8001の「終焉」期の作品であったために、市場でのインパクトが薄く、さしてものヒットに結びつかなかったのは非常に残念だ。この作品に限ったことではなく、またPC-8001というプラットフォームに限ったことではないが、プラットフォームの終焉期にリリースされる作品には、往々として時代の波に埋もれてしまいがちである。しかし終焉期には、そのプラットフォームを極限まで使いこんだ快作がリリースされることも言うまでもない。この『ザクサス』もあと1年、せめて半年でも前にリリースされていたのならば、その評価も変わっていたかもしれない。世の中のトレンドは既に88/FM/X1時代であり、さらにフロッピーへの移行中だった時代に、前時代プラットフォームであるPC-8001用TAPE版の作品では、たとえどんな素晴らしい作品でも埋もれてしまうだろう。しかし、そのような市場の状況でも、この『ザクサス』をリリースした宮田氏およびENIX社の勇気は賞賛されるだろう。当時のPCゲーム市場のリーダー的存在で常に業界を引っ張りつづけた同社なりのけじめでもあり、PC-8001に贈る最大の鎮魂歌であったのだろうか? いずれにせよ、この作品は卓越したゲームセンスを誇る良作としてでなく、PC-8001の歴史上で最後の名作であり、PC-8001を極限まで使い込んだ技術的にも優れた快作であることには間違いない。この作品をプレイするときには、このような時代背景を考えながら、宮田氏とENIX社、そして名機PC-8001に賞賛を送っていただけたらと思う。またそれだけの価値がある作品であるとも言えるのではないだろうか?
<文章 須田氏>
ありがとうございました。
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