ワールドゴルフ


エニックスより1985年7月に発売


根強い人気をもったゴルフゲーム

みなさんはゴルフをさられますか?ゴルフというスポーツはやれば分かるのですが(やらなくても分かるかもしれませんが)、お金がかかります。クラブは軽く10万はしますし、ボールやら靴からバッグやら揃えるとさらに金がかかります。また、プレーフィーも馬鹿になりません。一回3万くらいコースにかかります。おまけにコースは都内にないので、ゴルフ場にいく車代もかかります。おまけに下手だと、プレーしていて情けないですし、友人にも迷惑がかかりますから、練習はかかせません。練習すると1回大抵3000円くらいかかります。大変です。でも、ゴルフはこんなにお金かけてもプレーするほど楽しいものでもあるのです。
さて、この「ワールドゴルフ」。実によく出来たゴルフゲームです。実際のゴルフの戦略性にスポットを当てて、見事に表現しています。ゴルフには2つの要素が絡みます。ひとつは"精神的"な要素です。ちょっとでも気を抜いたり、集中力が途切れると、あっという間にスコアを崩します。もう1つは"技術的"な要素です。スイング、パットはもちろん、さまざまなハザードに対するショットの正確さが要求されます。経験から来る天候の読みも必要です。
ワールドゴルフでは、自分が"精神的"な要素に影響されず(パソコンでプレーしていたら、ほとんどプレッシャーというのはないでしょうから)、"技術的"な要素だけをひたすら追求できるゴルフの楽しみを擬似体験されてくれるゲームと言えるでしょう。


コンピュータのゴルフゲーム

コンピュータ上でゴルフゲームが登場したのは、かなり初期です。というのも、ゴルフというのは、ゲームにしやすい部類だったからです。PとIとWと数字が表示できれば、クラブの種類と距離が表示できるので、文字だけしか表示できなかった初期のパソコンでも簡単にゴルフをゲームにすることができました。実際に、初期の「I/O」や「マイコンベーシックマガジン」には、いろいろなゴルフゲームが投稿されていたと思います(筆者はシャープのPC-1211というポケコン(日本で初めてのポケコン)で数字だけのゴルフゲームをプレーしていました。けっこうおもしろかったです)。

筆者の記憶では、1980年初頭に最も流行ったゴルフゲームといえば、ゲームセンターの「プロゴルフ(データイースト) 」です。このゲームは、コースを上から見下ろしたタイプのゲームで、ショットを打つと画面がスクロールしていきます。打数に制限があって、何打以上で上がれないとゲームオーバーというものでした。実はこのゲーム、そっくりなものがPC-6001で発売されていました。「リアルゴルフゲーム(T&ESOFT)」(写真)で、このゲームはたぶんT&ESOFTの処女作です。

PC8801に関して言うと、PC8001用のゲームも含めていろいろなゴルフゲームが発売されました。RAMの「カントリーゴルフ」、ハドソンの「ゴルフ狂」、T&ESOFTの「3Dゴルフシミュレーション」、テクノソフトの「ゴルフアイランド」など・・・。しかし、初期のゴルフゲームは、ただ球を転がすというだけでなにか物足りない部分が多かったのが事実てす。平面マップ型のゴルフゲーム、たとえばRAMの「カントリーゴルフ」(写真)「ゴルフアイランド」は、ただボールを飛ばして、ボールをカップに入れるということを表現してだけでした。「3Dゴルフシミュレーション」「ゴルフ狂」は3Dの視点によるゴルフゲームです。「3Dゴルフシミュレーション」は特に初期では売れたゲームで、ボールの軌道を計算して美しいグラフィックにて表示します。ただ、3Dを計算しているので、非常にスピードが遅く、ゴルフゲームというより、観賞用ゲームに近いものがありました。2Dのゴルフゲームも、3Dのゴルフゲームも、ただ距離に合わせてクラブを選択してショットをするという作業がメインで、ゴルフに付随するさまざまな条件までは残念ながら表現しきれませんでした。


筆者がPC8801のゴルフゲームで初めておもしろいと思ったのは、皮肉なことに任天堂ファミリーコンピュータの移植である「任天堂のゴルフ」(写真)でした。当時PC8801という高価なパソコンでファミコンの移植ゲームをプレーするのは、ファミコンに負けているような気がして、あまりよい気持ちはしませんでしたが、おもしろいものは、否定しようがありません。
「任天堂のゴルフ」はファミコンでもかなり売れたと思うのですが、実際のゴルフにあるさまざまな要素をゲームにうまく取りこんでいるのが特徴です。「ワールドゴルフ」と「任天堂のゴルフ」は共通点が多く、「ワールドゴルフ」の美点を書こうとすると、「任天堂のゴルフ」にも当てはまることが多いのです。実際、「ワールドゴルフ」は「任天堂のゴルフ」を十分に研究して作らてれいます(実際、作者の村守氏もそう語っています)。


ゲーム開始

前置きが長くなりましたが、ワールドゴルフの説明をします。このゲームは、トッププロ30人と順位を競い合う「トーナメントモード」、1つのホールを練習する「トレーニングモード」があります。どちらもスタートすると、名前と今日の日付の入力画面になります。この名前と日付は、ホールインワンを出したり、ベストスコアを出したときに、この日付でディスクに記録されます(実はこれがこのゲームを長い間プレーさせてくれる要因の1つでもあります)。
ゲームを開始すると、ホールの全体像が表示されます。画面は斜め上から見下ろしたような画面で、ちょっと2次元とは違います。いわゆるクォータービューとでもいうのでしょうか。この視点がこのゲームの特徴の1つです。こうすることで、2次元の要素を持ちつつ、立体感を出すことに成功しています。3Dでないのでポリゴンの複雑な計算は必要ないですし(速度的な問題から解消される)、それでいて、木や建物などの背景が3Dっぽく並ぶため、高さが生まれています。さらにフェアウェイ自体にも"地層"のように段差がついています。「任天堂のゴルフ」もちょっと上からみた角度でしたが、フェアウェイ自体に高低差はありませんでした。ワールドゴルフはいままでのゴルフゲームにない、高低差を生んだという点で、ゴルフをより実際のものに近くし、なおかつ楽しいものにしたのです。



打つまでの手順

打球を打つには、まずクラブを選択します。クラブは1WからPTまで標準的なものが用意されています。続いて方向を選択。これは「任天堂のゴルフ」の真似だと思うのですが、「十字」記号が表示されるので、打ちたい方向を指定します。続いて、スイングの強さと軌道(フック、スライス)を設定します。四角形のボードのようなものがあるので、ここで強さと曲げる度合を設定します。このボードのアイデアはなかなか秀逸だと思います(よく思いついたと思います)。
さて、ここまで決まったら、ショットです。ショットはスペースキーを押すとゲージのバーが上下するので、緑のゾーンに来たときにスペースキーをもう一度押します。赤いところで押してしまうとミスショットになります。クラブや状況によって、このゲージの幅が変わり、難易度が変わります。これはよいアイデアです。たとえば、ラフにやバンカーに入ると、緑の領域がせまくなり、ミスショットを打つ可能性が高くなるわけです。通常バンカーからウッドを使ってボールを出すということはプロでも難しいのですが、初期のコンピュータゲームでは、あっさりと出来しまうものがあって、リアル性に欠けていました(そのためにバンカーでは強制的にSWしか使えないゲームなどもありました)。ワールドゴルフで、バンカーからウッドを使ってボールを出すことは可能ですが、緑色の領域が狭くなり、大変難しくなります。この「難易度の置き換え」が非常にうまく再現できていると思います。



攻略

このゲームをプレーすると分かるのですが、飛ばす方向の十字印と実際に飛ぶ方向が予想と違ってしまい、スコアが崩すことが多いのです。これは画面が斜めになっているために目の錯覚で、違う方向を選んでしまうことが原因となっているようです。
そこで、このゲームの攻略で最も有効なのものは、すばり「定規」です。「定規」というと、「ハイパーオリンピック」で、ボタンを連打する装置に使っていたことが有名ですが、こんなところにも使い道があったのです。
クラブの選択に関してですが、クイの色(クイの色で100m、150m、200mの距離がわかる)と風を読めば、飛ぶ距離は正確に計算でき、迷うことはそれほどないでしょう。そして方向を計るときに定規を使います。定規で十字とボールを結び、正確に方向を測ります。
ラフやバンカーに入ってしまった場合は、ショットのゾーンが狭くなるので、ここは慣れと練習が必要でしょう(一番いいのは、常にフェアウェイをキープすることですが、なかなか難しいです)。また、グリーンに近づくと画面が拡大表示されるのですが、ここで落とし穴があります。全体画面と拡大画面では、ショットしたときの距離感が変わってきます。
しかしゲームに慣れて距離感をつかみ、定規で正確に方向を測れば、「-18」はだせます。あとはいかにチップインを狙うかでしょう。実際のゴルフでは滅多にない"チップイン"がこのゲームは多発します。これもひとつの魅力(爽快感)でしょう。



エキストラホールとセーブ

このゲーム、トーナメントモードでは、他の有名プロたちとスコアを競い合います。各ホールが終了すると、スコアが表示され、右下に他のプロたちのスコアと現在の順位が表示されます。このアイデアもプレーヤーを燃えさせます。名前はゴルフが好きな人ならば見たことのあるような名前ばかりです。そんなプロたちと競えるのです。さらに1ホールごとに各プレーヤーがスコアを延ばしたり、乱したりするのです。
プロたちはいつも平均的なスコアを出していますが、こちらがあまりに高いスコアを出すと、プロたちも発奮するのか、イーグルやアルバトロスをバシバシとって追い上げてきます(すごいやつら!)。
最終的に10位以内に入ると、エキストラホールが楽しめます。順位が1つあがるごとにプレイできるホールの数が増えていき(9,10位は19ホールまで)、最終的には1位にならないとすべてのホールを見ることはできません。このエキストラホール、島の中にグリーンがあったり、ともかくトリッキーで挑戦する価値は十分にあるでしょう。また、ディスクドライブという媒体を活かして、エキストラホールの状況は保存されます。また、ドラコンの距離、チップインしたときの最長距離、ホールインワンの日時なども記録されます。プレーをはじめたときの名前入力、日付入力はここで有効になります。



最後に

ゴルフは実にいろいろな要素が絡み合った頭脳的なスポーツです。いや、筆者はゴルフはスポーツというより、精神的要素が大きい娯楽ではないかと考えています。実際にプレーすると体も疲れますが、精神的にもけっこう疲れます。それは体を動かすこと以上に、周りの状況を的確に判断し、常に集中してプレーをしなければならないからです。
ゴルフをテレビゲームにした場合、精神的な疲れというのはありません。純粋にゴルフの戦略部分を楽しめます。そして、ゴルフというのはその戦略部分が本当によく出来ているスポーツなのだということを教えてくれたのも、このゲームです。
実際のゴルフのさまざまな要素を、どのようにゲームに昇華させるか。この点において「ワールドゴルフ」は非常にうまくできていたと思います。たとえば、前にも書いたバンカーやラフに入ったときの難易度のアップを、メーターの幅を変えることによって表現しているのは見事です。実際に難しいことは、ゲーム中でも違う手段で(しかもゲームとしておもしろくなるように)難しくなるように、再現されているのがすばらしいと思うのです。また段差の表現や、打力と方向の設定の仕方、ボールのリアルな動きなど、どこにも手を抜いていないところに、とても好感がもてます。
ワールドゴルフは地味なゲームなので、88のゲームを語る上で忘れがちです。しかし、このゲームは中期の88のゲームでは完成度はトップクラスに位置するものだと思います。



作者さん

作者は、村守将史さん。当時横浜国立大学の工学部4年生。彼とエニックスの結びつきは、ワールドゴルフの原型となるゴルフゲームを持ちこんだことから始まる。1958年の正月にX1を購入。BASICを一通り覚えたあとに単純な野球のノックゲームを作り、エニックスのコンテストに持ちこんで直下談判。しかし、当然このようなものが受け入れられるわけもなかった。しかし、エニックスの曽根氏の意向に従い、ボール1つ動かせばよいゴルフゲームに転身しようと決意。それから半年くらいルールを調べながら制作した。当時エニックスからはまだゴルフゲームが発売されていなかった。

発売されたゲームはX1用の「No.1ゴルフ」というゲーム(88版は未発売)。けっこうマイナーなソフトなので、プレーした人もあまりいないと思われる(筆者もプレーしたことはなし)。このゲームがワールドゴルフの前身となっていることは確かである。ただし、内容は本人曰く、「社内コンペで素人がコースを回るとどうなるか?」という感じのゲームだったらしいので、かなりワールドゴルフとは違っていたようだ。
ワールドゴルフを作ったのは、「任天堂のゴルフ」に刺激を受けたかららしい(まぁどうりで似ているわけです)。「No.1ゴルフ」の印税で88mk2を購入した村守氏は、「任天堂のゴルフ」を凌ぐゲームを作るために、マシン語を覚え、ゴルフ番組を見、練習場へ行ってボールを打ったりと涙ぐましい努力をしたようである。
ワールドゴルフは制作に8ヶ月を費やし、その中でもボールの動きに3ヶ月を費やしている。ボールの動きをシミュレートするのは、微分積分を駆使し、複雑な関数計算をしている。これがワールドゴルフのボールのリアルな軌道と動きに結びついているというわけである。
コースはなんとすべて現実にあるものをモデルにしている(エキストラコースを除く)。また、そのコースで実際にプレーしたときと同じような攻め方になるように、バンカーの深さや木の高さなどを2ヶ月かけて調整していたという。リアルな理由はこんなところにあったのである。
彼がこのゲームでもっとも自慢する部分は、コースのアンジュレーション(傾斜)、そしてトーナメントというアイデアであった。ちなみに村守さん、プレイステーションの「みんなのゴルフ」を制作されているとか。

参考文献:月刊テクノポリス
村守氏の写真:エニックスの「No.1ゴルフ」のパッケージより引用

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