デウリング
ビクター音楽産業より1987年2月に発売
アドベンチャーゲーム衰退の時期
1983年にアップルのアドベンチャーゲームが日本に移植され、日本は1984年代まではアドベンチャーゲームの隆盛時期であった。しかし、この当時の「言葉を入力する」タイプのアドベンチャーゲームは次第にプレーヤーに飽きられ、ロールプレイングゲームが発展したこともあり、ゲームの主役は1985年代から完全にロールプレイングゲームになっていった。
アドベンチャーゲームは下火になったが、いくつか秀作アドベンチャーゲームは存在した。たとえば、スクウェアの「Will」、「アルファ」、エニックスの「軽井沢誘拐案内」、「北斗の拳」、アスキーの「賢者の遺言」、リバーヒルソフトの「殺人倶楽部」などである。この時期のアドベンチャーはまだコマンドを入力するタイプも残っていたし、コマンドを選択する新しいタイプも出始めていた。はたしてどちらの形式がよいのか、ソフトハウスもいろいろと模索していたのだろう。
そんな中、名作ゲームといわないまでも、なかなかの出来のソフトがあった。それがこの「デウリング」である。
デウリングの概要
デウリングは、オカルト路線のアドベンチャーゲームである。ストーリーはこうである。「ある夏の寝苦しい夜、君がようやく眠りの入り口にたどり着いた頃、奇妙な胸騒ぎに目を覚ますと、亡霊が君の枕もとに立っていた。それは君が学生時代にお世話になった恩師で今はヨーロッパにいるはずのG・エドバーグ博士であった。博士が涙ながらに訴えるには、自分はドラキュラに殺されたというのだ。そして彼の愛娘アーニャはドラキュラにとらえられ、彼の館はいまや妖怪たちの住む巣となり、見る影もなく変わり果ててしまった。アーニャは君のことはよくしっている。とてもかわいい子で博士一家が在日したときもデートをしたこともある。娘を助けてほしい、手掛かりは召使いだけだ・・。こうして亡霊は闇の中へ消えていった。君はヨーロッパに旅立つことにした。考えるだけで恐ろしいことだが、ドラキュラを倒し、アーニャを救い出さなければ・・・。」(オープニングより抜粋)
さて、こんなストーリーで始まるこの物語、プレーヤーがヨーロッパに行き、博士の家の前にきたところからゲームがスタートする。
このゲームはコマンド選択方式と、コマンド入力方式が合体した形式を取っている。これは、デウリングの最大の特徴だろう。基本的に命令や行動はすべて画面右に表示されるコマンドを選択することにより、実行していくのだが、ある場面に遭遇すると文字入力を要求される。ここだけはコマンドを文字で入力しなければならない。これはなかなかよいアイデアだ。コマンド入力の煩雑さはユーザーも周知のとおりだった(コマンド入力のマニアも多くいたが)。一方、コマンド選択式の欠点は、とりあえず選択していればゲームが勝手に終了してしまうという点にある。これを解決する手っ取り早い方法として、一部にコマンド入力を求めるというのは、すぐに思いつきそうなアイデアなのだが、なぜかこの方式を採用しているアドベンチャーゲームはほとんど記憶にない。
そして、このゲームにはこの方式がうまく溶け込んでいる。基本的な行動はほとんど選択で、入力する部分は、非常に話のキーとなる部分だけの数ヶ所である(鏡の前の場面や、祭壇の前の場面)。そのほかにはクイズの回答や呪文を入力するところがこれに当たる。クイズや呪文は、選択式にするとすぐに答えがわかってしまうので、当然といえば当然だが。コマンド入力場面は、数回コマンド入力を失敗すると自動的にコマンド選択式の場面に戻るようになっていて、両方の操作でプレイヤーが迷うようなことはない。
まるでゲームブック
デウリングはコマンド選択時のコマンドが、ゲームブックのように「~と言ってみる」とか「~に隠れて見る」とか具体的な行動を示している。従来のコマンド選択式ゲームでは、「見る」「調べる」「話す」といった、コマンド入力方式で使用したコマンドを、単に選択式にしてゲームを進行する場合がほとんどであった。このようなゲームに共通に言えることは、選択できるコマンドが多いために、プレーヤーが無駄なコマンドまでいちいち試し、無駄な時間が発生して、ゲームが冗長的になってしまうということであった。しかし、このゲームはほとんど2択や3択でゲームが進むため、非常にテンポがよい。ノリとしては、当時流行っていたゲームブックのように、具体的な行動を選択してその目的のページに進むような感じなのである。ただ、この形式では難易度的に簡単になる傾向があるのだが、デウリングの場合は、それを死と乱数によってカバーしている。このゲームは、中期のアドベンチャーとしては珍しくよく死ぬゲームである。"死"という要素はあまり入れ過ぎるとゲームをつまらなくする傾向が強いのだが、このゲームでは"死"が唐突に起こるというわけではなく(唐突に死ぬ場合も少なからずはあるが)、死ぬまでの過程をそれなりに楽しめたりする。また、この死があるからこそ、このゲームがオカルトとして生きている。
ちなみに初期のアドベンチャーゲームで、「デーモンズリング」(日本ファルコム)も非常によく死ぬゲームであったが、"死"があまりに唐突でぶっきらぼうな演出だった。この時期になってようやく「デウリング」のように"死"という要素が演出的を楽しめるところまでアドベンチャーゲームが発展したとも言えるだろう。
乱数の方はちょっといただけない部分もあるのだが(たとえばトランプで大きい数値がでたら生き残れるとか)、これがないと最後のドラキュラの場面などは簡単に終わってしまうので、開発側が苦肉の策として入れたような印象も残る。
ブタもこんなに怖くなる
このゲームは夜に一人でやっているとかなり怖い。このゲームは先にも書いたが、非常によく死ぬゲームである。よってやたらとゲーム中に緊迫感がある。この緊迫感をグラフィック、音、演出で表現している。このゲームは、無駄なコマンドがないため、コマンドひとつで事態はどんどん進展する。そして何が起きるのか全く検討がつかないのだ。いきなりミイラ男が2階から降りてきて(音が怖い)、「戸棚に隠れる」か「戦う」か、選択を迫られる。「戸棚に隠れた」ときのスリリングさなどはなかなかのものだ。まぁどちらを選んでもそれなりにストーリーは進行するのだが、もちろんこうやった方が安全という選択はある(ただし正解は1つではない)。だけれどもついつい「次はこっちを選択」と両方ともやってしまうのがこのゲームのいいところだ。このような選択場面の連続でこのゲームは成り立っているので、場面数は少ないが、分岐が多いためにプレイヤーを飽きさせない。たぶん解き終えた今でも、いまだに見たことがない話が残っていると思う。
このゲーム、基本的に音楽はない。しかし、この無音が怖い。そしてなにかをするたびに必ずちょっとした効果音が入る。FM音源をそれほど駆使しているとは思えない「2流の音」なのだが、それがいい具合に入ってくるのである。
このゲームは全体的には怖いのだが、ちょっとしたギャグがたくさんはいっていて、このゲームをさらに魅力的なものにしている。ブタのコックはとても怖いのだが、こちらが皿洗いのバイトだと下手に出れば、急にかわいくなってアイテムをくれたりする。カラスのおっかない化け物がクイズを出してくるのだが、これに答えると、急にカラスは自信をなくしてかわいくなってしまう。また、呪文が「ネグソをするな」の逆さ読みだったり、なんだかよくわからない世界なのだが、怖い中にホッとできる息抜きの要素があるのは、かなり好みである。
ビクター音産ゲー
デウリングの発売元であるビクター音楽産業は、「新竹取物語」以降、かなりのペースでソフトを発売していたのだが、どれもいまひとつパッとしたものがない。パズルゲームをひねった「モールモール」、リアルタイム性のクイズゲーム「トリビアQ」など、アイデアや、やろうとしていることは目新しいのだが、技術が伴っていなかったり、ツメが甘かったりで、今みてもこれといったソフトがなく、カルト的なゲームが多い。デウリングもカルト的なゲームの仲間入りをしている部類だとは思うが、このゲームは他のビクター物と比べて高い完成度を持っていたことは確かである(たまたま外注先がよかったのかもしれないのだが)。
その完成度はシナリオと演出、グラフィックによるものだ。たとえば、先に書いたゲームブックのような進行、コマンドの選択/入力の共存、音の演出などだ。技術的にみれば、やはりいまいちだ。グラフィックのロードは相変わらず遅い。しかし、グラフィックを小さくして、読み込み時間をカバーしたり、それなりの工夫が見られる。こんな細かい部分をしっかり作ったからこそ生まれた秀作なのだろう。
最後に
最後にこのゲームの欠点を。このゲームは、コマンドを選択と直接入力に分けて、非常に難易度的にもいい具合になっているのだが、乱数だけはいただけない。しかもこの乱数はかなり重要な場面で使われているので、最後の対決が乱数では興ざめしてしまった人も多かっただろう。また、敵のキャラはどれもいい味を出しているのだが、肝心のドラキュラが怖いのか、ギャグなのかいまいちよく分からない、迫力不足だったのも残念である。まぁそれはさておき、このゲームは欠点を補って余りある美点があると思うので、あまり気にならないといえば、気にならないのだが・・。
このゲームの良さを一言でいうと、「テンポの良さ」かもしれない。ゲームブック式で次々に選択を迫られる展開のために、無駄なコマンドがない。また、オカルト路線にしたために、「死」つまりゲームオーバーを簡単に設定することができ、それが選択式の難点である「簡単に解ける」というジレンマを解消している。また、ゲームのテンポがよく、演出がうまく行っているために、死んでもまたやり直して再挑戦しようという気を起こさせてくれる。まだプレイしたことがない方、是非1度挑戦することをお薦めします。
「デウリング」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はビクター音楽産業に帰属します。