ソーサリアン by 成川氏


日本ファルコムより1987年12月に発売


どんなゲーム?

『ソーサリアン』は1987年、日本ファルコムが満を持して世に送り出した断面横スクロール型のロールプレイングゲームです。この作品はドラゴンスレイヤーシリーズの1つであり、『ドラゴンスレイヤー』『ザナドゥ』『ロマンシア』、『ドラスレファミリー』に続く第5作目にあたりますが、特にストーリー上の繋がりはありません(以降にもドラゴンスレイヤーシリーズ第6作目として『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』、第7作目として『ロードモナーク』があります)。

同社のもう一つの人気シリーズ『イース』は大作の平面型ロールプレイングゲームでしたが、『ソーサリアン』は当時の流行に逆行するかのような短編のクエスト(シナリオ)をクリアしてゆくタイプのゲームでした。15本のシナリオ、60曲のBGM、120種類(!)の魔法と、ボリュームも満点です(実は『ソーサリアン』の魔法は120種類どころではなく、システム上はなんと約20000種類存在します)。


ソーサリアンを作った人たち

メインプログラマーに木屋善夫(『英雄伝説2』までの『ドラゴンスレイヤー』シリーズを手掛ける。現在、日本アプリケーション株式会社に在籍('97.10現在)。『大逆鱗』シリーズをプロデュース)、音楽担当に古代祐三(『イース』シリーズ等の日本ファルコム作品の他、多くのゲームミュージックを手掛ける。現在(株)エインシャントに所属)、シナリオの何本かを富一成(クリスタルソフトにて『夢幻の心臓』シリーズを制作。現スタジオアレックス代表取締役。メガドライブ『ルナ・ザ・シルバースター』を制作)や都築和彦(イラスト・コミック等の分野で活躍中)、パッケージグラフィックには米田仁士などなど、スタッフもきら星のごとき一流のスタッフが揃い、まさに日本ファルコム渾身の一作と言える作品でした。



ソーサリアン発売当時の反響・評価

各パソコンゲーム雑誌はこぞって大々的に取り上げ、前評判も相当高いものでした。数多くのファルコムファン、ロールプレイングゲームファンの期待を背負って発売された『ソーサリアン』ですが、多くのプレイヤーは最初のうちこのゲームにきっと戸惑ったことと思います。というのも『ソーサリアン』のゲームシステムは、当時の忍耐強いパソコンゲーマーにとってもかなり複雑怪奇なもので、マニュアルもプレイするには少し不十分であったからです。マニュアルの大半は『フォーチュンクエスト』シリーズの深沢美潮(いわゆるファズボール深沢。当時『コンプティーク』誌上にコラムを連載していた)が手掛けており、ストーリーの面で饒舌ではないこのゲームを盛り立てる努力が窺え、決して手抜きでは無かったのですが、ゲーム内容を十分に理解させるには少々物足りなかったのも事実です。

同時期には、日本ファルコムのライバル的存在であったT&ESOFTも人気シリーズの大作ロールプレイングゲーム『ハイドライド3』をリリースしました。2つの大作ロールプレイングをめぐり、日本ファルコムとT&ESOFTの対決、木屋善夫VS内藤時浩(ハイドライドシリーズのメインプログラマ)の対決の様相を呈していました。『ハイドライド3』もまた非常に完成度の高い作品であり、T&ESOFTに軍配を挙げる人も少なくなかったのですが、パソコンゲーム雑誌(特に『コンプティーク』)に『ソーサリアン』の攻略記事や関連記事が何ヶ月にもわたって掲載され、『ソーサリアン』のゲームの奥の深さが理解されてゆきました。

日本ファルコムからも追加ソフト等も発売され、さらにはPC-9801やPC-88VA、MSXなどのパソコンをはじめ、メガドライブやPC-ENGINEといったコンシューマー機にも移植され、結果的に息の長い人気を得るに至りました。



「追加シナリオ」と「ユーティリティ」

『ソーサリアン』の息の長い人気を支えた最大の特徴とも言えるのが「追加シナリオ」と「ユーティリティ」というしくみです。それ以前にも、シナリオディスクを差し替えることによりシナリオを追加できるゲームはありましたが(古いものではHOT・Bの『カレイドスコープ』等)、『ソーサリアン』ほど数多くの追加シナリオが発売されたものはありませんでした。ファルコムからは『追加シナリオ Vol.1』・『戦国ソーサリアン』・『ピラミッドソーサリアン』が発売され、それぞれが個性のあるクオリティの高いものでした。ファルコム以外からも、今はなきソフトベンダーTAKERUブランドから『宇宙からの来訪者』『ギルガメッシュソーサリアン』・『セレクテッドソーサリアン』が発売されました。特に『セレクテッドソーサリアン』は「コンプティーク」誌上で開催されたシナリオコンテストの入選作をゲーム化したもので、『ソーサリアン』の強烈な人気が実現させた一大企画でした。コンテストの審査には谷山浩子や矢野徹等があたっています。

一方「ユーティリティ」として発売されたのは1つだけでしたが、『ソーサリアン』単体では得られない魔法やアイテムを提供したり、持ちきれないアイテムの保管ができたりと、『ソーサリアン』世界により深く浸りたい熱烈なファンにとっては必須のアイテムでした。



ソーサリアンのメディアミックス展開

最近では珍しくありませんが『ソーサリアン』は当時の角川書店のメディアミックス展開の流れを受けて、小説およびコミックシリーズが出ています。小説は角川スニーカー文庫、松枝蔵人著『ソーサリアン創世記』。これは現在でも入手可能です。コミックシリーズは現在では入手は困難と思われますが、『不老長寿の水』を『フォーチュンクエスト』の迎夏生(そういえば迎夏生さんはT&EソフトのRPG『ルーンワース』のコミックも描いてますね)、『失われたタリスマン』を『EAT-MAN』の吉富昭二が描いており、各々の初期の作風がうかがえる興味深い作品です。



ソーサリアンを今楽しむには

『ソーサリアン』には根強いファンが多く、最近では『ソーサリアン』を Windows95上に移植した復刻版『ソーサリアンフォーエバー』が発売されました。グラフィックは256色に、BGMはMIDI・CD-DAにグレードアップし、シナリオも新たに作られています。ただ残念なことに、シナリオが少なく、追加シナリオやユーティリティの発売もアナウンスされていないことなどから、特にオリジナル『ソーサリアン』ファンの評価はあまり高くはないようです。

古代祐三が手掛けたこともあり、『ソーサリアン』を直接体験したことのない層からも評価の高い『ソーサリアン』のミュージックは、キングレコードのファルコムレーベルの『ソーサリアンフォーエバーI』・『ソーサリアンフォーエバーII』・『MIDIピアノソーサリアンフォーエバー』で聴けるほか、ファルコムからもMIDIデータ集が発売されています。



ソーサリアンの魅力

『ソーサリアン』のどこが面白いのか、私は上手に説明できる自信がありません。ここまで延々と賛辞を書き連ねた挙げ句に変なことを言うようですが、もしかしたら『ソーサリアン』は「面白くない」のかもしれません。

『ソーサリアン』の魅力はまさにそのシステムの難解さ・複雑さ自体にあるのだと主張する人もいます。しかし当時このゲームの虜になっていたプレイヤーの多くはあるテクニック(キャラクターを不老長寿化させる)を使ってその難解さ・複雑さを免れていたはずです。また、シナリオの面白さを指摘する人もいます。確かに良くできたシナリオも少なくありません。しかし、それだけで『ソーサリアン』を取り巻く当時の熱気を説明できるとも思えません。

面白いか否かは別として、『ソーサリアン』の人気が2年以上にも渡って続いていたのはまぎれもない事実です。この事実が示すことはおそらく『ソーサリアン』が提供する世界の「居心地の良さ」だと思います。

確かに『ソーサリアン』はとっつきの悪いゲームです。しかし壁を乗り越えてしまえば、その中は非常に快適な空間なのです。この空間の「居心地の良さ」は、感動的ではあるが一本道のRPG(それが悪いというわけではありません)や、自由度は高いが無機的なRPGとは違った快適さであり、複雑なシステムと重厚すぎないシナリオの微妙なバランスがもたらす『ソーサリアン』特有の居心地の良さなのでしょう。

これから書くことは言わばネタバレなのですが、別に知ってしまっても全くかまわない事だと私は思うので敢えて書きます。『ソーサリアン』の5段階全ての難易度のシナリオをクリアすると、プレイヤーにはドラゴンが住まう洞窟への挑戦権が与えられます。そして、その挑戦を見事乗り越えた時、本当のエンディングが待っています。しかし、そのエンディングは何ということもないものです。どんでん返しでもなければ大団円でもなく、淡々と流れてゆくだけのものです。でも、本当に素敵な、本当に見事なエンディングです。『ソーサリアン』の魅力をうまく説明する言葉が無いのと同じように、このエンディングの素晴らしさを説明する言葉を私は持っていません。「達成感」という言葉も間違いではないでしょうが、それが全てを説明する言葉ではないことを私は確信しています。

つまりは、ソーサリアンはそういうゲームなんです。

文章: 成川氏

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