アルフォス


エニックスより1983年6月に発売


1つの革命

「アルフォス」は、「ドアドア」同様、「パソコンゲームでここまでできる」ことを証明した初期の傑作である。これはアーケードゲームでゼビウスが、キャラクターの色の使い方と16面に及ぶパターンの豊富さ、そしてバックグラウンドストーリー、敵の特徴づけなど、さまざまな面で革新的であったのと同様、パソコンゲームではその模倣であるアルフォスが奇しくも別の意味での革新をもたらしたのである。


88の遅すぎるスクロール

「PC88ではフルカラー(8色)スクロールゲームはできない」と言われてきた。これは88がハードで「スクロール機能」を装備していないこと、重ね合わせをしないで済む「スプライト機能」を装備していないこと、そして処理速度が大変遅い(初代8801はZ80コンパチで4MHz、実質は2MHz以下)という理由による。早い話、88でゼビウスを作ろうとした場合、自機や敵機を背景と重ね合わせる処理や、背景のスクロール処理をすべてプログラムでリアルタイムに処理しなければならないため、遅すぎてゲームにならないということである。


※88のグラフィック表示に関して
88のグラフィックは、ビットマップ方式と呼ばれ、画面の1ドットがメモリの1ビットに対応している。88で画面に点を表示する場合、VRAMという領域に「1」というデータを書き込むことによって行われる。「0」だと点が表示されていない状態になる。たとえば、画面全てを青く表示したかったら、VRAMの1つのプレーン(VRAMには3つプレーンがあり、この組み合わせで8色の色がだせる)をすべて「1」で埋めればよい。色の組み合わせは3枚のプレーンの組み合わせによる。(図の左側は各プレーン(GRB)と表示される色の対応を示したもの:PC-Magazine91年1月号より)

一方、ファミコンなどのゲーム機は、背景画面(BG画面)とキャラクター表示用のスプライトが別に用意されていて、88とはグラフィックの表示の仕方が異なる。背景画面にグラフィックの部品番号を書き込むと、ハードウェアがグラフィックデータを勝手に参照して画面に表示してくれる。また、スクロールもハードウェアがドット単位でやってくれるため、書き込まれている部品番号を一行ずつ書き換えるなんてことはしないで済む。キャラクター表示にしても、スプラストにキャラクタを構成するグラフィックデータを定義しておけば、後はスプライト番号を指定するだけで画面の任意の場所に重ねあわせて表示してくれる。
88の場合、背景画面もスプライトも用意されていない。88の場合、背景を表示しようとしたら、メモリのある空間(仮想画面と呼ぶ)に書き込まれている背景の部品番号と部品データを読み込み、表示する画面の位置を計算し、そこから1バイト単位にVRAMにデータを転送するという一連の作業をプログラム中で行わなければならない。また、キャラクターに関しても、スプライトがないため、そのままVRAM上に書き込むと背景が消えてしまう。そこで、キャラクターと背景を重ねあわせする処理が必要になる。


アルフォスを作った人

アルフォスを制作したのは、エニックスの第一回ホビープログラムコンテストであの「ドアドア」を押しのけて最優秀賞に輝いた森田和郎氏である。このとき入選したゲームは「森田のバトルフィールド」という後の「大戦略(システムソフト)」を彷彿とさせるゲームであった。森田氏自身は「森田のバトルフィールド」を制作するときに、スクロールルーチンに時間を取られ、肝心の思考ルーチンに時間をかけられなかったために、満足できるものが作れなかったという。この作品は最優秀に輝いたものの、話題は「ドアドア」に独占された。
そして森田氏は、当時88で無理と言われていた高速スクロールゲームに挑戦することになる。アルフォスを制作したきっかけはゼビウスの影響もあるだろうが、「無理だと言われればやってみたくなる」持ち前の性格と、プレーンを利用した重ねあわせのテクニックを思い付いたからだろう。森田氏は、元々アスキー主催のマイクロオセロリーグ(一番強いオセロプログラムを作る大会)で何度も優勝しており、将棋や碁などの段位をもっていたことから、アルゴリズムの森田と異名をとる逸材であった。オセロの強さは思考するアルゴリズムの強さであり、「森田のバトルフィールド」も、そのアルゴリズムである思考を優先したゲームであった。
ところが、アルフォスは、アルゴリズムよりもスピードを重視したシューティングゲームである。それはいままでのアルゴリズム一辺倒のゲームとは勝手が違うものだ。それをどのように克服していったのであろうか?


パレットチェンジ

森田氏が考えたキャラクターの重ね合わせ方法は、3つあるプレーンのうち、1枚を背景に、もう2枚をキャラクターに当てたらどうか?というものであった(右図の[b]の例)。88のプレーンは、まるで3枚の独立した背景のように使えるのである。図のbの移動キャラクタに注目して欲しい。黒、赤、白がそれぞれ2色設定されている。つまりBプレーンの状態によらず、常に黒・赤・白が出るということを意味している。G,Rプレーンに移動キャラクタの事だけを考えて書き込んでやれば、背景のBプレーンと自動合成されたように見えるのである。
このアイデアはプレーンという概念が理解できる人ならば、発想できたもので、特異なものではない。むしろ、1プレーンでどのように色を表現できるかというところが難しかったのである。1プレーンだと「0」か「1」の2色でしか色を表現できない。背景をたったの2色で表現できるものだろうか?


アルフォスの背景をよく見て欲しい。背景は「黄」と「青」の2色で成り立っている。アルフォスの背景には、灰色に見える「地面」と海の「青」、道の「黄色」の3つだ。「地面」の灰色は、青と黄のディザ(交互にならべる)で表現している。拡大してみると一目瞭然である。この色の表現は実にゲームにマッチングした。実は、この色の使い方は、後にも「サンダーフォース」「ザナドゥ」「SeeNa」などに使用されたのである。残りの2枚のプレーンで、黒、赤、白、透明色を使い、自機や敵機を表現している。これで面倒な重ねあわせ処理の呪縛から逃れることができたのである。




2ドットスクロール

アルフォスはその滑らかなスクロールも特徴だ。スクロールを滑らかにするには、一度に移動するドット数が少なければ少ない程よい。アルフォスは縦方向に2ドットずつスクロールしている。2ドットというとかなり細かい単位で、縦200ラインとすると(200÷2)で100ブロックを同時に移動させなければならず、かなり処理が重いと予想されるが、実際には、左図にあるように縦方向に同じ模様が続いている部分は書き換えをしなくても済むのである。これがスピード早い原因の一つでもある。1ドット単位にしなかったのは、1ラインでは多くのパターンの部品(特に50%のアミ模様など)が作れなく、背景が単純になるという理由からだろう。この後発売された「ゼノン」も2ドットスクロールで、アミ模様やワダチなどを2ドット単位で見事に表現している。


ゲームの方は?

アルフォスが発売されると、秋葉原などの各マイコンショップでデモをしはじめた。当時ちょうどゼビウスが流行していたことから、ゲームマニアたちはアルフォスに釘付けとなった。「あのゼビウスがパソコンで動いている!」 いままで見たこともない88の高解像を使ったスクロールゲーム、しかも高速だ。「ドアドア」に続き、このアルフォスも88の普及台数の促進に大いに貢献したゲームであった。
一方、ゼビウスマニアは、「所詮似ているだけで全く別のゲーム」「背景がさみしい」「敵機の種類が少ない」「アンドアジェネシスが小さい」だのとゲーム性を大いに批判したが、このゲームをゼビウスと比較すること自体が間違っていると思う。なぜならアルフォスは、ゼビウスを88でどこまで再現できるかに挑戦したゲームではないからである。


最後に

「ゼビウス」がそのグラフィックや地形パターン(ナスカの地上絵など)、シナリオなどの設定自体が新鮮であり、それが以後のアーケードゲームに大きな影響を与えたゲームならば、「アルフォス」はそのスクロール手法(技術)において、後の88の多くのゲームに多大な影響を与えたものといえる。森田はこのあと、「暗黒城」のペイントルーチン作成や、将棋ゲームなど、ひたすらアルゴリズムにこだわっていくが、ランダムハウス設立後、「リグラス」で再びすばらしいフルカラースクロールゲームをみせてくれた。
森田氏ほど、自分の「アルゴリズム」にこだわり、一見して不可能に思えることに果敢にチャンレンジをした人はいないと思う。そしてその精神が初期の88のゲームを牽引し、さらに後の多数の秀作ゲームに多大な影響を与えていくことになった。PC88のゲームを語る上で、森田氏の存在は絶対に欠かすことができない1人だろう。

PC-Magazine 1991年1月号 P.74より一部引用
森田氏の写真:アルフォスのパッケージより引用

「アルフォス」に関連するすべての画面写真、パッケージ写真の著作権はエニックスに帰属します。